上書き

1

 あ。


 ああ。


 あー?


 あああ。


 あああああ。


 同じ名前のファイルがあります。


 上書きしますか?


 はい。


 いいえ。


 はい?


 いえ。


 何文字まで分けるのですか。


 知ったことじゃない。


 ええ、そうでしょうとも。


 好きで撮った写真も六千をすぎるともういいやと。


 アナタは百八十二で飽きたようですが?


 五十音の次はアルファベット。


 数字。


 せめてものそれらを乗算……いえ、口が過ぎました。


 それほどの容量がある人間なんて、まだ生まれていませんでしたね。


 はい?


 はい、でいいんですか?


「いいんだよ、上書きだ」

「ダメでしょ、新規です」

 間髪入れずに一蹴した松篠は、キーボードに白い手を這わせた。

 指を大きく上げて、ひとつひとつ音を奏でるように。

「それにしてもなんで今回はこんなに量が多いんですか」

 開いた窓から風が吹き込む。

 竹葦の白い髪の隙間を駆けて、ゆったりと。

 唇にその空気を咥えて、寂しそうに吐き出す。

「だってもう辞めるじゃないかあ……めつ君は」

 指がエンターキーの上で浮く。

 一瞬震えたが、小気味よい音が響いた。

「すぐ代わりが来ます」

「上書きか」

「ひどいっすね」

 何気なく笑った二人だが、空気は重く沈んだ。

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