第7話 人生の生き方

 十一月下旬、引き続き、小林は会社で活発に働いていた。

「これをお願いします!」

「わ、分かった。あ、ありがとうな」

 動揺しているドライバーに荷物を渡したあと、次のピッキングリストを取って、台車を速く動かした。

 占い師のレイラからのアドバイスを受けてから二カ月。仕事がいつもより楽しく感じている。チャレンジする幸せ、達成した瞬間の喜び、人との関わりで得られる繋がり。小林は、高揚感を味わっていった。

(占いの店に行って良かった。おもりが外れたように気持ちいいな)

 小林は、レイラに感謝しつつ、荷物を台車に入れていく。



 午前十時、小林は外の休憩スペースにある青色のベンチに座っていた。柴田は法事により、休みとなっている。

「他の人との会話をしようかと思ったけど、たまには、一人で休憩するのも悪くないか」

 缶コーヒーを片手に曇り空を見上げていると、砂利を踏んでいる足音が聞こえた。

「あの、お隣よろしいでしょうか?」

 声がしたほうを見ると、山田に罵声を浴びせられた弱弱しい体をした若い男性だった。

「あぁ、大丈夫だよ」

「で、では失礼いたします」

 弱弱しい体をした若い男性は、小林の隣に座った。

「飲み物はいるか? 奢るよ」

「いえ、社内の自動販売機で売っている缶ジュースを飲んだので大丈夫です。そんな事よりも、助けてくれてありがとうございます」

「いつからの話だよ。困っている人を助けるのが当然だろ」

 小林は、弱弱しい体をした若い男性の肩を軽く叩いた。

「小林さんって元気なオーラを放っていますよね。なんか、生き生きしてます。僕が入社した頃とは、正反対というか」

「おいおい、まるで、僕が死んだかのような顔をしながら、仕事をしていると言いたいのか?」

「はい、そうですね」

「ひどいな! もう!」

 小林と弱弱しい体をした若い男性は、高笑いをした。

「そういや、名前を聞いていなかったな。教えてくれるか」

「はい、相原と言います。今後ともよろしくお願いします」

 相原と名乗った彼は、小林に会釈した。

「いい名字だ。こちらこそ、よろしくな。僕は小林だ」

「はい、よろしくお願いします。ところで、小林さん、質問よろしいでしょうか?」

「よし、言ってみろ。なんでも答えるよ」

「では、人生とはなんでしょうか?」

 小林は、相原の哲学的な問いに、口を少し開けたまま、困惑した。

「昨日、テレビの特集で、芸術家として生きる人、音楽に人生を捧げる人、山奥で農業に全力で取り組む人などを紹介していたのです。人間の生き方って、いろいろあるんだなって」

「まぁ‥‥‥偶然の出来事を体験した人、プロの作品を見た人とかで、いろんなキッカケがあるからな」

「人生って分からないものですね。いったい、どこで、いつ、なにを、どういったきっかけで起こるのか分かりません。良くなるのか悪くなるのか。まさしく、運否天賦ですね。不思議なものです」

 相原は、腕を組みながら、道路を見ていた。

「僕の考えとしては、人生とは神様から与えられた修行かつ試練だと思う」 

「その理由は?」

「一度も失敗していない人なんていないだろ。例えば、受験、起業、部活の大会、仕事とかな。で、次に成功するためにはどうしたらいい、と考えるのが神様からの試練だと思う」

「確かにそうですね。失敗したからといって、くよくよするのは良くないですからね」

「失敗は成功の基。改善点を見つけてこそ、大きな成果を得られる。新たな道も開ける。それが試練。ゴールを作らず、仕事、勤勉、努力し続けるのが修行だと考える。そうじゃないと、満足してしまって怠けてしまうからな」

「言われてみればそうですね」

 相原は、腕を組むのを止め、頷いた。

「僕が積極的になったのは、占い師との出会いがあったからだ」

「そうだったんですか!?」

「学生の頃は、部活の誘いを断り続けていた。理由は、出来るはずがない、という思い込み。社会人になっても、癖が続いて、ネガティブ思考で仕事をしていた。悟られないように装ったが、周りには見破られていたらしい」

「僕には見えなかったです。で、占い師からのアドバイスはありましたか?」

「『過去を振り切ってください』と言われた。要するに『ネガティブ思考を捨てて、挑戦し続けろ』だな。実践して良かったよ。周りは、動揺していたけどな」

 小林は、口角を上げながら、一笑した。

「で、占い師ってどんな人ですか?」

 相原が興味のありそうな視線で顔を近づけると、小林は自慢するかのような声を出す。

「銀髪で青い瞳をした美女だ。青のアラビア衣装を着ていたぞ。肩と二の腕、胸の谷間を露出していた。体型は、スタイル抜群。胸はかなりのデカさ。Jカップぐらいだろうな。右に出る女性はいないと思う」

「小林さんって、女好きですか?」

「う、うるさい!」

 小林が赤面になっていると、仕事再開のチャイムが鳴った。

「では、仕事に戻るか」

「はい! 張り切って頑張りましょう!」

 二人は立ち上がり、倉庫へと戻っていった。



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