第7話 特別じゃなくても……


「本当にすいませんでしたっ」

「へ?」


 ちょっとしたハプニングはあったものの、あの後は特に問題なく町田さんの1時間接客体験は終わりを迎え、その後は昨日とほぼ同じ工程をこなしバイトを終えると、町田さんが何故かこうして頭を下げてきたのだった。

 俺も梅バァや先輩達も意味が分からずお互い顔を見合わせる。


「えっと、なんのことですか?」


 しょうがないので俺が尋ねてみることにする。


「い、いや、なにって……私が外国人のお客様が来た時に固まっちゃったことですよっ」

「? 特に町田さんが謝る要素なかったと思いますけど」

「いやいやいやいや」


 町田さんは首を横に振って全否定の構えである。というか、必死に首振ってるのは分かるんだけど可愛さしか伝わってこない。この唐突な小動物感はなんなんだ。


「だって、私固まっちゃいましたし」

「教えたことは出来てたらしいじゃないですか。今日教えたことは挨拶と案内だけです。それが出来てるのにどこが問題が?」


 先輩達の話によれば町田さんは1発目だと言うのにしっかりと声が通っていたらしい。

 そもそもそれすらしっかり教えていない梅バァの暴挙なのに、よく出来たものだと感心こそすれ、問題点は1つもない。


「いやだって、赤田さんに困ったら先輩達に助けを求めてくださいって言われてたのにパニクってなにもしなかったんですよ!? 私、私……」

「あー」


 なんとなくだが町田さんがここまで落ち込んでしまっている理由は分かったような気がする。


「その上、赤田さんに助けられて……」


 きっと町田さんは何も出来なかった自分に絶望しているのだ。だとしたら下手に町田さんをフォローすれば自己嫌悪に陥らさせるだけ。


「まぁ、助けるのは先輩として当たり前ですしね。……英語話したりは出来ないんであまりカッコよくはなかったと思いますけど」


 俺は少しおどけながらそんなことを言ってみる。ちょっとでも明るいムードにしてあげることがこういう時は大事だ。

 というか実際問題全くカッコよくはなかったからな。


「予想される頼みごとリスト(英語版)を持って対応しただけですからね」

「だとしても全く物怖じせず目を合わせてそれが出来るのは凄いと思います」


 町田さんが身を乗り出さんばかりの勢いでそんなことを言う。眩しい、俺みたいな陰の者にとっては眩しすぎるっ。


「それに引き換え私は……」

「全く同じだね」


 それまで町田さんの様子を黙って見ていた梅バァがここで初めて声をかける。どこかその表情は柔らかい。


「あのなにがですか?」


 町田さんはキョトンと首をかしげながらそう尋ねる。


「最初の頃の順一だよ」

「へっ?」


 うん、まぁ梅バァがあの返しをした時点でその話になるのは分かってた。当事者の俺としてはちょっと恥ずかしいけど……それで町田さんが元気を取り戻すなら仕方ない。

 止めるようなことはしない。


「順一もね、最初に外国人のお客様と当たった時にね何も出来ずに相当悔しがってたんだよ、今のアンタみたいね」

「赤田さんも?」

「そうさね。私からしてみりゃ正直仕方ないことなんだ。動けなかったとしても別におかしいことじゃない。でも、この子は相当悔しかったみたいでね」


 俺の髪をクシャっと撫でながらそんなことを言う梅バァ。


「それで次の日には、今日も使ってた予想される頼みごとリストなんてものを作って持ってきたんだよ。流石にあの時は驚いたね」

「ちょっ、梅バァ!?」


 話すとはいってもここまで話されるのは予想外だったが、黙ってろと言わんばかりの鋭い眼光をとばされ何も言えない。


「そもそも外国人がウチに来ることなんて滅多にないんだ。でも、それでも少しでもお客様に寄り添ってやれないかってね」

「それで作って来たんですか?」

「俺は別に頭がいいわけでもないからすぐに他の言語なんて覚えられない。でも、せっかく来てくれたお客様の要望を聞きもせず答えられないのは嫌だっ、てね」


 何故か変な俺の声真似をしながら話す梅バァ。なんかその決め台詞感やめてをもらいたいものだ。精神的ダメージがっ!


「確かにこの子は能力面だけで見れば世の中で呼ばれるような天才じゃないかもしれない。でもね、だからこそ自分が出来る最善を考えやれることは全て全力でやる。これは単純だけど意外とみんなが出来ないことさ」

「そうですね」


 やめてっ。というか今日本当に梅バァどうした!? 普段こんなに褒めてくれることなんて全然ないのに……なんかこそばゆいし恥ずかしい。


「アンタは今、自分が出来なかったことが悔しいかもしれない。でも、その悔しいという気持ちがある、これこそが大事だと思うさね。まだアンタはどこまでも成長出来る。めげずに頑張りなね」

「はいっ!」


 なんか俺としては終始、羞恥プレイを受けていたようなものだがそれで町田さんが元気を取り戻したのなら何も言うまい。

 いや、本心を言えば走って逃げ出したいくらい恥ずいけど。というか、町田さんの純粋な尊敬の視線が痛いっ。

 やめて、俺のような陰の者(以下略


「まぁ、それでなんだがね、町田ちゃん」

「はい」


 話は終わったものだとばかり思っていたがまだ続くらしい。しかし、先程の柔らかい表情からいたずらっ子のような悪い笑みを浮かべいるのが気になる所だ。

 なんか、俺の方もチラッチラと見てるし。


「今のアンタは足りない所だらけだと自覚してる。そうだね?」

「はい」

「だからこそ私は思う。もっと特別な現場を知るべきだと……」


 そこで梅バァは長いためを作ってから俺の方を見てニヤリと笑う。普通に不気味である。

 というか、寒気がする。


「アンタの尊敬する先輩と共にね」

「?」

「というわけで町田ちゃんが良かったらでいいんだが先輩順一と是非行ってくるといいよ。交通費も私が出す」

「これって……」


 梅バァがそんなことを言いながら町田さんになにかの紙を手渡す。それに対し町田さんは驚いたような表情を見せる。

 ……というか、先輩って俺じゃないよね? 違う先輩のこと言ってんだよね?


「あぁ、東京にある予約必須の大人気カフェ屋だね。それのVIP席チケット。町田ちゃんがいいなら今度の土曜日ここに順一と行ってくるといい」


 言ったぁぁぁ。この人、今度は隠すことなく俺って言いやがった。でも、俺は大丈夫だと確信していた。町田さんは受けるわけないと。というか、俺みたいなのと2人でとか嫌だろ。


「是非、是非っ」

「えっ?」


しかし、そう即答した町田さんに俺は思考の停止を余儀なくされるのだった。


 ナニヲイッテルノ? 町田サン?




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 次回「ハハッ、御冗談ヲ……」


 主人公……英語とか話せると思ってた人がいたらすいませんっ。

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 では!












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