◎第08話・勇者の剣と金策
◎第08話・勇者の剣と金策
かくして仲間はそろった。
「さて、何から取り掛かろうか」
カイルが問いかける。
ギルド構成員には無料で貸し出している会議室を借り、打ち合わせをしているのだ。
「何からも何も、四大魔道具を探すんじゃないの?」
もっともなレナスの質問。
しかし。
「そうなんだけど、金策とか装備の更新、四大でない必要な魔道具を集めて冒険に備えるとか、下準備としてやることは結構ある。特に金策だね、何事をするにもお金がかかる。この一党を維持する、食費や宿代なんかもあるし。勇者一党から追放されたときに路銀を渡されたけど、それも決して無限じゃあないからね」
「むむ……」
「そこで僕から提案なんだけど」
彼は軽く咳払いをして続ける。
「勇者の剣をミレディたちより先に手に入れて、有償で譲り渡すのはどうかな」
一同は目を丸くした。
「つまり勇者の剣を勇者に売りつけるの?」
「確かに前例はあるが、金策のため売りつけたというよりは、冒険者たちが勇者に協力して、手間賃を少しばかりもらった、という話だぞ」
「そもそも、勇者の剣は勇者の象徴で、ただの冒険者が扱うのは下手をすると正義に反するとみられますぞ。四大魔道具ならまだしも」
なお、勇者の方針にもよるが、勇者パーティが四大魔道具を集めていた例も多い。名誉のためというより、もっぱら魔王との戦いに役立てるためにそうしているようだ。そしてミレディのパーティもその例に漏れないはずだった。
ともかく、カイルは答える。
「売りつけるというと下品な話に聞こえるけど、勇者の剣を他人に先に入手される勇者というのも、その適格性を問われてしかるべきだと思う。というか、僕を追放した時点で、一党の結成から結構経っているのに、いまだ手に入れられてなかった。そんな体たらくでいるミレディに、喝を入れる意味で、ちょっとばかり高値で商談を持ち掛けるのは、許されるべきなんじゃないかな」
「いやあ……その……」
レナスは渋い表情。セシリアも、なんとなくスッキリしないようだ。顔に書かれている。
しかしアヤメは違った。
「うぅむ、皆様方、よく考えてみれば、カイル殿の意見は筋が通っているように、それがしにはみえまする」
「おお!」
カイルは思わず感嘆をもらした。
「勇者の剣に限らず、お金で手間と時間の余裕を買う選択肢は、あらゆる物事に共通のことのように思えまする。勇者一党が、勇者の剣を手に入れるに、なかなか必要な量の手間と時間を割けないのであれば、代わりに入手してお金で解決するのは、なんら人の道に反しないことでしょうぞ」
彼女は淡々と話した。
「だけど、勇者にとっては、その象徴を金で買ったという事実は、今後常について回るよ……さっき話した前例は、色々特殊な事情のあった、あくまで例外的な場合みたいだし。私の知る限りでは」
「そこまで勇者の心配をする必要はないと思うよ。実際、四大魔道具なら、金で買った例も少なくはないし。勇者の名誉を気にするのは、結局お金の話を汚いと思っているからだろうけど、金策は冒険者にとって永遠の課題だ、その程度の理由でお金に困らせられるのは合理的でないと思うよ」
「うん……まあそう言われれば、そうだよね」
レナスは不承不承といった感じで、カイルの意見を認め出した。
するとセシリアも。
「まあ確かに、勇者一党も未だに勇者の剣を手に入れられていないのは、なかなか格好のつかない話だ。金で買わせられるなら、それでもいいのかもしれない」
「そうでしょう。……これでやることは決まったね。僕たちは勇者の剣を手に入れて、勇者一行に売り渡す。当面の目標だ。いいね?」
「まあ、仕方がないかあ」
三人の仲間は、それぞれの意思でうなずいた。
「よし、僕たちの初めての仕事だ、頑張ろう」
こうして、ついにカイルたちの伝説は始まった。
とはいえ、情報収集は地味にして地道である。
何人かに手分けして、酒場や武具屋、鍛冶屋、魔道具屋、旅道具屋など、冒険者や情報が集まりそうなところに足を向けたが、なかなか有力な情報は集まらない。
アプローチの仕方がおかしいのだろうか?
もっと別の場所を巡るべきなのか?
などと、カイルはアヤメに聞いてみたが。
「カイル殿のやり方は、間違っているようには思えませぬ」
これで正しいという。
とすれば、単に試行回数が足りないだけなのだろうか。
「ただ……」
「ただ?」
「なんというか、目の前の相手が、必要な情報を持っているかどうかをかぎ分ける力が欠けているのかもしれませぬな」
「……それはきっと、【密偵】の天性を持っているかどうかに関係するね?」
「おそらく。それがしは生まれたときから持っておりましたゆえ、持っていない方のことは、嫌味抜きでよく分かりませぬ。ですが、その辺りは直感的に、【密偵】の天性に関係しているように感じまする」
「そうか。【司令】や【主動頭首】でも埋められない差なんだろうね」
「然り。【司令】や【主動頭首】の底上げは、天性そのものの有無とはまた違うものなのでしょうな。我らはそれらの底上げを、つい天性の上級、下級に振り分けて考えてしまいがちですけれども」
「興味深いね。でも僕にはどうしようもないことなのも確かだ。まあ地道に試行回数を増やすしかないね」
「そうですな……あまり辛口なことは言いたくありませぬが」
彼の天性にあらざる任務は、陽が落ちるとともに再開される。
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