【青空チャンネルはじまるよ】ガチ探索者、死に戻って高校生配信者になる~ド級なパワーと未来の小技を紹介したら、規格外だとバズってます

桃色金太郎

死に戻り配信が最強説

第1話 強くてニューゲーム?

 年の瀬、モニターには華やかな表彰式が流れている。


 それは今年の最もイケている異世界探索者をたたえる最大のイベントだ。


 司会者が静寂のなか、最後のひとりの名を読み上げる。最高にして緊張の瞬間だ。


『今年度のナンバーワン探索者はー、またまた青空あおぞら呼人よひとだあああああ! 今年もやってくれたぜ、おめでとう!』


 キタッ! 俺は思った通りの結果に納得し、拳をグッとにぎる。


 俺の名前は青空あおぞら呼人よひと

 異世界と地球がつながった創世記から30年もの間、ずーっと探索者を続けている。


 ……おっほん。


 と言ってもね……いま発表された人物と俺とはまったくの別人なんです。はい、失礼しました。

 同姓同名なだけで赤の他人です。


 まぁ俺も探索者だけど、実力は探索者1億人のなかで順位は2万位台。


 いわゆる上位0.1%に入いるトップクラスだ。


 えっと、0.1%だよ? 普通に考えたら凄くない?


 ……そうだね、そうです。はい、2万位ですよ。


 微妙な順位だなとよく言われる。それは分かっているさ。


 ただ言い訳じゃないけど、俺と他の探索者とでは決定的な違いがあるんだ。


 それは俺がスキルを授からなかったただの人間だって事なんだ。


 このハンデはかなりデカイ。


 スキルがなければ決して歯が立たないと云われたモンスター。


 それを相手に、ガチの身体能力のみで勝負をしている。


 スキルがないのは残念だったが、俺はくじけず技を磨き、何気ない事にも工夫を重ね、スキル持ちに負けないよう努力をしてきた。


 その結果がいまの順位だから、ちょっとした自慢だよ。


 だからこそだ。同じ名前の彼とは運命を感じている。彼が評価されるのはうれしいんだ。


 まあ、彼と俺とでは天と地の開きがある。ありすぎるくらいさ。


 その違いはただひとつ。


 彼は最強スキルとうたわれる〝覇王剣術〞の使い手で、これが他者を寄せ付けない理由なんだ。


 圧倒的な殲滅力、華麗なる体さばき、攻守において完ぺきで、そして何よりもキレイな戦い方をする。


 同じ名前だし憧れたよ。彼の動画はすべてチェックをし、盗める所はすべて取り入れて同じ目線で立とうとした。


 いつか彼の目にとまれるように、認められるようにと願って。


 だからここまで来れたと思う。


 すると画面に映る青空呼人が、熱くこちらを指さし語りかけてくる。


『俺はここまで来たぞ。さあ、次はお前の番だ、待っているから登ってこい!』


 わき上がる会場。家の外からも同じく歓声が響いてくる。


「はははっ、今年も同じセリフだな。……ああ、待っていてくれ、もう一人の青空呼人。すぐにでも追いつくぜ」


 拳を突きだし念をおくる。


 そして彼のパワーも受け取るんだ。この30年間ずっとやってきたことだ。


 その度にあの青空呼人が、俺に言っているように思えてくる。


 だけど熱く思えば思うほど、ふと悔しくなる。


 俺はあそこにたどり着けていない。


 そう、足踏みしたままだ。


 才能がある地球人は、初めて異世界に着いたときに自然とスキルを授かる。

 たった一回きりのチャンスだ。


 だけど人生とは無情だ。


 異世界に着いた瞬間、俺にはスキルが無いとわかってしまった。

 あの日、俺は可能性をせばめられた。

 スキルさえあればとフト思うが、受け入れるしかない。


「だけど、俺は諦めない。2人の青空呼人で世界を驚かせてやるぜ」


 今宵こよい俺は空にむかって吠え、新たに決意をかためた。


 ところが、この1ヶ月後に俺はがんで死んだ。

 あっけない幕切れだったよ。


 無念を抱え、死とともに俺は闇の中に落ちていく。


 ……。


 …………。


 ………………。


 死とはこういうものなのか。長い時間がたった気がする。


 だけど闇が払われ、とつじょ光が広がった。


 まぶしくて目が開けられないが、周りはずいぶんと騒がしい。


「私スキルを貰えるなら、やっぱ魔法系がいいなあ」

「いやいや、MP頼りじゃない中間距離がいける槍術だよ」

「うふふ、貰えるなら何だっていいわあ」


 色んな人の声が聞こえてくる。

 誰かにドンと背中を押され、俺は多々羅たたらをふんだ。


 死後の世界って、もっとやさしいと思っていたよ。

 薄目をあけてそっと周りを見渡すと、大勢の人と橋の上で列に並んでいた。


 この急激な変化に戸惑っていると、後ろから声をかけられた。


「青空くん、前につめてくれる?」


「あ、ああ……」


 言われるがまま列に並びなおす。


 この相手に見覚えがある。

 名前は忘れたが、高校生の時のクラスメイトだったはず。


 だけど彼は中年の姿ではなく妙に若い。その子供なのか?


 でも不思議なことに、他にも沢山の元クラスメイトがいる。


 そしてみんなそろって当時の姿をしているんだ。


「こーら、みんな野外実習だからといって調子にのるなよお!」


「「はーい、先生」」


 みんなをたしなめる人物にも見覚えがあるぞ。

 高校当時の担任だ。しかも先生も若くて初々しい。


 このメンバーは、まるで俺が高校一年の時そのものじゃないか。


 異常な事態に焦り、さっきのクラスメイトに話しかける。


「ね、ねえ、これって何の列? もしかしてみんなも死んじゃって、天国に登るとか何かなの?」


「なんだよそれ。縁起でもないことを言うなよ。今日はスキルを貰うため、異世界にいく授業じゃんか!」


「えっ! それってさ、一年生の時の異世界へ初転移するヤツだよね?」


 ここは見覚えがある場所だ。高校一年のはじめに、俺にはスキルは無いと知らされた所だ。


 理解できない状況に呆然となる。


 まだ何かを言ってくるクラスメイトをそっちのけにし、今の状況を整理した。


 まず俺は死んでいない。


 体を蝕む激痛もない。


 だけどこれが現実かどうかは定かじゃない。


 なにせ高校当時のクラスメイトの全員が、若い姿でそろっているんだ。


 そして、この橋はスキルを授かるために、初めて異世界へ野外実習に出かけた場所だ。


「まさか、過去に戻ったのか?」


 単純で馬鹿げた考えだけど、スマホで見る自分の顔にはシワや傷もなく若々しい。


 普通なら喜ぶべきだろう。


 でもだ。それを簡単には受け入れられない。


 なぜなら、それは30年間で苦しみながら手に入れた技や力が、無駄になるかもしれないからだ。


 それをまたイチからやり直し、屈辱まみれの日々をもう一度味わうのか?


 頭の中がさぶられる。


 俺が生きた証になる技の数々。それが失くなってしまうなど耐えられない。


 すがる気持ちで思わず拳を突き出してみた。


 ──パァンンンッ!──


 目にもとまらない閃光のひと突き。

 空気がつぶれるいつもの音だ。


「ははっ……良かった。技は俺の中で生きている」


 あの努力を重ねた30年間はまぼろしではなかった。

 安堵と同時に、もしかして現実なのではと受け入れる自分がいた。


「青空くん、いまの何? めちゃくちゃ凄いじゃない!」


 振り返ると、カメラをかまえた美少女が立っていた。


 声をかけてきたのは七海ななみ陽菜ひな

 オレンジ色の髪の毛と同じで、明るく笑う女の子だ。


 親しくはなかったが、この子の事はよく覚えている。


 趣味で動画配信をしていて、この日も生配信をしていたはずだ。


 異世界と地球の通信が可能になり、いち早く取り入れたのだ。


「青空くんって格闘技とかやっていた人?」


「ま、まあね。多少だけど」


「すっごーい、じゃあ向こうでモンスターが出ても守ってもらえそうね」


 この子とこんなにも話す事になるとは思わなかった。

 後日、彼女はすぐに退学してしまう。一回目の人生では話す暇などなかったんだ。


「あ、ああ、任せて。ところでさ、今って何年何月だっけ?」


「えっと2026年6月だよ」


 やはり高校一年生に戻っている。


 このちょうど2年前に突如、異世界からのコンタクトがあった。


 それは今までおこなっていた勇者召還をとりやめ、自由意思であちらの世界を救って欲しいとの依頼だ。


 それまでは強制召還をしていたのだが、前任者たちは帰還可能なのを信じず、雲隠れやスローライフを勝手にしだしたり、挙げ句の果てには国まで立ち上げたそうだ。


 助けてもらいたいのに、逆にあちらの世界は大混乱。


 あちらの各政府はホトホト困り、徒歩・・で気軽に行き来できる異世界探索を提案してきたのだ。


 画期的な手法に地球人は歓喜した。


 契約と法律は守らないといけないが、その代わりに富と力を手に入れる事ができる。


 しかも異世界に行くには、大きな橋を徒歩で渡るだけでいい。帰りも何処かの橋を渡れば、元の場所に戻れる。


 その上、異世界に入れば才能のある者はスキルをも習得でき、より探索を優位に進めれる。


 まさに夢のような転換期だ。


 そして今日は俺たちの番。


 スキルを授かるため、課外授業として異世界に向かっているんだ。


 そんな場面に俺は死に戻り、あと一歩進めば異世界に入るといった状況みたいだ。


「こーら七海、撮影ばっかに気をとられるなよ」


「もう、小言の多い先生だね。青空くん、行こっか?」


「あ、ああ」


 立ち止まる俺は彼女にひかれ、最後の一歩を踏み出し異世界へと渡った。


「わあー、キレイ」


「……ああ、あの時のままだ」


 まさに別天地。初めてこの景色を見て心を奪われ、そしてスキルが無いことに落胆した場所。


 あれから二度と訪れていなかったが、忘れられるはずがない。


「よーし、各自ステータスカードを確認しなさーい。自動更新されるから、スキルを得た者は私にまで報告を頼むぞー!」


 先生の呼びかけのあと、あちらこちらで悲鳴があがる。

 俺には関係ない事だ。


「みんな子供ね。本質の自分は変わらないのにね?」


 七海さんは眉をしかめているが、口元は少しゆるんでいる。


 その訳は彼女もスキルを得たからだ。

 嬉しさを隠しきれていない。


「スキルおめでとう、七海さん」


「えええっ、なんで分かったの?」


 七海さんのスキルは影魔法と広域視野だ。

 2つもあるのは珍しく、探索者としてこの上ない組み合わせになる。


 だけど彼女がこれを使うことはなかった。


「青空くんはどうだったの。プレート見せてよ」


「いや、俺はダメだったよ」


「あっ、ゴメンね。私てっきり」


 俺がさらりと言ったから、七海さんは俺にもあるのだと思ったのだろう。

 気まずい想いをさせてしまった。


 お詫びにならないけど、俺はおどけて自分のステータスカードを突きだした。


「はははっ、スキルがないのもいいものだよ。その代わりにさ身軽で気持ちいいんだ」


「えっ!」


 やり過ぎたのか。


 笑いもとれずスベってしまった。どちらかと言うとノーリアクションかな。

 それに何か言葉を探している様子だ。


「で、でもさ青空くん……あるよ?」


「ああ、空欄がね」


「ううん、スキルの所に〝覇王剣術〞って」


 七海さんはカードを俺の手元に返してきた。

 そして、柔らかな笑顔で口をひらいた。


「君っておっちょこちょいなんだね。こんな大事な事を間違えるだなんてさ」


 思いがけない言葉を聞かされ呆然となっていると、頭の中でパンと何かが弾ける音がした。


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