10月の誕生石オパール創作小説、ほしのオパール

 10月の冷たい風が心地よく舞い込む中、小さな村に住む少女エミリーは10才の誕生日を迎えました。

 村の子供はみな宝と大切にされ、秋の収穫祭とも重なった彼女の誕生日には村中にオパールのような優雅な色彩が広がり、村の人々は彼女の特別な日を祝福しました。


 エミリーは誕生日の朝、村のみんなや家族から贈られた小さな箱を開けました。

 その中からは七色に輝く美しいオパールのネックレスが現れ、彼女の瞳には喜びの輝きが宿ります。

 このオパールには村の人々からの祝福が込められており、伝説によれば、オパールは幸福や希望をもたらすとされているのです。


 その夜、エミリーは村の中心にある大きな篝火で友達と家族と共に誕生日を祝いました。篝火の光り輝く中で、彼女はオパールの不思議な輝きに魅了されニヤニヤと見入っていたところ村の長老に呼ばれ、古来より語り継がれる逸話を聞かされたのです。


 遥か昔、村は厳しい冬の寒さと渇水に苦しめられていました。


 しかし、ある年の10月、村の中心に美しいオパールが発見され、それに続けて豊富な水脈も見つかり幾つもの井戸が掘られ、不思議なことに村に暖かな春のような風が吹き始め寒さにも水にも困ることがなくなったと伝えられていました。

 その時から、10月の誕生日にオパールを身につけることが習慣となり、幸福と繁栄を願う象徴とされてきたのです。


 ところが、その翌年の1月、突如として火星で新たなオパールが発見されたとの驚きのニュースが全世界にもたらされました。

 この出来事は村の人々に大きな興奮をもたらし、村の長老たちは奇跡が訪れたことを喜んだのです。


 エミリーはその情報を知り、自身の誕生日のオパールに新たな意味を見出しました。彼女は村の人々と共に新しいオパールの発見を祝福し、その瞬間が村にもたらす未知の可能性に胸を躍らせました。


 翌年の10月の誕生日の夜、篝火の輝きが再び村を包み込む中、エミリーは誕生日の祝福と共に、新しいオパールがもたらす未来への希望を感じました。その夜、彼女は星空を見上げ、火星が煌めく中で、新しい冒険と可能性への一歩を踏み出すことを決意したのでした。


****


 それから27年後の西暦2050年、医師となって活躍していたエミリーは火星への有人飛行にチャレンジするスペースアークの乗組員の選抜試験を突破して宇宙飛行士となったのです。

 困難な火星への旅でしたが数々の障害を乗り越えてエミリーとその仲間たちは火星の地に降り立ちます。

 その最初のミッションが「オパールの探索」でした。


 オパールには5〜21パーセントの水が含まれており、その結合もさほど強くないことから、大量のオパールを粉末にして加熱することで「水」が取り出せると考えられているのです。

 そして苦難探索の末。莫大なオパールの鉱脈を発見することに成功したのでした。


 エミリーのオパールとの逸話を知っていた仲間たちは最初のツルハシを彼女に任せます。

 そして人類最初に採掘された七色に輝くオパールはエミリーが手にすることとなったのです。

 こうして火星でオパールという水資源を手にした人類は火星への第一歩を進むこととなるのでした。


 その夜、マーズベースに戻ったエミリーは手にしたオパールを胸に抱きしめてあの日の誕生日の篝火を思い出しました。

 そしてポツリと呟きました。


 「ずいぶん遠いところまで来たわね。あの頃のワタシに話し聞かせてあげたいな。火星も暖かくなるのかな。」


 

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