第14話 次元の向こう側

「異次元の住人? どっちかっていうとその話が異次元なんですけど?」



 先日、授業中に起こったわけのわからない出来事、あのとき助けてくれた男は後日、下校中の私の前に現れた。グレーのパーカーにジーンズという、ごく普通の出で立ちで、最初は誰かわからなかった。まあ、あのときと同じダイバースーツ擬きにゴーグルの姿でいたら気付いても無視していたけど……。


 時が止まった教室で謎の男に襲われた私は、彼に助けられた。そのとき彼は数日以内にもう一度会いに来る、と言い残してその場から消えた。


 正確には彼が話終えた後に一度瞬きをすると、周りは元に戻っていて、教室も先生を同級生も普通に動き出していた。私だけが止まったときの世界で四つん這いになっていたので、そのままの姿で元通りになり、みんなに笑われてしまった。私を助けてくれた彼の姿はそこにはなかった。


 それから3日後の今日、彼は約束通り私の前に現れた。彼は、あの時の事情を説明する、と言って帰り道の途中にある小さな公園に入っていった。缶ジュースを一本手渡された。私の好きなオレンジジュースだ。彼もジュースを片手にベンチに腰を掛けたので、私もその隣に座る。1.5人分くらいのスペースを空けて横に腰を下ろした。


「急にこんなこと言われて、びっくりするかもしれないけど、この世界には君たちが知覚できない異次元の世界が存在する」


 彼はこんな感じで説明を始めた。当然驚きはするのだけど、前に体験したことがすでに「異次元」レベルでの驚きだったので、驚きのレベルは低い方だったかもしれない。


「普通、異次元の世界は、知覚できなければ互いに干渉もできない。だから気にする必要すらなかったんだ」


「見えなくて、お互いになんの影響もないなら、それって『無い』のと一緒じゃないの?」


「君の言う通りだよ。『無い』のと同義だった。異次元にはそっち側に住んでいる人がいてね。本来、その人たちとこちらの人が接触するなんてありえなかった」


 異次元の人……あの黒のダイバースーツがそうなのだろうか。だとしたら、ここにいる彼はどっちなのだろう?


「ところがだ。異次元の方で、こちら側に干渉する手段を発見した人がいてね。しかも、それを悪用することを思い付いてしまったんだ」


「……悪用ってなによ?」


 難しい技術の話はあんまり興味ないけど、「悪用」という言葉だけは気になった。


「きっちり説明すると複雑なんだけどね……。簡単に言うと、エネルギー確保かな? 異次元の向こうの人にとって、こちら側の人は発電所の燃料になるってイメージだよ」


「なにそれ!? 私らが電池か石油みたいなものってこと?」


「平たく言うとそういう感じだね。その『電池』を取るために異次元の連中はこちら側に干渉してくるんだ。それがこの前、君が巻き込まれた出来事だね」


「うーん……、わかったようなわからないような、なんだけど、あの時間が止まってたみたいなのは?」


「異次元の連中が干渉してきた空間は、そこだけ切り取られたようになるんだ。その空間ではこちら側の時間は停止する。だが、やつらはそこでも動けるんだ」


「なにそれ!? そんなのやりたい放題じゃない!?」


「そ! やりたい放題。けどね、どうやらこっちの世界でもごく一部、それを認知して動ける人がいるみたいなんだ」


「それって……ひょっとして?」


 私はゆっくりと自分の顔のあたりを指差した。


「そういうこと! あ、ちなみに僕もこっちの住人だよ。だから君と同じ感じだね」


 彼はそこから異次元の世界の話をしてくれた。向こうの世界は、深刻なエネルギー問題を抱えているらしい。それを解決する手段として、次元の向こう側にいる人間を燃料に使う方法を思い付いた人がいる。同時に別次元に干渉する方法もだ。


 それについて、エネルギー問題を解決するために動く人たちと、無関係の世界の人を巻き込むのに反対する人たちとで争いが起こってしまったようである。


「双方の立場の人がこちらの世界を巡って戦っている間に、どうやらこちら側の世界でも別次元を認知できる人がいることに気付いたようでね。それが僕や君ってわけだ」


「それが私の『才能』なの?」


「異次元からの干渉を認知できる人は、時が止まった空間で普通に活動できる。そして、訓練をしたら、その空間に限ってだけど、高速移動できたり、空中に浮かんだり、衝撃波を撃てるようになったりするんだ。だから『才能』って言われてるね」


 まるで超能力者みたいだ。怖いけど、ちょっとだけわくわくもしてきた。


「僕も偶然、才能を見出されてから訓練を受けてね。そういった特殊な力をちょっとは使える」


「私もその訓練て受けられる?」


「君が望むなら、きっと受けられると思う。才能がある人の存在自体が貴重だからね。僕は自分の住むこの世界を守るために、異次元からくるやつらと戦っているんだ」


 なんだか本当にわけのわからないことに巻き込まれたみたいだ。この辺りで実は全部ドッキリでした! と言われた方がまだ信じられるくらいだ。だけど、この時の私はすでに、自分が特別な才能の持ち主、という魅力に憑りつかれていた。

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