10 次頑張る


「痛い、痛い、痛い――――!!!」

 思わず喚いた。必死になって逃げようと、うつ伏せのままベッドの上をずり上がる。

「ごめん、篠原……」

 榎木は挿入を諦めて、俺の身体を背中から抱き締める。落ち着けというように背中を優しく擦った。

「痛いよ、榎木。もう止めよう」

 殆んど涙目になって、首だけ榎木の方に向けお願いする。榎木は俺の唇にチョンとキスを寄越した。

「待って、ちゃんとよくしてやるから」

 諦めきれない様子で、また指を後ろに挿入してくる。

 本当はもう逃げたかったんだけど、榎木に押されてもう少し我慢することになった。俺の中に入った二本の指が探るように動く。榎木の勃ち上がったものが俺の尻に当たった。

 こいつ、まだイッてないもんな。

 イカしてやろうと思って榎木のものに手を伸ばす。掴もうと少し身体の向きを変えた弾みに、榎木の指が俺の中のどこかに触れた。

「――!? きゃう!?」

 身体が勝手に跳ねた。どうなってんだ!?

「ここか? ここだな」

 榎木はそこを集中的に何度も擦る。

 止めろって。そこは変なんだってば。身体が踊る。

「きゃ、きゅ、きょ」

「お前、変な声出してんな」

 余裕で笑う。こっちは必死だってのに。

 変になるんだって。止めろって。身体が勝手に跳ね回る。

「くぅ……」

 榎木は俺の前に手を回し、俺の息子を扱き出した。一回イッた筈なのに、俺のものがまた元気になる。

「あう、あう。イクッ」

 あああ、またイッてしまった。さすがにぐったりとベッドに沈む。

 榎木はぐったりとした俺に乗り上がって、また侵入しようと試みた。後ろにそそり勃ったものを押し当てて、ゆっくりと、少ずつ身体を押し進める。

 痛いよ。きついよ。

「くっ……」

 榎木の声が耳元で聞こえた。吐く息が荒い。チラと榎木のほうに顔を向けると、苦しそうに歯を食い縛っている。

 こいつだって必死じゃん。

 そう思ったら少し緊張が取れた。すかさずグイッと榎木が押し進める。

「入った……」

 榎木は背中に覆いかぶさったまま、少し脱力した。

「重い……」

「悪い」

 掠れた声で謝って、そろそろと動きはじめる。

「ぐっ、苦しい」

 突き上げられるとやはり苦しい。

「悪い。余裕ない――」

 さっき指で触ったところに向かってグイグイと突き上げてくる。

 うう、そこは弱いというか。

「きゃう……」

「可愛い……、篠原……」

 途切れ途切れに言いながら、突き上げが早くなる。そして俺の中で果てた。

 ぐったり。


「よくなかった?」

「まあ……」

「ごめん。次ぎ頑張るから」

 次があるのか?

 榎木はベッドから起き上がって、俺の後始末をせっせとしてくれる。面倒くさいんじゃないのか、男と男ってのは。合体するまでが大変だし。榎木は面倒くさがりやな筈だが、こんな面倒くさいことをよくする気になったよな。

「面倒じゃないのか?」

「何が面倒なんだ?」

 俺が聞いたら首を傾げた。

「やり方を覚えてスタイルが出来れば、後はアレンジだけだし別に面倒じゃない」

 そういうもんか?

 掃除も料理も形を決めれば後は簡単だとか言う奴だが。

 榎木が俺の唇にキスしてくる。いいけどさ、何か大事なことが抜けているような……。

「こんな事しといてあれだけど、榎木、俺のこと好きだって言ってないよな」

 俺がそう言うと、榎木は切れ長の瞳で俺をじっと見る。

「篠原だって、俺の事好きって言ってないじゃん」

 がーん。見事な反撃が帰って来た。

「そ、そうだっけ」

「言ってくれる?」

 こいつ……。ちょっと意地悪じゃないか?

「う……、お、おう!」

 大体、意地悪じゃないきゃ、あんなひどい事は出来ないよな。

 チラ。俺を見てる。ちょっと口の端が上がってないか? 顔が染まるんだが。

「あ、言うの嫌なんだ」

 このやろー。

「言うから、あっち向いてろよ」

「分かった、その前に――」

 榎木の手が伸びて、俺を抱き締めた。

「好きだ、篠原」

 あっ。

 榎木は俺の身体を離すと、ぱっと向こうを向いた。

 反則だ。このやろう。

 掴みかかって、乗り上がって、こっち向けとTシャツの襟元を掴む。榎木の顔も赤い。

 へへ。恥ずかしいよな。やっぱし。

 夏休みの間に背が伸びて、俺より男らしくなって、二歩も三歩も先に行ってしまったような気がしていたけれど、俺とお前、そんなに変わらないよな。

「俺のが先に言おうと思っていたのに。くそう。榎木、好きだー!!」

 顔を見て、はっきりと言ってやる。でも、すっごく照れくさいんだ。榎木は嬉しそうに頬を染めて笑った。

 好きだという言葉が、キラキラとそこら辺に飛んでいる。

 一緒に住んで、お互い気が合うなって思っていたところにとんでもない隣人が現れて、そういう付き合いもあるんだって知った。

 知らないでいる事と、知っている事の差は大きいかも。

「やっぱし隣の所為だよな」

「そうだな」

 榎木は頷いて俺を引き寄せる。

 その日は榎木の部屋で眠ったけれど、翌日俺の足腰はあまり役に立たなくて、何処にも遊びに行けなかった。


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