第82話 ルビーの錬成 閑話休題 錬金術師の祖父と錬金術師見習い薫子

 誕生石も半分終わったので閑話休題。

 次の7月の誕生石ルビーにまつわる話を拙著「 ゼロ・ポイントフィールドに愛されたフロイライン82話」を引っ張ってきました、ルビーの正体についてのお話です。


 5歳の薫子は神戸の北野の古い洋館に住む祖父母が大好きだった。

 祖母は祖国を追われた元王女様で、祖父は随伴の錬金術師科学技術者であった。


 祖父の実験室にはいろんなガラス瓶に入った薬品がずらりと並んでおり古い洋館の雰囲気もあって、まるで魔法使いの部屋のようであった。


 祖父は祖国にいるときに、魔法加速器で素粒子を亜光速まで加速して物質プラチナに打ち込み、より高額なauの錬成を成し遂げた御伽噺ではない、本物の錬金術師科学技術者であった。


 プラチナptの原子番号78

 auの原子番号79

 プラチナ原子に原子核を打ち込めば一つ増えて金より安いプラチナから高額な金に変化する。

 化学反応ではなく、本物の錬金術なのである。

 

 「おじいさま!今日も来たわよ!」


 「おう、カオルコ、よく来たな。」


 「今日は何をするの?」


 「そうだな、今日はルビーの錬成でもしてみるか?カオルコ、宝石好きだしな。」


 「え、ルビー!やったー。」


 「そしたら魔法衣防護服に着替えて、魔法部屋実験室においで。」


 「カオルコ、ちょっと、聞くけど、その、とんがり帽子と杖は必要なのかい。?」


 いかにも魔法少女を連想させる帽子と杖だ、祖母にねだって魔法使いの本場イギリスから取り寄せてもらったものだ。

 「おじいさま、これは錬金術師とか魔法使いの正式な制服ですのよ。」


 「そうなのか。日本では。」

 おじいさまはそれ以上突っ込んでこなかった。


 「そうしたら魔法使いの仮面防護ゴーグルとN95マスクをつけてくれ。」


 「それではまず白い粉の秘薬酸化アルミ粉末を、るつぼ、に入れようか。」


 アルミとはあの台所にあるアルミ箔のことだ。これを、魔法で、宝石に変えるのだ。


 古びたガラス瓶から小さな匙で白い小さなるつぼに慎重に入れる、重量は正確に測らないといけない。


 「カオルコ、ルビーとサファイア、どっちを錬成したい?それによって混ぜる秘薬添加物が違うんだ。」


 「ルビー!赤いルビーがいい。」


 「ルビーは難しいぞ、秘薬添加物がわずかでも多かったら緑色や変な灰色になってしまうし、わずかでも少なければ赤くならない、サファイアのほうが簡単だよ。」


 「ルビーがいいの!赤いの!」


 「そうか、それならこちらの秘薬酸化クロムを足そう。」


 先に測った白い粉の秘薬酸化アルミ粉末の質量のきっかり1%を計らなければならない。

 薫子は質量計の表示を睨みながら、誤差なく1%に揃える。


 「よし、それをるつぼに入れようか。」


 5歳の薫子はこぼさないように慎重に秘薬酸化クロムを入れる。

 「あとはよく混ぜるんだ、混ぜれば混ぜるほど綺麗な色になる、ねるねるねーるね。」


 おじいちゃん、どこかで覚えたコマーシャルでボケをかますが、カオルコに華麗にスルーされる。



 「そろそろいいだろう、ここで木炭を、」


 「はい!先生!シャープペンシル持ってます!」


 薫子はシャープペンシルから芯を抜き出しるつぼにお線香のように刺す。


 余談だが、シャープペンシルとは和製英語であり外国人のおじいちゃんには通じない、英語ではメカニカルペンシル、である。


 これで、準備はOKだ。


 あとは魔法プラズマで1万度を超える高温を生じさせるのである。

 良い子は一般家庭では、絶対に真似してはいけない。

 やるなら経験豊富な人物の監督のもと発動しなければならない。

 一歩間違えば爆烈魔法により大惨事となるからだ。



 薫子は詠唱を始める。


 「カオルコ、その詠唱とやらは必要なのかい、詠唱なしでも。」


 「何を言ってるのですか?おじいさま、詠唱はマナーですよ。」

 ちょっとわからない理屈を述べる。


 秘薬の混ざったるつぼを電子レンジくらいの大きさの箱に収納する。


 「我が名はカオルコ!紅魔ルビー族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操るもの。!、炎の精霊よ、我が元へ集え、雷の精霊よ、我に力を与えよ、電磁波の精霊よ駆け回れ、プラズマの精霊に祝福を!エクスプロージョン!」


薫子は持っていた杖で魔法箱の右上を突く。


 箱の中では電磁波の精霊が飛び回り、雷の精霊の力がシャープペンシルの芯を直撃する。

 みるみるるつぼの温度は上昇して簡単に1万度を突破。一気に12000度まで上昇してプラズマの精霊が喜びの声をあげる。

 

 白色に近い小さな爆烈が起こり箱の中でるつぼが回り続ける。


 「チーン」



 ルビー錬成の儀式実験はこうして終了した。


  家庭用電子レンジから断熱ミトンでるつぼを取り出す。


 充分冷えた後に白い紙の上に出してみる。


 おお、一回目で成功するとは、薫子は天才だな。


 そこには直径3ミリほどのピジョンブラッドのコランダム、ルビーを生成していた。


 ルビーの化学式は「al2o3」であり酸化アルミそのものなのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る