第15話 俺TUEEEEEEEEE!!




「き、貴様……一体何をした!? その粗末な剣でこの業物を叩き折るとは……っ!」


 剣を振り下ろす動作だけでわかるやはり力だけじゃなく剣の腕も相当なものだ。


 バルバが最初から本気だったら剣は折れなかっただろう。


 残りの剣は3本……折った1本もそこいらの人間なら余裕で殺せるほどの長さは残っている。


「もしや、Sランク冒険者か!? いや……この街にそんな強者がいるなど聞いていない!」


 バルバは剣を折られたことにかなり動揺している様子だ。


「俺はのんびり暮らすためにここにやって来たのに、最近は全然のんびり出来ていないFランクの駆け出し冒険者だ」


「そ、そうか……それは災難だったな……」


 魔族にまで同情されたか……っていうかお前ものんびり出来ていない原因の1つなんだよ!。


 だが、それとこれとは別と言わんばかりに言葉の続きを話し出す。


「これで、我も本気を出さなくてはいけなくなった! 武人の誇りである剣を折られたのだからな!!」


 バルバは大層お怒りのようだ。


 雰囲気がガラリと変わりここまで威圧感がビリビリと伝わってくる。


 どういう原理かバルバの筋肉が異常に膨らみ巨体がさらに大きくなった。


「参る!!」


 初手にバルバがとった行動はシンプル、思い切り地面を蹴り付け一瞬で距離を詰めてきた。


 あまりのスピードに一瞬ヒヤっとしたが、横なぎを回避しカウンターを叩き込む。


「ッ! なんたる力……!」


 カウンターで真っ二つにしてやろうと思ったが、剣で防がれ腕を一本跳ね上げる程度に留まった。


 ここからは超近接戦闘の時間だ。


 変に距離を取って戦えば絶対的なリーチの差で負ける。


 4本の腕から放たれる斬撃は反撃を許さないほどのモノ……隙を作るにはさっきみたいに剣を跳ね上げるしかない。


「ツッ!!? ここまで耐えるか! 貴様、その剣技を一体どこで……!」


「戦闘中に喋りとは……余裕だな? あいにく、剣を教えてくれる奴はいなかったんで……な!!」


「しまったッ! 体勢が!」


 わずかな隙を見逃さずに剣を弾き返すと、バルバの巨体はグラリとよろめき連撃が一瞬止まった。


 チャンス!!。


 足がガラ空きだ。


「ふっ!」


 ダメか……!、体格差が大きすぎる……! 骨までいかない!。


「ガアッ!! 見事!」


 お互いにその場を動かず、ただひたすらに剣をぶつけ合う。


 僅かな間に交わされた攻防は百を超えているだろう。


 そんなに時間は経っていないように思えたが体感時間は長かった。


 しばらくの間は均衡を保っていた俺たちだったが出血が酷いバルバの動きは徐々に悪くなり、ついに膝を地面に着けた。


「グゥ……! し、信じられん!! 剣技だけなら魔王軍の幹部にも匹敵する我と対等以上にやりあえる人間がいるとは……」


「“身体能力超上昇”(ハイ・バースト)! 反動が大きい故このスキルは使いたくなかったが……」


 強化魔法か! まいったな……だったら俺もスキルを使う!。


「【ツルギノオウ】! 悪いけどこっちもスキルを使わせてもらう!」 


「ほう……まだ上があったか! 面白い! とことん殺り合おうぞ!」


 目をさらに血走らせると、バルバは重々しい剣を4本の腕で再び構える。


 いつ剣戟が始まるのか、お互いにわからない……ただ言えるのは些細なきっかけでこの沈黙は消え去るということ。


 戦闘の合図になったのは何かが折れる音だった、その音を合図に俺たちは目を見開きほぼ同時に剣を振る。


「「ふっ!!」」


 さっきまでと違ったのはそこからだった。


 俺は地面スレスレに顔を近づけながらバルバの元へと駆けると、すれ違い様に剣を叩き折った。


「なっ!!?」


 後方で止まると反応できずに剣を折られたバルバがこちらを振り向き驚愕の表情を浮かべる。


「先程までのスピードとは比較にならん!? そのスキルは……一体……」


 【ツルギノオウ】は剣の潜在能力を上げるだけで身体能力までは上がらない。


 だが、俺の中に内包されている聖剣の潜在能力を上げ能力を使用すれば、擬似的に身体能力を強化できる。


「……認めよう、我では貴様には勝てん! だが我は武人である前に魔王様に忠誠を誓う者……このような真似は不本意だが仕方が無い!」


「ウオォォォォオオォォォ!!!!」


 身がすくむ様な咆哮、地面が振動し音が空気に乗ってビリビリと体が痺れる。


「今のは合図だ! 街に忍び込ませたもう一人の魔族が街を襲撃する手筈になっている!」


「貴様にはもう少し付き合ってもらうぞ!!」


 わざわざ教えてくれるなんて律儀な奴だ……遊んでる場合じゃないな。


 作戦を教えたのは命懸けなら足止めは絶対にできると思ってのことか、それとも武人気質だからかわからないが。


 どちらにせよ時間がない。


「そうか、ならこちらもこれ以上付き合う気はない!」


 空いた片手に一振りの聖剣を具現化させ。


 聖剣は赤く輝き、目にした者を虜にするような美しさを誇っている。 


 名は“炎帝の聖剣”手にした者に炎の加護を与え炎を自在に操る力を付与する。


 俺はその剣で虚空を一閃した。

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