【ハックプロジェクト第1弾】Cracking the DIVA world~呪われの歌姫~

クラプト(Corrupt)/松浜神ヰ/ハ

第1話 歌姫、クラッキングを受ける

バーチャル技術が発達した現代。ここは人々の娯楽、仕事の場となり、全世界で利用ユーザー数が2000万人を突破したメタバース空間、「Galaxias」。

そこでは数多あまたのバーチャルアーティストが活動しそのなかでも特に世間からの注目を集めていたのは、バーチャルシンガー。

私たちは、ここから世界に希望を届けているんだ―――。


たくさんの観客の歓声に包まれながら、私は深々とお辞儀をしてステージをさった私。私は今最も注目を集めているバーチャルシンガー、cherry。この「Galaxias」ができるまではこんなこと夢にも思わなかったけど、今じゃ1stシングルの発売や武道館ライブの開催までも決まって…。

でも、普段はただの女子高生、藤原咲良ふじはらさくら。友達は多いけど、まだ殆どの子にはナイショにしちゃってる。これからも、もっと多くの人にこの歌声を届けていきたいなぁ。

耳をつんざくような爆音でスマホから私のデビュー曲『cherry blossoms in full bloom』が部屋に鳴り響いた。これはイヤな予感…。

案の定、スマホの画面は7:30を示していた。

「やっっば!!また遅刻するぅ!!」

だけど、それは勘違いだったみたい。家を飛び出してすぐに分かってよかった…。


「おはようございます、咲姉さくねえ。そんなに慌ててどうしたんですか?まだ遅刻の時間ではないはずですが…」

「あ、はるちゃん。…私、また時計の設定直すの忘れちゃってたみたい」

「ほんと、咲姉はおっちょこちょいですね。ステージの上ではあんなに輝かしいのに…」

「内ちゃんも昨日のライブ見てくれた!?新曲どうだった?」

「誰が作った歌かは知りませんが、すごく咲姉にマッチしてましたよ」

「ありがとう。…って、あれ楽曲提供じゃないからね!?自分で作ったんだよ!?」

「そうですか。やっぱり咲姉はすごいです」


この街田宇内まちだのきはるちゃん。名前の響き的には男の子っぽいけど、艶やかな黒髪を長く伸ばした小学5年生の超絶美少女で、私の友達…?かな?


「それで、今夜はシングル発売記念ライブやるんだけど、見に来てくれる?」

「…すいません。今夜は都合が悪くて行けないかもです」

「そっか。それなら無理して来なくてもいいからね」


そんなことを話しているうちに内ちゃんの小学校に到着してしまい、私たちは別れたのであった。

放課後、開演10分前になり、私はGalaxias Gearを装着した。ここ近年まではPCやスマホで『Galaxias』を利用するのが基本だったけど、半年前にこれが出てからはこれを使う人が増えたであろう。そんなことを考えながらログインすると、既に多くの人が私を待っていた。少しスケジュールより早いけど、もう始めちゃうか。


「みんなー!声の花弁はなびら、届いてるかーい?」


この恥ずかしいやり取りも少しは慣れてきたな。観客たちは相変わらず待ちきれない様子である。さて、始めるか…


その時だった。異変が始まった瞬間は。


急に画面が変な色に発光して強制的にログアウトさせられた。何回も試したけど、今日は1回もログインすることはできなかった。多分、軽いクラッキング程度だろう。

昨日の不具合は一体何だったのだろうか?日付が更新されるとすぐに入れるようになったけど、大規模メンテナンスが行われていた。

んー…。考えて分かんないことを考えても仕方ない。荷物を持ってリビングに行った時、お母さんにおはようと言おうとした私の口からはそれとは違う言葉が飛び出した。


「お母さん、かわいいね」


え?今私何て言った?


「急にどうしたのよ?何かいいことでもあったの?褒めても私からは何も出ないわよ?」

「え?私、今何て言ったの?」

「え?お母さん、かわいいねって…」

「私、そんなこと言ったの!?ファンにそんなこと知られでもしたらチョー恥ずいんだけど!!」

「ここには1人しかアンタのファンはいないわよ。それより、昨日アンタのライブ開催時間から起きたバグで大規模メンテ入ってるみたいだけど大丈夫なの?」

「あ、あれ私だけじゃなかったんだ。よかったぁ、てっきりあれでファンのみんなの期待裏切っちゃったけと思って冷や冷やしてたんだよ…」

「宇多田株式会社によると、回復は明日の夜くらいだってさ」

「明日の夜か…」


朝ごはんを食べ終え、用意も済ませて昨日と同じくらいに家を出れば内ちゃんに会えるかと思ったけど、会うことなく学校についてしまった。


「藤原さん、ちょっといいですの?」

「あ、生徒会長」

「だから、そらでいいって言ってますの。それで、昨日のバグで何かおかしくなったこととかはありましたの?」

「いえ、特にないですけど…。宙、大好き!!」


あれ…?私、また何言ってるんだろう?


「す、すみません!!なんか今朝、言い間違いが多くて…」

「あれは…言い間違いなんですの?もしかして、それは今朝からですの?」

「はい、それが…」

「そうですの。それで、少しお話したいことがございますの」

「お話?」


続く

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