第22話、市ヶ谷事変Ⅱ

 俺は東京都市ヶ谷に来ていた。

 ここにある探索者局で探索者ランクの再審査を申請するためである。

 レベル的にはそれなりに強くなった俺だが、登録上はまだFランク探索者のままだった。

 Fランクでもダンジョンには潜れるが、ダンジョンセンターの受付の人に毎回ゴミみたいな目で見られる。


『え、この人ザコなのになんでうちのダンジョンに潜るの?』

『バカなの?』

『死ぬの?』


 みたいな感じだ。

 流石にそろそろ更新したい……!


(でも再審査って15万円もかかるのな。

 免許にDとかCって一文字書くだけなのに、バカみたいだ)


 そんな事を思っていると、何やら騒がしい音が聞こえてくる。

 同時に鼻を突くような血と金属の臭いがしてきた。

 この臭いは、デュラハンか?


 ふと見ると、防衛省の敷地のあちらこちらから煙が上がっているのが見えた。

 黄金色のレーザーみたいのが空に向かって照射されている。


「自衛隊の人たちの演習か……?」


 敷地内にある横長のビルの向こうからバカでかい骨の塊みたいなのがニュッと姿を現した。

 吃驚して、もう少しでスマホを落としかける。


(なにあれ!?

 モンスター!?

 なんでこんな所に!?)


 モンスターが外に出てるってことは、ダンジョンバーストが起こったのかもしれない。

 防衛省の敷地内にもダンジョンがあるって聞いたことがある。

 そこのモンスターが出てきたんだろう。

 しかも明らかに強そうな奴だ。

 ボスかもしれない。


 そう思って付近を見回す。

 普通なら自衛官の人が4・5人は歩いてるんだけど、何故か見当たらない。

 このままだとモンスターが人通りの多い方に行ってしまう。


(くそ……!

 俺しかいないのかよ……!?

 でもあんな高い所飛んでたら攻撃できないし……!)


 俺は目を凝らす。

 よく見ると、骨の表面を高速で移動する赤いガイコツが見える。


(あれがコアか。

 見た感じ死霊騎士族っぽいし、たぶんそうだろう。

 あそこを攻撃すれば倒せるかも。

 でも俺、遠距離攻撃できる武器とかスキル持ってないし……!)


 そこまで考えると俺は、ついさっきまで弄っていたスマホを見つめた。

 今投げられそうなのはコイツだけ。


 俺はSIMカードを外すと、スマホを持った手を上段に構えた。


(でもスマホ投げるのはな……。

 今月出費ヤバイし……。

 なにか他に投げられるものないか……?)


 そう思って俺が辺りを見回したその時、レギオンが黄金色に輝き出した。

 その光がレギオンの正面に収束したかと思うと、


(ヤバッ!?)


 道路沿いを薙ぎ払うようにして俺の方に飛んでくる!

 俺は咄嗟にレギオンの力核コアを目がけてスマホを投げつけた。


 思った以上にスマホは投げやすかった。

 俺目がけて発射された黄金色のレーザーを、逆に引き裂きながら飛ぶ。

 スマホは俺の予想通りに敵の力核コアに命中した。

 一瞬遅れて、ドンッという音と衝撃波が路肩に止まっていた車やガードレールを揺り動かす。


 効いたか?


 そう思うが早いか、

『ギャアアアアアアア!!!』という断末魔の叫び声がして、でっかい骨の球が砕け散った。

 砕けた骨は青や黄色や赤や白や透明無色といった魔鉱石へと変わる。

 更に魔素でできた白煙が竜巻みたいにブワッと巻き起こって、俺の体へと降り注いだ。

 レベルは特に上がらない。

 辺りの臭いも戻ってしまった。

 平穏に戻る。


 ふむ。

 どうやら見掛け倒しだったらしい。


(……たぶん他の探索者さんが倒し漏らした奴がこっち来ちゃってたんだろうな。

 見たところ、敷地から出てきたのは今の奴だけみたいだし)


「よかった。それじゃ帰るか」


 俺は呟くと、駅の方へ向かう横断歩道を渡ろうとした。

 だがちょうど赤になってしまう。

 タイミング悪い。


 そう思って、俺が立ち止っていると、


「きみ君キミィィィィィッ!!」


 全身血塗れで大剣を背負ったおじさん……たぶん探索者の人……が、叫びながら俺の元へと駆け寄ってきた。


(な、なに何ナニィィィィッ!?)


 俺はビビリまくる。

 探索者っぽいおじさんは、両手を膝に突いてゼーハーし始めた。


「ッハアハアハアハアハアアアアアッ!!

 きッ、キミ……!

 君が、倒したのか!?」


 おじさんは荒い息で肩を上下させながらも、道路わきに積み重なった骨の山を指差す。

 骨は既に半分くらい消えている。


「た、倒したってさっきの骨の奴ですか? そうですけど……」


 俺は答える。

 するとおじさんは何度も咳をし、


「どど、どうやって倒したんだ!? あれを!?」


「どうやってって、その……スマホ投げて……」


 こないだ買ったばかりだったんだよな。

 余計な出費だ。


「は……?

 ウソだろ!?

 そんなもので!?」


 おじさんは驚いている。

 俺の言った事が信じられないらしい。


「そういえばお前……見たことない顔だな……!? 今年プロになった奴か!?」


 やがておじさんは、俺の顔をしげしげと見つめて言った。


 いえ、Fランクです。


「い、いえ……!」


 おじさんの勢いに圧倒され、俺はやっと首を横に振る。

 するとおじさんは俺の肩を掴んで、


「そうか!

 じゃあこれからプロになる新人だな!?

 どうだ!?

 俺とパーティ組まないか!?」


 畳みかけるように俺をパーティに誘ってきた。


「えええ!?」


 俺は驚いてしまう。

 全く訳が分からない。

 なんでこの人急に俺とパーティ組もうとしているんだ!?


「す、すいません、俺この後用事なんで!」


 おじさんの剣幕に慌てた俺は、とにかくそう言って謝った。

 そして、信号が青に変わった横断歩道を足早に渡っていった。


 おじさんには申し訳ないけれど、俺は誰ともパーティを組むつもりはない。

 だって俺の夢は世界一になることだから。

 そのために最高効率であるソロで潜り続けたい。

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