罰欲センサー

うすしお

プロローグ 

聞いてて楽しい話じゃない

 ゲームや漫画などで、こんなシーンがあるとする。

 主人公に敵対するとある剣士がいる。その剣士は魔王の思惑通りに動かされ、自分のやっていることの愚かさに気づかない。主人公は魔王に打ち勝ち、剣士は自分が愚かな行為をしてしまったのだと知る。

 その剣士は、罪を背負ってしまったことになる。

 剣士は、こう言うのだ。

「腹を切って詫びなければならない」

 と。

 剣士は短剣の刃先を自分の腹に向ける。しかし、主人公は剣士の腕を掴み、こんなことを言うのだ。

「そんなことをしてもどうにもならない。お前は、一生自分の罪を背負って生きていくんだ」

 と。

 主人公のその選択は正しかったと言える。主人公の言ったことも、絶対に間違ってなどいない。

 それを聞いた剣士は、短剣をその場で手放すのだ。


 まあ、よくある展開だ。

 なぜ最初にこんなたとえ話をしたのかと、この話を聞くキミは思うだろう。

 ここから本題に入る。


 もしこの剣士が、自分の腹を刺して、人々から許されてしまうのだとしたら?


 恐ろしい結果になることは、火を見るよりも明らかだろう。

 これからする話は、何も、さっきのたとえ話みたいに壮大な話ではない。普通の世界で、普通に暮らそうとしていた、中学二年生の男の子の話だ。

 その主人公はたとえ話で言うところの、剣士の立場なのだと思う。


 この話の本題に入る前に、キミに言っておきたいことがある。ボクは何も、自分を傷つけることはいいことだとか、罪が簡単に許される世界になってほしいだとか、そんなバカげたことを語ろうとは思っていない。そんなことが正しいなんて思っていない。

 ボクがキミに語ろうとしているのは、一人の、自分の罪に向き合えなかった少年の話だ。

 別に聞いてて楽しい話じゃないし、ボクだって、この話をしていて楽しいとは思わない。


 でも、キミには話しておきたかったんだよ、嘉瀬亜黒。

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