第3話 ギリギリセーフと、ラッキーチャンス


「ま、ま!間に合ったぁ!」


 予鈴10分前に教室に駆け込んだ美海みう


「おはよー。うまくいった?しかも土産?どっか行ってきたん?」

「みうみう、おっはよー!それはお菓子?ん-まいお菓子なのっ?!」


 横から笹原芳乃ささはらよしの、斜め後ろからニマニマと手を出して来た藍原菜々子あいはらななこが声を掛けてきた。菜々子は抜け目なくお土産の紙袋を受け取っている。


「あはは、電車が遅れててギリギリ!遅刻しなくてよかったあ。またお昼か放課後に頑張る!」

「そっか」


 芳乃と菜々子には、前日にチョコを机や下駄箱に忍ばせる事を話している美海は、息を整えながらカバンからマグボトルを取り出し、くぴくぴと飲んだ。

 

 が、そこで。

 親友で小学校からの付き合いの芳乃からツッコミが入った。


「どうせ迷子の親探しとか体調悪くして座り込む人でも助けてたんじゃないの?」

「んぐっ?!けっほけほ!けほっ!けほ!けほけほっ」


 呆れる芳乃に美海は涙目を擦りながら問いかける。

 

「な、けほ!な、何でわかったの?!」

「だって美海が遅れるのってほぼソレじゃん。だから天使とか言われるんだよ」

「そーだそーだ!むぐむぐ……これうんまっ!」


 二人をよそに菜々子はクッキーの箱の蓋をパカリと開けて、次々と頬張っていく。

 芳乃の言葉に、眉をハの字にして美海は苦笑いをした。


「言われたことないし、芳乃の勘違いだよ。私が天使とか絶対ないない」

「君は天使だ!なんて本人に言うのは親兄弟かよっぽどのバカか勇者だけだよな」

んがんがんだんだっ!」


 すると。


 朝練できっ腹を抱えた男子や、美味しそうなお菓子を目にした女子が動いた。

 

 朝ごはん?

 食べましたけど何か?


 育ち盛りの食欲を舐めんなあ!と言わんばかりに、見ただけでワクワクしそうな、高級感溢れる色とりどりのクッキーに手を伸ばしていく。


「堀の土産?堀、ごっさん!いただきー!」

「はーい」

「堀さん、あたし達も食べていーい?」

「いーよー」


 クラスメイトにつかみ取られて、あっという間に減っていくクッキー。

 美海は大喜びのクラスメイト達を見て、にっこにこである。


 が。

 どうにも納得できない人間がここに一人。


「みうみうの裏切り者!これは私の栄養源なのだぞぉ!おぬしら、触るな、近寄るな!」

「私にも一個、下さいなぁ」

「みうみう!このピンク色の、ふわふわですっごく美味し……他の奴らはダメえ!」

「いや、菜々子に所有権ないだろ。いっただき♪」

「あああ!よっしーのびゃかバカあ!もうなくなっちゃう!だめええええ!」


 全力の叫びもむなしく、予鈴のチャイムと共にクッキーの箱は空っぽになり、授業が始まるまで机に突っ伏してピクリとも動かない菜々子がそこにいた。


 ●


(お手紙を読み返す時間がやっぱりほしいから、道に迷ったあのお爺ちゃんに会えたのはラッキーだったかも!美味しいお菓子とチャンスをありがとうございます!)


 美海は一限目の終わりかけにふと男性を思い出し、心の中で手を合わせた。


(お昼休みにこっそりと下駄箱……それともやっぱり放課後に。き、緊張する!後で芳乃と菜々子に相談して……お昼休みに見てもらうのも、いいかも!あ!それでそれで……最後に名前、書かないとぉ!きゃああ!)


 授業の終わりかけまで机に突っ伏していた菜々子がふと見ると、思わず二度見してしまうような可憐さで気合いを籠めている美海。


(が・ん・ば・れ!!)


 親友として長い時を過ごし、喜怒哀楽を共有してきた美海の楽しそうな表情に、芳乃と菜々子は自分の事のように胸をときめかせ、心の中でエールを送ったのだった。


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