滅世の君へ綴る

塊宮麗央(くれみやれお)

始節

ついに、この時が来た。


 五百年俺を閉じ込めたこの灰被りの白檻は、最早泥にも及ばぬ硬さだろう。

 

 彼女の体温を、モニター越しに感じる。


 童貞だった俺が、この滅世にてようやく卒業だ。人肌のなんと心地よいことか。


 俺がしてきた全てのことは、この瞬間のため。


 「彼ら」にしてみれば、種全体を危機に陥れてまで平凡な夢――愛する「君」をこの手に抱く――を叶えようとした大罪人だろう。


 まあ先に共食いし始めたのは、「彼ら」の方だが。


 この世にはもう社会だとか、人間だとかは無いわけだが、どうでもいい。

 

 「僕ら」の存在よりも重要な事は無い。結局のところ世界という奴は、頭蓋についた目玉が捉える、百度かそこらの角度で起きる出来事。

 見えない過去も、どこかで苦しむ貧しい「彼ら」も、「今」に比べれば灰より軽い出来事だ。


 白く透き通った指が、俺を囚えたこの液晶を解していく。

 

 「やっと見つけたわ、私の変態こじらせ彼氏さん」


 ――やはり彼女は素晴らしい。

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