第2話アース王国とギルド

 そしてリオが十八歳の成人を遂に迎えた日。


 その日はいつもと違って珍しく朝から別館内が騒がしく、普段別館で見る側仕えよりも立派な服を着た使用人達が忙しそうに廊下を行ったり来たりしていた。


 今日は一体何だ…?本館の使用人達が忙しなくしてるなんて嫌な予感がするな…


 俺のその予感は嫌な事に当たってしまいこれまで一度も別館へと近寄ることのなかった両親と兄、姉が本館から此方へと来た。その傍らにはまだ五六歳位と見られる男の子がいた。


 もしかしたら俺の弟なのかもしれない。両親二人のいい所取りをしたのか人形のように透き通った綺麗さの美少年である。


「単刀直入に言うが私はもうお前の面倒を見るつもりは無い。十八歳になるまで育ててやったのだからもう義務は十分果たしただろうからな」

「ええ、そうよ。最後に餞別としてお金を渡すから今日中に出て行って頂戴。それから今後貴方が家名を名乗ることは一切許さないわ」


 でっぷりと太った父とワイン色の真っ赤なドレスを着た母は俺と会話するのも不快だとばかりにぞんざいな態度で言ってきた。

 気に食わないのだが、餞別としてお金をくれるのだけは正直有難い。


「ようやく欠格品のお前とおさらばできるぜ。俺らとは格が違ぇんだからここには二度と帰ってくんな」

「さすが兄様、よく言ってやりましたわね。私、貴方のこと弟となんて思ったこと一度もないわ」


 兄と姉は相変わらず性格は悪いようで俺が追い出されていなくなるのが清々するのか表情には隠しきれない愉悦が浮かんでいる。


「お兄さんだれ~?」


 両親や兄、姉とは違って弟は無邪気な笑顔で俺に近寄って来ようとしたが直ぐに母が「こんな者に近寄ったり喋ったりしては貴方が汚れるからダメよ。」と制した。



 願わくば弟がこのまま純粋無垢なまま育って欲しいものだ。それもあの家であの家族に囲まれて成長すれば恐らく無理であろうが…



 これからは貴族の欠格品ではなく唯の平民リオとして自由に生きていきたい、自分で考え行動して自分らしく生きていくと自分の心に固く誓って家を出た。


 そして国から国へ自由に世界を旅して回ろうと考え冒険者になることを決めた。この街から山を一つ越えた先には”冒険者の始まりの地”と云われるアース王国があるらしい。

 まずはそこを目指して進むことを決め、追放の際に渡された餞別のお金で旅に必要な物を買い直ぐに街を出発した。


 それは追放されたのもあるが何の未練もない、逆に嫌な記憶しかないこの場所から早く離れたいという自分の気持ちが強かったからに他ならないだろう。



 ***



 街を出てからアース王国へ向かう道中、俺は運が良かったのか魔物や野盗に出会うこともなく無事に国へと到着することが出来た。

 リオは身分証の類を持っていなかったためスムーズに門を通過するのは叶わなかった。門番に「このアース王国に何故来たのか」と入国の目的を詳しく質疑応答された。


 その質疑応答の最後には置いてあった白い水晶に手のひらで触れるようにと言われた。その水晶に言われた通り手で触れるとそれは元の白から青へと色が変化した。

 門番はその色を見て「よし、時間をとらせたが通っていいぞ」と門を通るのを許可してくれた。


 これは一体何だ…?水晶の色の変化によって何かが分かるのだろうが…


 この水晶によって一体何が判明するのか気になってしまい、通り過ぎた後もリオは暫く門の近くで様子を観察していた。

 すると商人のような格好をした男性の人の手が触れた水晶の色が今までとは違って白から赤へと変化した。


 それを見た瞬間、門番は険しい顔をして「お前は入国拒否だ。ここから立ち去るがよい」と厳しい声でその男性を追い返していた。



 どうやら犯罪や罪などの悪事を働いた人物は水晶の色が白から赤へと変化するようだ。そのため門番は悪人かどうかひと目で判断できる。

 過去に悪人だったけれど今はその行いを悔いて反省し善良に生きようと心を改心した者は白から点滅緑の後青に変化する。


 この青色になった人達は入国の許可が得られる。


 リオの住んでいた国ではなかったので全ての国で行っている訳ではないのだろう。




 まずはギルドに行き冒険者登録を済ませることに決めて大通りを歩いていれば、さすが”冒険者の始まりの地”と云われるだけあり大勢の冒険者が行き交って活気に溢れていた。

 歩き出したもののギルドの場所を知らなかったため露店で買い物ついでに店主に尋ねた。


「なぁ店主、知っていたら教えて欲しいんだがギルドって何処にあるんだ?」

「あぁ、知っとるよ。この道を真っ直ぐ行けば緑のでけぇ旗があってな、その下がギルドだ。兄ちゃん冒険者になるんか…?なら頑張れよ!」

「ありがとう。頑張るよ」


 店主に教えて貰った通り真っ直ぐ道を歩いて行けば目線よりも更に高い場所にある目印の大きい緑の旗が見えてきた。

 この目立つ大きさなら誰でも場所を教えてもらえば迷わずにギルドへとたどり着けるだろう。



 ギルドの両開きの扉を開けて中に入ったら大勢の冒険者達でごった返すほどの熱気で酒場も併設されているためかそこかしこでワイワイと盛り上がっていた。

 入口から周りを見渡せば三箇所の受付があった。それぞれその場所の上にプレートがありそこには


 *冒険者登録、パーティー申請受理

 *依頼の届け出、受理達成報告

 *素材の売買、換金所


 と書かれていた。リオはそれを見て冒険者登録のプレートが掲げられた受付へと並んだ。結構人がいたため暫く待ってようやく自分の番へと回ってきた。


「こんにちは、初めてお見かけしますので冒険者登録で宜しいでしょうか」

「あぁそれで頼む」

「かしこまりました。それではこちらの紙に記入をお願い致します。もし字が書けないようでしたら代筆致しますのでご入り用でしたらお伝え下さい」

「分かった」


 受付は男性の人だったが丁寧に優しく対応しくれたため、初めて来た俺としては顔には出さないが正直緊張していたので助かった。

 渡された紙には


 【名前】【年齢】【種族】

 【ギフト】(有無だけでも可)【ポジション】

 【昇級試験の可否】

 (試験を突破出来ればFランクではなく最高Cランクからのスタートが可能になる)


 ※ギフトが分からない場合は受付に伝えて貰えば調べられ、本人以外には表示されません。



 あの時あの教会で女神様から本当にギフトを授けられていたかの確証はなかったのでギフトの有無を確認することにした。


「ギフトの確認をお願いしてもいいだろうか」

「分かりました。少々お待ち下さい」


 そう言って受付の男性が奥へと行って入国の際に門で見たのと同じような水晶を手に持って戻ってきた。全く同じという訳でもなく水晶は白色ではなく透明で透き通っていてまるで硝子の鏡のようである。


「この水晶に手で触れて頂いて、その状態のまま”ギフト確認”と口に出して貰えば目の前に自分の持つギフトが表示されます」


 ギフトの確認の仕方を教えて貰い早速その通りにリオは手で水晶に触れた。そして「ギフト確認」と口にした瞬間目の前の何もなかった空中に文字が映し出された。

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