Scene7

 七夕当日。その日は土曜日だった。恭一と葵は朝からチラシ配りに駆り出されている。

「……っ何で俺がこんなことまで……なんでチラシ配りが当日なんだよ! 今まで親父さんは何やってたんだ! 空見上げるだけなんだから特に他準備することないだろ!」

「えー、企画書作成3ヶ月、ポスター作成2ヶ月、最終的に全部断られた学校等へのポスター掲載交渉7ヶ月。占めて1年越しの超長期計画よ」

「ええ……」

 恭一はあからさまにげんなりした顔をした。

「な、なんで断られたんだよ」

「えー、なんか、そんな夜の公園に子どもを集めるなんて催しを宣伝するわけにはいかない! とか。安全面は大丈夫なのか! とか」

「順当といえば順当か……だが市役所のイベントなんだろう?」

「人手がなくて安全面を確保できない、って見抜かれたんでしょ」

「じゃあやっちゃダメだろ……」

「大丈夫大丈夫、私達がいるんだし!」

 葵があっけらかんとした笑顔で、恭一の背中をバシバシと叩く。


 市民会館や文化ホール、図書館を巡って主に親子連れに声をかける。だがやはり、いずれも反応は芳しくない。

「え、今日の晩ですか? いきなりはちょっと……」

「最近物騒じゃないですか。夜にそんな人通りの少ない公園に行くのもねぇ」

「これ本当に市役所のイベントなんですか? 今まで聞いたこともないんですけど……なんであなた達がチラシを配っているの?」

 少しはマシな返事もあった。

「でも、ここってそんな綺麗な天の川見れるんですか?」

「それは保証します!」

 二人は、それだけは自身を持って答えることができた。


 誰一人として参加希望者を見つけられずベンチでうなだれていたところに、一人の少年がてとてとと近づいてきた。顔を上げると目の前に利発そうな幼い顔が目の前に。小学一年生くらいだろうか。

「チラシちょーだい」

「あ、ああ……」

 二人はあっけにとられながらも、チラシを差し出す。

「あまのがわ、みれるの?」

「ああ、見れるぞ!」

「来てくれるの!?」

 食い気味に迫る二人に、後ずさる少年。

「んん……わかんない」

 二人は反省した。

「見たことないくらい、最高に綺麗に見られる。ぜひ、時間があったら来てほしい」

 恭一は目を見てしっかりと語りかけた。

「かんがえとく」

 少年はそれだけ言い残して去っていった。

「保護者の人にも相談しといてね!」

 葵が急いで声をかけた。


「ねぇ! なんで"時間があったら"なんて言うの? 私達は来てもらわないといけないんだよ? イベントを成功させなくちゃいけないの!」

 問い詰める葵に対して、恭一はあくまで冷静だった。

「こんなわけわからんイベント無理強いできるわけないだろ」

 そして恭一も、少年の去った方を見つめる。

「だが……あの子はきっと来るぞ」




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