第3話

 朝食を食べ終えた僕は早速外出することに決めた。

 昨日、前世の記憶を思い出した段階で自分がどれくらい戦えるのかも見極めてある。

 これなら確実に勝てるスラムの荒くれ者を相手に喧嘩出来るだろう……勝てない奴がいたのなら全力逃亡だ。


「……外出の許可、取るの忘れていた」

 

 公爵家の長男である僕は常に特別待遇。

 外出にも父上の許可がいるし、出来たとしても護衛と使用人がついてくるだろう……ダメだ。それではスラムの荒くれ者と喧嘩出来ないし、何より面倒。


「ま、こっそり行けばいいか」

 

 僕は自分が立っていた廊下……その壁にある窓を開き、僕は二階のこの場より飛び降りた。


 ■■■■■


 僕が前世の記憶を取り戻してから、初めての外出。

 

「ふふふ……」

 

 別に僕は前世の記憶を思い出すまでの記憶をなくしたわけじゃないので、この街並み自体に物珍しはないはずだが……それでも日本とは全然違う景色に僕の心は自然と高ぶっていく。


「おい!金持っていそうな坊主!串焼き買っていかねぇか!」


「結構だ!朝食を食べたばかりなのでな!」


「そうか!なら、昼にでも来てくれや!」


「おうよ!」

 

 今の僕の恰好は目立たないよう魔法を使って髪を染め、瞳も別の色に変え、更に地味な格好に身を包んでいる……しかし、あくまでこの地味な格好は公爵の家にあったにしては、というものだ。

 平民からしてみれば僕の恰好は金持ちのそれであり、どこかの商人のボンボンとして見られているのだろう。

 歩いているとよく何かものを買っていかないかと声をかけられる。


「ふんふんふーん」

 

 活気あふれるラインハルト公爵邸のある大都市。

 大通りにはいくつもの屋台が並び、色々な人間が

 この町にいるのは人間だけではない。獣人なんかもいたりする。

 これぞ異世界!っという感じの街並みを前に上機嫌になりながら大通りを歩く。


「……おん?」

 

 だが、どんな街であっても闇と言える部分はあるのだろう。

 この街にもスラム街と呼ばれる場所があり……そこへと今、引きずり込まれている少女の姿を僕の視界は捕らえた。


「くくく……感謝するが良い。小娘よ。僕はスラム街の荒くれ者とバトリたい気分なんだ。助けてやろう」

 

 人は結局のところ自分が一番だ。

 危険な思いをしてまでスラム街の危ない連中に関わろうとする奴なんていない……スラム街に引きずり込まれている少女は誰にも助けられることなくそのまま人生に暗いカーテンを下ろすことになるだろう……僕がいなければ。


「行こうか」

 

 僕は地面を蹴り、跳躍。

 建物の屋根へと降り立った僕は少女を抱えてスラム街を走る男の方へと足を進めた。

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