第4話

 初代から数えて四代続いている服部半蔵だが、室町時代末期から戦国大名として強大化していく徳川氏に、数々の軍歴で最大級の貢献を果たしたのは二代目である。その父二代目の死に伴い、鉄砲奉行の役目も引き継ぎ三代目となったこの半蔵は徳川秀忠に江戸で十年ほど仕えたが、配下の忍者組織の内紛と抵抗が因で改易されてしまう。そして弟が四代目を襲名するのだが、不運なことにこの弟も数年前に、舅で佐渡奉行を務めていた大久保長安が金山経営で不正蓄財の汚職に染ったことから改易されてしまった。いわば服部半蔵の三代目と四代目は兄弟揃って改易の憂き目に遭っているのだ。ただ不幸中の幸いだったのは、弟の四代目は越後国の村上藩に仕え厚遇されていることと、三代目の彼もまた舅が徳川家康の義弟で山城国の伏見藩主松平定勝であった為、長く蟄居の身に甘んじたが、ここ数年は伏見藩で家臣を勤めている。紆余曲折はあっても恵まれた人生であり、困難に直面した時にこの兄弟を救ったのは、譜代家臣で徳川十六神将の一人でもあった父の二代目服部半蔵の功績や威光であろう。


 何があっても暗殺を阻止するのだ。亡き父の顔に泥を塗るわけにはいかぬ。そう肝に命じた半蔵であったが、もし仮にこの仕事に裏があるとすれば、それは大御所の暗殺を仕掛けようとしている大坂方ではなく、その策略を察知したことによって江戸幕府内部に亀裂が生じはじめているからではないか、そのように推理した。だとすれば、暗殺者が加わったことで敵は予想外に手強くなっている。暫し立ち止まり思案を巡らせていた服部半蔵は再び歩を進めたが、目標に接近しつつある自らに対し、逆に目標の方がこちらへ近づいて来るような不気味さをも感じていた。

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