第6話女王蜂討伐の依頼

 その状態のまま半ば引きづられるようにギルドへと着いた。中に入るとユリアは一目散に依頼の貼ってあるボードの前に進んで行った。

 ここまで来たら仕方ないのでその後をリオもついて行った。


「どの依頼を受けるつもりなんだ?俺はFランクだからそんないいのないぞ」

「それは知ってるけど大丈夫よ。パーティーを組んだら一番ランクが高い人の一つ前の依頼までだったら受けられるから。要は今私がBランクだからCランクまでの依頼なら可能ってことね」

「パーティーを組むのにそんな利点があったんだな」


 パーティーに誘ってきた時にその事も一緒に教えてくれていたら考える余地はもう少しあったかもしれない。なんなら二つ返事でいいと言っていた可能性もある。


 リオは冒険者登録を完了してから依頼の貼ってあるボードを見て、Fランク冒険者の受けられる依頼の数の少なさを初めて知った。ボードに沢山貼ってあってもその中の僅かだけしか受けることが出来ない。

 これなら昇級試験を受けた方が良かっただろうと。



 ユリアは依頼ボードを睨みつけるように真剣な顔で端から端まで見ていた。しばらくの間そのままだったけれどようやくいいのが見つかったのか俺の方へ顔を向けてきた。


「これどう?報酬も悪くなさそうだけど」

「いいんじゃないか。それで」


 ユリアの見せてきた依頼はCランク相当の森の奥の大きくて高い木の上に巣を作る凶暴な蜂デンジャービー達の親玉である女王蜂クイーンビーの討伐であった。

 また素材等を持ち帰ってギルドに納品すると追加報酬で貰える金額が多くなると書かれていた。


 ただ注意点としてこの蜂達の持つ毒針は猛毒であり、一回だけでなく何回でも刺すことが可能なので更に危険であると。


 一番厄介なのが親玉である女王蜂で体がとにかく小さい。それに加え飛ぶ速さもとても速く、身の危険を察知すると自分一人だけで素早く逃げてしまう。そのため討伐が大変なようである。


「依頼の受理も終わったから早く行きましょう」

「そうだな。準備も大丈夫そうなら行こうか」


 俺達は街で一応解毒薬を買ってから森へと来た。依頼の蜂達がいるのは森の奥らしいのでもっと進まなくてはいけないようだ。リオは薬草採取で森の浅い所までしか行ったことがないのでこの先は未知である。

 一方ユリアはそうでなく別の依頼で何回か奥の方に入ったことがあるみたいだ。なので慣れているのだろう足どりは軽い。


 奥に進む途中に低級の魔物がちらほら出てきはしたものの順調に進んでいる。しかもユリアが強く一人で倒してしまうので俺の出る幕は全くなかった。

 さすがBランク冒険者だ。なんならこのまま任せといたら依頼もサクッと終わりそうである。



 順調に止まることなく進み続けたことでスムーズに森の奥まで来ることが出来た。彼女いわく「もうすぐで目的の場所に着くはずよ」と。

 その言葉通り少し進むと森の中で開けた場所へと出た。その真ん中には見上げるほどの高さでとても大きい木がドッシリと構えてそびえ立っていた。


「あの木相当な樹齢そうね…」

「確かに、あの大きさはそうだろうな」


 俺達二人は自然と口から感嘆の息が出ていた。この木からは不思議と包み込んでくれるような母のような温かさを感じる。


「この木の上の方に蜂の巣があるみたいね。あ、ほらあそこ」


 ユリアは目がいいみたいで彼女の指さす先をリオがよおく目を凝らして見れば巣らしき物が見えた。見えたといってもハッキリとはしておらず、ぼんやりとである。


「ああ。よおく見ればそれっぽいのがあるな」

「どうやって討伐する?巣はあんな所だし」


 ふーむ、困ったな。流石にあの高さじゃ俺の『武器召喚』で弓を出したところで当てられる自信もないし、何よりその腕が俺にはない。


「あの高さは流石に俺にはどうしようもないな。お前には何か手立てや策はないのか?」

「ふふふっ。勿論あるわよ。私がこの依頼受けよって言ったんだしね」


 その策に余程自信があるのか不敵な笑みを浮かべながら俺を見てきた。


「それで…どうするんだよ」

「私ギフトで『弓』を持ってるの」

「あぁ。……っていやいやそれだけか?弓じゃ、あの高さの巣に当てるのは至難の業だぞ」


 自信満々に弓を持ってると言われたが、流石にそれで狙うのは厳しいだろう。これによってユリアの策に期待していた俺の気持ちは一瞬でなくなった。


「それは弓だけだとって話でしょ。大丈夫、私にはもう一つ秘策があるから」

「もう一つあるならそれを最初から言ってくれよ…」


 ユリアはもったいぶって秘策を俺には言わないまま「まぁまぁ、リオはそこで見てて。巣が落ちてきたら女王蜂の討伐は任せるわね」と。

 要は面倒な女王蜂の討伐を俺に押し付けてきたってことだろう。


 どうするかは気になるし、まぁ…それでもいいか。



 ユリアが「弓」と言った瞬間、彼女の手には弓が持たれていた。これはリオの『武器召喚』と似ているけれど彼女のは弓限定である。

 そのまま手に持っていた弓を木に向かって構えて引き絞り矢を射った。


 その弓から放たれた矢は真っ直ぐ木に向かって突き進み矢が木に刺さる間際に軌道をグイッと九十度変えた。それも真上にである。その矢はどんどんスピードが増して蜂の巣を支える枝を貫いた。

 その衝撃の強さによってだろう巣が地面へと落下しているのが見える。


 普通矢があんな風に曲がるものなのか……?そんな訳ないよな。普通に射ってああなるなら俺にだって当てることが出来るだろう。


「私の役割は終わったから後はリオの出番よ」


 ユリアは自分のやる事は終わったとばかりに後は俺に任せて何もしないつもりのようだ。仕方がないのでリオも『武器召喚』を使うことに決めた。




 落下している真っ最中の巣が地面に激突すると、身の危険を感じた女王蜂が逃げてしまうのでその前に倒さなくてはいけない。

 女王蜂も含めて全部まとめて一度に倒してしまいたいと思ったら丁度いい考えが思いついた。巣諸共ペシャンコに押し潰してしまおうと。


 そう考えた俺は重力魔法の付与された武器、押し潰すというのでハンマーを想像した。そのまま「武器召喚」と言い地面に着く前にリオは上から巣に向かって振り下ろした。

 重力魔法が付与されているのもあって巣ごと地面が凹みその辺りだけ地面が沈んでいた。


「よし。これで討伐完了だな」

「ちょっと。よし、じゃないわよ。そういうの使えたなら教えてよね」

「すまんすまん、別に隠してたわけじゃないんだ」


 ユリアは全くもう…!という感じで大袈裟にため息をついて俺を見ながら言ってきた。


 討伐が終わって丁度良かったのでずっと気になっている矢が九十度曲がったのは何故なのか彼女に聞いてみた。


「なぁあの時、あの矢は何で急にあんな風に曲がって巣に当たったんだ?」

「あーあれね。『一発必中』っていう私のギフトよ。簡単に言えば一日一回だけ使えて狙った物に必ず当たるの」

「なるほどな。それであんなに曲がったのか」


 『一発必中』このギフト必ず当たるっていうのがいいな。一回でいいから俺もこれを使って遠くの的を射ってみたいもんだな。

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