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 あ行からわ行まで飽きもせず。


 厭きもせず。


 よくやりますね。


 確かアルファベット。


 いや、そもそもドキュメントじゃない?


 探してますよ。


 オールフォルダから。


 一文字違い。


 そこにHは要りません。


「わかりづらい」

「申し訳ございません」

 ファイルの名前付けは個性が出る。

 三芳は英字に整理番号を振る。

「もっとこう感覚で良いんだよ。出席率最低概説とかな」

「そうもいきませんよ」

 苦く頬を上げる。

 准教授が去り、交代までの間は三芳が仕事を請け負っていた。

 紅茶の場所は……

 マグカップを二つ手にして部屋を回る。

 早く出来ないか。

 口煩い壁じゃなくて、寡黙で従順な研究室メイドは。

「印刷しますか」

「やめろ。経費がないんだ」

 データよりも紙が高価なこの時代。

 積み上がった本に値はつけられない。

 たとえゴミとしても。

「概説と言えば、後輩が受けてます。猫蚤という苗字なのでわかると思いますが」

「ああ、欠席した奴か。芸人のエッセイを解体して書評にしてきた天才だな」

「えっ」

 扉に貼ってある大量の資料からそれを選んで剥がし、ひらひらと見せる。

「変人だ」

「教授が仰るとお墨付きですね」

「言うねえ、三芳君」

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