◎第23話・厄介厄介

◎第23話・厄介厄介


 王都に帰った後、彼らはギルドに「バリスタの星光」を得たことを報告した。

 忘れてはならないが、冒険者の本質的な任務は四大魔道具を得ることである。

「確かにこれは『バリスタの星光』……おめでとうございます」

 ギルド職員の【鑑定士】から称賛を受けつつも、カイルは質問する。

「確か、四大魔道具はギルドに寄贈するか、自分で次の冒険に役立てるか、選べるんですよね」

 ギルドの責任者は答える。

「はい。寄贈した場合は報奨金をお支払いしますが、四大魔道具は強力な効果を持っていますから、カイルさんが以降の冒険に使うこともできます。もっとも『バリスタの星光』は『バリスタの月光』と組でないと機能しないといわれていますが」

「だからこそ、僕たちは持ち続けていなければなりません。一組をそろえてからが僕たちの冒険の、いわば本番となるでしょう」

「なるほど……カイルさんは四大魔道具の二つ目も獲得されるおつもりであると」

「もちろんです。それが冒険者の使命ですから」

 これは事前に仲間たちにも相談した結果である。

 四大魔道具の二つ目――だけでなく四つ全てを、この手に収める。

 冒険者の本質を、これ以上ないほどに果たしてみせる。

 彼はその資格が自分たちにある、と、本心から信じていた。

「分かりました。とりあえず後で上には報告させてください。冒険者とギルドにとって、大きな成果には違いないことですから」

「承知しました。他になければ、これで失礼します」

 カイルはうなずき、仲間たちとともに席を立った。

「カイルさんたちのますますのご活躍を願っています」

 職員の言葉に「ありがとうございます」とだけ彼は答えた。


 その後、カイル一党は、今回の道中で得た肉を加工して売ったり、道具袋を整理したりして、冒険の後始末をした。

 それなりの金額が入ってきた。まずまずの金策になったといえよう。

 四大魔道具「バリスタの星光」をギルドに寄贈していれば多額の報奨金がもらえただろうが、彼らの都合上、そうするわけにはいかなかったのは前述の通り。

 ジェイナスからは、四大魔道具の価値から考えて当然ではあるが「バリスタの星光」以外の報酬を受け取れなかったので、その分、金策をカイルらは頑張ったのだった。

 とはいえ、勇者からふんだくった「手間賃」と併せると、とりあえず当面の生活には困らない額にはなったので、カイルとしては悪くはない結果だった。

 彼の自宅でつぶやく。

「またミレディが来て、お金を『落として』いく展開にならないかなあ」

「カイル君、またそんな……」

 彼の言葉にレナスは呆れ返った様子。

 しかしカイルは窓の外を見て。

「……いや、少なくとも勇者のお出ましではあるみたいだね」

「えっ?」

 その直後、扉を叩く音。

「全員、武器を持って警戒して。行くよ」

 緊張が走る。


 外に出ると、勇者ミレディ。

「あんた、『バリスタの星光』を手に入れたみたいね」

「そうだね。それで?」

 カイルは扉を閉め、戦闘に移れるようにさりげなく指示し、陣形を整えた。

「私に譲りなさいよ」

「なぜ? 四大魔道具の入手は冒険者の使命であって、勇者一党の任務では」

「御託はいいの! 勇者一党も魔王を倒す力を得るために、四大魔道具を集めることがあった。あんたの好きな前例やら歴史にあるはずよ。知らないとは言わせない」

「そうだね。でも勇者一党の目的は、あくまで魔王の討伐。四大魔道具は寄り道でしかない。冒険者にとってはそれが本質だけど。だから冒険者が勇者に四大魔道具の譲渡を命じられる理由はない」

「勇者に協力するのは善良な市民の責務でしょう!」

「それは道義的責任にすぎない。そこから四大魔道具を、いわれもなく没収される義務は導けないよ」

 カイルは「やれやれ」とでもいいたげに肩をすくめる。

 実際、冒険者が勇者パーティに四大魔道具を譲り渡した前例はある。しかし彼のいうように、四大魔道具を勇者が強制的に接収する権利は、いまだかつて認められたことがない。仮に有償だとしても、それが肯定された例はない。

 標記の前例は、あくまで自由意思に基づく任意の判断だったといわれているし、実際、冒険者のほとんどがそう認識している。

 しかし、ミレディは納得できなかったようだ。

「あくまで『バリスタの星光』を渡さないというのね」

「渡す理由がないからね」

「力づくで奪い取る、と言ったら?」

 勇者パーティが武器を抜くのと同時に、カイルのパーティは各々得物を構える。

「勇者とはいえ無法は無法。これは正当な抵抗だよ」

 言って、カイルは静かに剣を抜いた。

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