第21話 『飛行』の悪役
エイスケは、映画もそれらと同じ問題を孕んでいると思っている。今日観たサメ映画は最悪だった。
という訳で、
「エイスケ! めちゃくちゃ面白かったな!」
「そうかあ……?」
ハル・フロストは感極まった様子で、動かずにはいられないのか、街中でシュッシュッとシャドーボクシングを始める。
「主人公の保安官が勇気を出してサメに立ち向かっていくシーンは最高だった!」
「主人公サイドが弱すぎないか? 俺は主人公が無双する感じの映画が好きなんだよなあ」
「強い人間が立ち向かうのは普通じゃないか。弱くても誰かを護るために立ち向かう姿に僕は勇気を貰ったぞ!」
エイスケは肩をすくめる。ハルとは休日につるむことが多くなったが、大半のところで意見が合わない。しかし、それなりにハルと付き合ってみて気付いたのは、意見が合わないと気が合わないは、イコールではないということだ。エイスケは真っ向から意見がぶつかることの多いハルのことを、そこそこ気に入っていた。
「まあいいや。次は寿司屋に付き合う話だったよな。見ろよこのチラシ、シャーク印の寿司屋だってよ。今日はここで昼飯を食うぞ」
「なんだよシャーク印って。サメが寿司を握ってるのか?」
「なんかの例えなんじゃないか? サメが食いに来るほど美味いとか――」
エイスケが途中で言葉を止めたのは、目の前を
「ふぅぅぅぅぅはははははは! 空を飛ぶのサイコー!」
空飛ぶ
手伝うことは全く考えなかった。今のエイスケとハルは非番である。その上、今のエイスケの舌は寿司の気分になっている。ケイオスポリスは美味い肉料理が多いが、魚料理はエイスケの舌に合うものがなかなか無い。
寿司を思い浮かべ、口内によだれを溜め込みながらエイスケは
「おいハル、まさかとは思うが」
「捕まえるぞ」
「せっかくの休日だぞ!? 早く行かないと寿司が売り切れちまう!」
「僕、生魚苦手なんだよなあ」
「じゃあなんで付き合う約束した!」
そういうところだぞ、とエイスケが抗議するのも虚しく、ハルはエイスケの首を掴むと全速力で走り出した。街中の人混みを避けるため、ハルは通りのビルの壁を駆け上ると、そのまま壁を走り続ける。エイスケは首を掴まれたままだ。鯉のぼりのようにたなびきながらエイスケは寿司をそっと諦めた。
ハルほどの
「
「大人しく捕まって寿司をおごれ!」
「ふぅぅぅははは! 捕まらんよ、今日はコウモリ男はいないのだろう?」
なんでそれを知ってやがる、とエイスケはひとりごちる。
空を飛べるアレックス・ショーがいれば、と思うが、今は別件で離れた場所を捜査している。飛行
忙しさに押し潰されそうになりながらも、今日はようやく取れた非番の日だった。
「アレックスがいなくても僕とエイスケなら大丈夫だ。エイスケ、合わせろ」
「分かってるよ!」
泣き言を言っている暇は無い。ハルが言わんとしていることを汲み取り、エイスケはハルの動きに集中した。
ハルがビルの壁を駆け上がって、空に向かって飛ぶ。しかし、このままでは全く飛行
「やけになったのかな? ふぅぅぅははは……はっ!?」
飛行
エイスケとハルのコンビネーションは、事件を解決するたびに洗練されつつあった。
あっという間にハルは飛行
事件解決。エイスケとハルは笑って拳と拳をかち合わせた。
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