第3話 こんな幼馴染とは、もう関わりたくない…

 鈴里玄すずり/くろは今、幼馴染と一緒にいる。

 同じ席に座り、向き合うような状態であった。


 早く、この状況から解放されたいと思う。


 そもそも、七野加奈ななの/かなのことなんて好きじゃない。


 でも、普通にしていれば可愛らしい方である。

 整った顔立ちに、優しい印象があるのだ。

 多分、誰が見ても、そう感じるだろう。


 でも、それは何も知らない人だけがそう思うことである。

 真相を知ると、何かと関わることに抵抗が出てくるはずだ。


 というか、俺、何かしたのか?


 そう感じるのは前々からだが、この日頃、そのような思いが強くなっていく。


 高校生になる前は、普通の関係性だった。


 入学して少し経ち、それから幼馴染の態度が高圧的になったのである。


 何か原因があるのだろうが、幼馴染が何も言ってこないとなると、どうすることもできなかった。


 改善のしようがない。


 ハンバーガー店で遭遇してしまったのが、運の尽き。


 玄は頭を悩ます。


 それ以前に、この気まずい時間をどうやって乗り越えればいいのだろうか?


 無言になって思考していると、対面上の席に座っている彼女から睨まれていることに気づいた。


 加奈から睨まれるのは、心に来るものがある。


「えっと、何?」


 逆に、玄は問う。


「別に、なんでもないけど」


 加奈の方から睨んできたのに、なんだよと思う。


 早く、夕が返ってきてくれないか、そればかりが気にかかる。


 彼女が戻ってくるまで、何とか辛抱するしかないだろう。




 本当に面倒だ。

 そればかりが、玄の脳内に浮かんでいる。


「ねえ、あんたは、どうなの?」


 同じ席に座っている幼馴染から急に問われる。


「な、なにが?」


 先ほどまで無言だった彼女が、なぜか、話しかけてくるのだ。


「だから、あの子とはどうなのってこと?」


 あの子……。

 多分、夕のことについてだろう。


「どうって、別に、特に何もないけど」


 というか、なんで、そんなことを聞いてくるんだよ。


「本当に特にないの?」


 加奈はしつこく聞いてくる感じだ。


「まあ、それは……。本当に何もないけどさ」


 玄は嘘をついてしまった。


 本当は夕のことが好きだったりする。


 しかし、こんな状況で、告白しようと思っているとか、口が裂けても言えなかった。


 それ以上に、この現状から早く解放されたい。


 幼馴染と一緒にいると、本当にそれが精神的に負担になってくる。


 ずっと、幼馴染と同じ空間にいるとか、地獄の一丁目のようだ。






「それでさ。これがあってさ」

「へえ、そうなんだ」

「でも、何とかなった感じで」

「それだったら、よかったじゃん」

「けどさ、それからが酷くてさ」

「そうなの?」

「そうそう」


 周りからは楽し気な話し声が聞こえてくる。

 日頃の話題とかをネタに、女子高生同士がやり取りをしているのだ。


 店内にいる人らは楽しそうなのに、玄がいるところだけは冷え切っていた。


 美少女と街中に来られて、精神的に安泰だと思っていたのに、現状、どうしようもなくなっている。


 というか、何を話せばいいんだよ……。


 急に幼馴染と二人っきりになっても、ただただ気まずいだけである。


 玄は気分転換程度に、ここにいるだけ。

 特に話したいこともなく、玄は制服からスマホを手にして適当に検索をかける。

 スマホを見ていても、同じテーブルに座っている彼女からの視線を感じた。


 なんなんだよ……。


 本当に言いたいことがあれば、普通に言えばいいのに。






「戻ってきたよ」


 遠くの方から救世のような声と共に、その存在が駆け寄ってくる。


 その直後、玄はスマホを制服のポケットにしまう。


 ちょうど、三人分のハンバーガーをトレーに乗せて、有村夕ありむら/ゆうがテーブルに戻ってきたのだ。


「ねえ、一緒に食べよ」

「うん」


 玄の心に安らぎが戻ってきた。


 やっと帰ってきたかといった感じに、玄は頷いたのだ。


 夕は、テーブル上にハンバーガーが乗っているトレーを置いていた。


 注文した通りの品の数々である。


「加奈は、普通のハンバーガーでしょ?」

「うん」


 加奈は頷くだけの反応だった。


「クロは、これであってる? 私と同じハンバーガーで」


 夕がそういうと。

 近くにいた幼馴染の瞳の色合いが変わった。


 玄は、そんな彼女から、ジロッと睨まれたのである。


「ねえ、二人は一緒のものなの?」

「そうだよ」


 幼馴染の問いかけに、夕が明るく返答していた。


 そして――


 加奈はまじまじとした視線を、玄の方へと強く向けてきている。


 急になんだよと思う。


 がしかし、それ以上、幼馴染は突っ込んだ発言をしてくることはなかった。




「ねえ、二人は何について会話していたの?」


 夕も一緒の座り、彼女は双方にいる二人の様子を伺っていた。


「別に、特には何もなかったけど」

「私も何もなかったし」


 ハンバーガーを手にしている二人はそう返答する。


「そう? もう少し話していてもよかったのに」


 夕は場の空気感を維持するかのように、二人へと交互に視線を向けていた。


「ねえ、何か会話しない? 共通の話題とかってある?」

「いや、ない」

「私も」


 二人は同時に口にしていた。


「ハモってる感じだけど、もしかして仲いいとか?」


 夕は状況を見ながら言う。


「そんなことはないから」

「私だって、別に……玄とは関わりたいとか、そういうのじゃないし」


 加奈はぶっきら棒な言い方をする。


 そもそも、こんな奴とは、一緒の空間でハンバーガーなんて食べたくない。


 そう思ってしまう。


 やっぱり、幼馴染のことは苦手だ。




「これって、普通に美味しいね」


 夕は周りのことを意識して、話している。

 でも、玄と幼馴染だけは、その場に適応しようとはしない。


「どうしたの、二人とも」


 夕から問われる。


「なんかさ……」


 玄は気まずい感じに、小さく口を開いた。


「やっぱり、気まずい感じ?」


 玄の近くやってくるなり、夕は小さく呟いた。


「まあ、ね……俺、やっぱり、この空間にはいられないっていうか」

「でも、あと少しすれば、食事も終わるし。そうしたら別のところに行こ」

「まあ、そういうんだったら」


 玄は一応、頷いておいた。


 この状況も、あともう少しで終わるというなら、我慢はできるというものだ。


「ねえ、二人でこそこそ何話してんの?」

「何でもないよ。それより」


 夕は話題を変え、加奈の方へと近づいて行った。


 玄は一旦、心を落ち着けさせ、ハンバーガーを食べる。


 現状、夕と一緒のものを食べられているのだ。


 この幸せな瞬間を大切にしたかった。

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