悪役宇宙人にTS転生したので、破滅フラグをへし折るために全力で地球人と仲良くなります

水品 奏多

第一話 オープニングムービー


 

 腕に伸し掛かる温かな重み。足を伝う冷たい感覚。

 霞がかった視界の中、一人の少女がぎこちなく笑いかけてきた。


「だいじょうぶ。わたーー」


 真っ白に染まる世界。

 まるで濁流に吞まれるかのように意識が遠のいてーー

 







「ローゼ。お前にはテラージュ征服を命じる。

 恒星間航行技術も持たない蛮族共など恐れるに足らん。我らが誇る精強な軍隊を以て滅ぼしてしまえ」


「はっ。必ずやこの私がお父様のご期待に応えてみせましょう」


 ーー気が付けば、俺はひざまづいていた。


 眼前に広がる真紅のカーペット。

 ちらりと周りを窺ってみれば、そこはどこかSFチックな場所だった。


 幾何学的な青い模様が走る白い壁に囲まれた広間。天井や床には真っ赤なシャンデリアやカーペットが設けられている。

 後ろでは軍服らしき衣装を着た人々が整然と並び、こちらーーいや、正確には正面の玉座に座る一人の男性を仰ぎ見ていた。

 病的なほど白い肌、燃えるような赤い髪と瞳、そして妙に長い耳。歳は多分40くらいか、両眼の下に広がった深い隈が印象的だった。


 ??? 何でこんなところにいるんだ?

 確か俺は……あれ、何してたんだっけ? おかしいな、何も思い出せん。


 パチパチパチバチバチバチバチ。


 背筋を冷たい汗が流れると同時、広間は溢れんばかりの拍手に包まれた。

 ゆっくりと身を起こし、颯爽と彼らの間を歩く俺。自分の体なのに、まるで誰かに操られているかのように自由が利かない。


 いや本当に……なんだこれ? 夢とか幻とかそういう感じ?

 でもこの光景、どこかで見たことがある気がするんだよなあ。


「ローゼ殿下、見事なお立ち振る舞いでした」


 部屋を出ると、メイド服を着た一人の女性に出迎えられた。

 艶やかな黒髪を垂らし、洗練された所作でこちらに頭を下げる妙齢の女性。黒縁の眼鏡の奥からは知的な瞳が覗いていた。


「それでは次は発足式でのご演説となります」


「ふん、言われなくてもわかってる」


 不機嫌そうに鼻を鳴らして、はかつかつと歩き始めた。

 相変わらずの白い壁に囲まれ、謎の絵画が飾られた廊下を俺の意思そっちのけで進んでいく俺たち。

 

 な、何かこっちの世界(?)の俺、性格悪くない?

 さっきは別の名前で呼ばれてたし、妙に声が高い気がするし……一体何がどうなってるんだ?


 色んな疑問が頭をよぎる中、やってきたのはどこぞの部屋の前。

 扉の横にいた軍人さん?に敬礼されながら中に入り、用意された立派な椅子に当たり前のように座る。


 正面の大きな鏡に俺の姿が映ってーー


 ふあっ!?


 はたして、そこにいたのは一人の少女だった。


 煌びやかな真紅のドレスに身を包む、赤髪の少女。

 歳は18才くらいだろうか、その端正な顔は身に宿る激情を象徴するかのようにキッと引き締められ、両瞳は爛々と赤く輝いていた。


 豪華絢爛、わがまま放題のお姫様。

 そんな言葉が似合いそうな自分の姿に、思わず頭を抑える。

 本来の自分とは性別すら違うしーーー何よりさっきまで見ていたゲームのキャラクターと瓜二つだったから。


「ローゼ殿下。お時間です」


「あ、ああ」


 部屋に入ってきた軍人さん(暫定)に促され、鷹揚に立ち上がる。

 その行動が俺の意思によるものなのか、それとも体が勝手に動かしたのか、いまいちわからない。

 ただ頭の中で警鐘がずっと鳴り響いていた。

 

 少女の名前はローゼ・ジンケヴィッツ。

 地球と異星人の戦争を描いたゲーム、「スペースアーティア」に登場する敵役の一人にして、最終的には仲間に裏切られて命を落とす異星人。


 間違いない、これはあれだ。Web小説とかでよくある悪役転生ものーーゲーム中の悪役キャラに転生して、いろいろ頑張るやつだ。

 俺知ってるよ。よく自由時間とかに読んでたもの。

 でも、でも……よりにもよってこのゲームかあ。


「総員傾聴。本艦隊司令官、ローゼ殿下のお言葉である」


 そんな仰々しい紹介と共に暗幕に包まれた通路を抜け、壇上へ。


 眼下に広がるのは、広間に集まられた大勢の軍人さんたち。

 普通に生活していたら滅多にお目にかかれないだろう彼らの剣呑な瞳が俺を捉えた。


 ひえっ。こええって。

 俺、こんな空気の中で何か話さないといけないのか? 

 

 い、いやまて。

 さっきから俺の体を動かしてくれる何某かに任せれば、この場は何とかなるか。その後のことは後からじっくり考えよう……うん、それがいい(適当)。


「……」


 さりとて、いつまで経っても俺の口が動く気配はなかった。

 壇上で黙ってしまった俺に、互いに目配せしあったりと軍人さんたちの間でおかしな空気が広がっていく。


 あっ……駄目みたいですね。

 こうなったら俺自身の言葉でこの状況を乗り越えるしかねえ。破滅フラグをぶち壊すようなセリフを今ここで言うのだ。


 ただそうすると問題は、だ。


「ーーお前たちは何者だ? 何故ここにいる?」


 俺、このゲームについてほとんど知らないんだよなあ。

 君たちは一体どこの誰なんだい? いやほんとに。


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