第10話 初恋の行方

 もう少しで予鈴が鳴るという中で、美海と話をする芳乃と菜々子。


「はあ。美海らしいっちゃらしいけど。駅と警察には聞いたん?」

「あ、うん……ばっかりなら後で届くかもしれないから、って駅の落とし物係の連絡先教えてもらった」


 事の顛末を聞いて呆れ笑いの芳乃は、やれやれ、とわざとらしく肩を竦めた。


 眉をハの字にして、たはは……と笑う美海に菜々子が駆け寄る。


「何で?!みうみう、何でこんな大事な……」

「菜々子」

「ふぐあ?!」


 美海に詰め寄る菜々子を引っ張る芳乃。


「ちょっと!」

「いや、菜々子だからつまづいて美海に激突するかと思ってさ」

「ふざけてる場合、じゃ……?!」


 芳乃が、冗談めかした物言いとは裏腹に真剣な表情で菜々子を見つめた。


「よ、よっしー?な、何?」

「美海の人助けなんてデフォだろ?いいんよ、それで。ま、無くしちまったってのには驚いたけど、天使ちゃんの挽回ばんかいに期待しよう?な!美海!」

「うん!ごめんね?芳乃、菜々子。ドジなばっかりに」

「……そっか。ごめん、よっしー。私の方こそごめんね?みうみう」


 ここで、朝の予鈴が鳴り響き。


「美海、私らにできる事があれば言えよ?見つかりそうになかったらとりあえず、昼休みにチョコ買いに行けよ!」

「……は、はい!ありがと!」

「みうみうは休み時間忙しいだろうから、いろいろみるね!」

「ごめんね、ありがと!」


 声を掛け合った三人は自分の席に向かう。



 菜々子は席についてから、そっと溜息をついた。

 自分の行動に改めて冷や汗を掻く菜々子。


 あのまま、美海を責めていたら。


 手を差し伸べようとする度に、美海は痛みを感じるかもしれない。悲しい思いをするかもしれない。


 ましてや、それどころか。あの優しい美海が困っている人に手を差し伸べる事を躊躇ためらったら。


 菜々子は、ぶんぶん!と首を横に振った。


 もちろん、今回の事で美海がどう思い、どうするのかはわからない。


 けれど、自称親友として傍にいる自分が。

 美海の事を大好きな自分が。


 どんな状親友のいい所を否定していいはずがない。

 フォローなんか、私達がすればいいじゃないか。

 芳乃のとっさの対応に、心の中で頭を下げる菜々子。


 それでも飽き足らず、後方の席の芳乃に振り返って手を合わせ、『何なの?』と怪訝けげんそうな表情をする芳乃に微笑んで前を向く。


(はは。よっしーにはまだまだ叶わないや。でも……)


 湧き上がる恥ずかしさに唇を嚙み締めながら、菜々子はスマホを取り出す。


(ひとこと拡散。私はできる事を頑張ろう。美少女JKレイヤーの底力を見よっ!)


 ひゅぱぱぱ!


 一瞬で入力を終えカバンにスマホを放り込んだ菜々子は、にい、と笑った。

 


(……菜々子に悪い事したか。ま、今の素振りはわかってるって事だろうな)


 自分を拝んできた菜々子の行動を芳乃が予想する。


(ごめんな?美海はこれでいいんだよ)


 今は背中を向けている菜々子に頭を下げた芳乃は、できる事を考える。


(休み時間、美海は昨日と今日抱えてきた義理チョコを配るのに忙しいだろうから、その間に情報を集めよう。昼までに出てこなかったら美海がチョコを買ってきて、放課後にぶっつけ本番か。手紙を書いても、あれだけの内容を全く同じに書けないだろうし焦るだけだから、書く書かないかは美海が判断すればいい。要は気持ちだ)


 ふと思いついた芳乃は、急いでスマホを取り出す。


 そして数行の文章を入れてからすぐにしまい込んで菜々子とは反対側の前方にいる美海を見た。


 その後ろ姿は心なしか、やはりいつもの元気がない。


(美海。落ち込むなよ、諦めるなよ?予定は狂ったけれど、お前の行動は間違ってなんかない。私達の自慢の親友なんだ。絶対、何とかしようぜ。絶対に、絶対に何とかしてやる!)


 芳乃はグッ!と両手を力いっぱい握りしめた。


(朝のラッシュで女の子を助けた美海は……ハプニングをも味方につけて、遠峰に告白すんだ。大丈夫だ、大丈夫。大丈夫だ、美海。チャンスはある。だから、落ち込むなよ?告白成功したら三人で一緒に笑おうぜ。フラれたら一緒に泣こうぜ?)





 三人は知らない。

 美海のチョコを追って、遠峰が男を追いかけた事を。


 そして。

 遠峰がいまだに学校に姿を見せていないという事を。




 

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