第4話 貴方は独りじゃない

「キャーーー!」


 突然の叫び声で私は目覚めた、まだ寝ぼけた頭でベッドから起き上がると女性が隣のベッドの上でこちらを警戒けいかいしているような動きでナイフを構えていた。


「ちょっと!ここはどこなの!?あんたは誰なのよっ!」


 興奮こうふんする彼女をなだめなければと思い、私はあわてて昨日の事を説明した。


 すると彼女はようやく警戒を解いてくれたのか、ベッドにちょこんと座ってこう言った。


「そ、そういえば昨日助けて貰ったわね、寝起きで頭が混乱してたわ、ごめんなさい。そしてありがとう……」


「いえいえ、元気になったなら良かったです。

 どこか痛む所とかはありませんか?」


「特にどこも問題ないわね、なんなら前よりも元気なくらい?なんでかしら」


 それは私の魔法のせいだろう、【メディ】には対象の疲労等ひろうとうを回復する効果もあるからだ。


「とにかく元気になったなら良かったです、ところで昨日は天使の花を探しに森へ行っていたのですか?」


 私がそうたずねると、昨日のことを思い出したのか、とても嫌そうな顔をしてこう言った。


「そうなのよ!アイツらが天使の花の場所を知ってるとか言うからついて行ったら、あのザマよ!もうホント人間って信じらんない!」


「そうだったのですね……実は私も天使の花を探してまして、見つけるために博物館に行こうと思ったのですが、ここに来たばかりで生活できるお金もなく、採取依頼を受けて森で薬草を採っていた所だったのですよ」


 それを聞いた彼女は不思議そうな顔をして私に尋ねてきた。


「どうして天使の花を見つけるのに博物館に行く必要があるの?」


 確かに、もっともな理由だ、説明しないとそりゃ分からないよな。いきさつを説明しようとした所で、私は重大なことを忘れていた事に気づいて大声をあげた。


「しまった!カリファからの依頼をすっかり忘れていた!早く妹さんを探さなければ!」


 彼女は私が突然大きな声を上げるのでビクッと驚き、こんなことを口にした。


「え?どうしてここでお姉ちゃんの名前が出てくるのよ?」


「え?」


「ん?」


 2人顔を見合せて数秒見つめあった後、私はようやく理解が追いついた。


 そう、今目の前にいる彼女こそ、私が最初に探すはずだった、女神カリファの妹だったのだ!


 偶然にも目的の少女を助けていたのだな、と内心ホッとしたと同時に、カリファに今まで忘れていてすみませんでしたと念を送っておいた。


 私がずっと考え込んでいるからか、心配した彼女が声をかけてくれた。


「ね、ねぇ、大丈夫?お姉ちゃんの事、あんた何か知ってるの?」


 そこで私は説明せねばと思い、自分が異世界から来た事、カリファに妹を助けてくれと頼まれてこの世界に来た事、そして私のスキルについて教えた。


「なるほど、確かにお姉ちゃんが好きそうな見た目してるもんね……それにしても魔法創造だなんて、すごい能力ねそれ!その【サーチ】っていう魔法で天使の花の場所がわかるってことなんだ」


「そうなのです!もし貴方さえ良ければ一緒に天使の花を見つけに行きませんか?貴方の力になるように言われたので、出来れば一緒に行動したいのですが……」


 すると彼女は嬉しそうな笑顔で頷きながらこう言った。


「こちらこそよろしくお願いするわ!あんたには助けてもらった恩もあるし、お姉ちゃんが選んだ人だから悪い人なわけないからね」


 とても姉の事を信頼しているんだなと感じつつ、そういえばまだ名前も知らないなと思い聞いてみた。


「すみません、お互い自己紹介がまだでしたね、私はサカキ、貴方の名前を教えていただけますか?」


「あたしはラ・ルト、ルトって呼んでよ!これからよろしくね、サカキ!」


 そう言うとルトはこちらに手を差し伸べてきたので、私も手を出し握手した。


「サカキ、これからどうする?」


「そうですね、とりあえずギルドに行って私が受けた薬草採取の依頼の報告に行きますか。その後、博物館に行き、天使の花を鑑定して、探しに行くという流れでどうでしょう?」


「おっけー、じゃあ早速ギルドに行きましょうか!」


 怪我も疲労も回復し、元気いっぱいなルトは足早に階段を降りていったと思えば、何か忘れ物をしたのかこちらへ急いで戻ってきた。


「サカキ!忘れてた!これ昨日助けてくれたお礼ね、少ないけど取っておいて!」


 そう言うと少し恥ずかしいのかまた足早に宿屋の外へ走り出して行くルトを見送り、ルトから500ネカを受け取った私は、なんて律儀でいい子なんだ……!と感動したと同時に、絶対にこの子の助けになろうと再度カリファに誓うのだった。


 そうして宿屋を後にした私達は、ギルドに行き依頼の報告と納品を済ませると、私が薬草を規定の量よりも多く納品していたので、依頼料も少し多めにネカをもらうことができた。


 なのでルトが、せっかくなら商店街を見て回ろうよと言ったので、急ぐ旅でもないし私も全力で異世界を楽しみたかったので、賛成した。


 商店街に着くとルトが色々説明してくれた、この商店街は碁盤ごばんの目のような地図になっていて、とにかく広いのとお店が多いのが有名だということ、さすがは酒と料理が美味いと言っていただけはあるな、そこらじゅうからいい匂いが漂ってきている。


 その後ルトのおすすめのご飯屋さんに行ったり、服がこの世界に来た時のままの異世界感のない服だったので、服を買ったりして商店街を楽しんだりした。


 美味しかったし、目新めあたらしいものばかりで楽しかった、こういう時間はこれからも大事にしていきたい。


 歩いている途中にルトに聞かなければならないことがあったので、聞いてみた。


「そういえばルトは、天界に戻るために天使の花を探しているのですか?戻れる条件をカリファから聞いていなかったと思いまして……」


 するとルトは複雑な表情でこう答えた。


「大事なとこ伝え忘れてるのねお姉ちゃん……じゃあ、あたしから説明するね」


 コホンと咳払いを1つしてルトは話し始めた。


「自分で言うのもなんだけど、あたし実は天界で結構優秀だったのよね、それでここに堕とされる時に能力をかなり封印されちゃってね、その封印を全て解けたら天界に帰ってきてもいいって言われてるのよね、封印は全部で7つ、どれも一筋縄では手に入らないアイテムが封印を解く鍵になっているわ」


「なるほど、つまりその封印を解く鍵のひとつが天使の花、というわけなのですね」


「そ!そういう事なの、だからどうしても手に入れたくて、あの時は1人で心細くて焦ってたから、あんな奴らを頼ってまた騙されて……あたしってほんと信じやすいんだよね、自分が嫌になっちゃう……」


 そう語るルトからは寂しさや悔しさ、怒り、色々な感情が伝わってきて心にくるものがあった。


 そしてやはり、これは伝えておかなければと思ったので、言うことにした。


「私はカリファに、貴方のことをお願いされた身ですが、それは頼まれたからやるのではなく、私自身が貴方の助けになりたいから共に旅をするのだという事を、忘れないでください、貴方はもう独りでは無いという事を忘れないでください」


 それを聞いたルトは少し涙ぐんだ目でこちらを見て笑い、涙を誤魔化ごまかすようにこう言った。


「うん!ありがとサカキ、元気出た!よーし!

 このまま商店街の美味しい物食べ尽くすぞー!」


 走り出すルトに私は声をかける。


「博物館に行くネカは残しておくんですよー!」


 なんだか娘ができたみたいで楽しいな、私は前の世界で孤独だったが、子供が出来たらこういう感じだったのだろうか、感慨深かんがいぶかいものだな。


 それにしても封印が7つか、ルトには悪いが長い旅になりそうでワクワクしてくるな、これからどんなことが待ち受けているのか想像もつかない。


 とりあえず今は天使の花を手に入れるために頑張るとするか、と意気込んだと同時に。



 

 ガッという鈍い音と共に目の前が真っ暗になった。

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