★彡 翠夢の悪夢

★彡


 翠夢は、悪夢を見た。

 

 好きな人に対して、自らの意志で暴力を振るう悪夢を。

 手を上げると、止めることはできない。それは瑠璃にしか飛ばない。飛ばせない。

何とか回避したいが、それを止めることができない。手が痛い。でも止められない。

瑠璃はこの暴力に何も言わない。そのまま暴力を受けているだけ。


 理由はわからない。


 瑠璃の近くにいるときの感情の昂ぶりを否定したいのか。

それとも、過去してしまった過ちを繰り返してしまうのか。

「……(そんなわけが……)」


★彡


 翠夢にとって、瑠璃が恐ろしく大きい存在になっていることは確かである。だからこそ、過去の良くなかった頃の遺産に巻き込みたくない。そんな考えが翠夢にある。しかし、巻き込まないためには…

「……(別れてしまえば良い)」

「……(早く別れるには、瑠璃を傷つければいい)」

『そうだ…女の子に対しての憎しみを忘れることはできない。それは付き合い始めた女の子に対しても同じはずだ…』

 

 城将の声が聞こえた。

 すると、全く関係のないはずの女の子が大量に出てきた。

「あいつらに対して復讐しなければいけない!絶対に許さない!」

 女の子たちは張りぼてであったが、翠夢の過去に出てきた子ばかりである。その大半は、翠夢に対して敵意を見せ、攻撃を続けてきた女の子達である。張りぼてなので、何も喋ることはないし、痛がるような仕草も一切しない。それらを一方的に攻撃し続ける。過去の絶望と怒りを女の子にぶつける形で。


 女の子たちはもういない。周りにあるのは、既に壊れた張りぼてである。

そう認識していたら、怒りをぶつけて壊した女の子が何故か合体していった。まとまっていき、最後に欠片が1つになった後の姿は、張りぼての瑠璃であった…


「…(う…うああああ!?)」

「またしても…また女の子に手を上げた。その正体に気が付かずに。怒りのままに振り回した。俺はあのころから未だ変われていない。このままでは…」


『そんなこと考えなくても良い。』

 『城将』が話しかけてくる。いつも会うが、今回はかなり遅い登場だ。声だけなら少し前に聞いていたのだが、どういうことだろうか。

『それが、その行動がお前の望みだ。怖がることも、否定する必要もない。そのまま受け入れればいい。きっとあいつは許してくれる』

「そんなわけあるか…俺はそれを否定し続ける。瑠璃のためだし、自分のためでもある。俺はこの欲に負けることは許されない」


★彡


 翠夢は目が覚めた。瑠璃を求めていることに気が付いているが、無理にしようとすれば、瑠璃はもう男性を信用することはなくなり、まともな生活が出来なくなるだろう。そういうことをしない、したとしても無理矢理はしないと了承したのに、それをしたくなる感情に負けかけている。

 

 感情はもちろん、性欲に負けることはあってはいけないことだ。

 それをもう一度確認して、翠夢は悪夢から目が覚めた。性欲に負けかけているのを認識しているが、これを押しとどめていくと考え、もう一度寝ることにしたようだ。


今度は問題なく寝ることが出来た。

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