第23話 脱出
【脱出】
建て直したばかりの本能寺は、軍事的機能が整備されている…
本能寺の住職は、軍事機能がある事で寺がイクサに巻き込まれる可能性を恐れ、極秘で裏道を作りそれを信長にだけ伝えていた…
「裏道から逃げる」
「何ですか!?抜け道があるのですか…」
「思い出したの…たぶん住職しか知らない裏道だ、付いて来い」
信長に従い、蘭丸は弟の坊丸、力丸を連れ信長の護衛として裏道に進む。
「ここね…ここから外堀を見つからずに抜けられるわ」
信長の口調が変わった事で、蘭丸は光秀の謀叛に怒り狂った信長が冷静になった事に気付く。
「何時もの姉様に戻りましたね」
本能寺全体を取り囲んでいた明智軍だが、秀満が本能寺内部に大軍を雪崩込ませたお陰で、四方にある門の出入口は厳重に塞がれているが、外堀の回りは手薄になり裏堀から出れば見付からずに逃げられる状況が整っていた…
この絶体絶命の窮地を、信長はまたしても乗り切る。
四人が脱出用の裏堀を抜けると、信長を心配してやって来た阿弥陀寺の僧侶達を見つけた…
信長達は光秀軍に見られても怪しまれないように、阿弥陀寺の僧侶を装い阿弥陀寺に避難する事になる。
豊臣秀吉 本陣
信長を見張らせている忍から、驚愕の報告を受け、慌てる秀吉。
「信長様が無事に本能寺を脱出しました。阿弥陀寺に避難する様です」
「!!?…脱出だと‼ 抜かったな光秀… 黒田に全軍京に向かうよう伝えろ!」
秀吉の思惑を知らない忍は、憤慨する秀吉に戸惑いながらも命令に従う。
… あのバカがぁー!!! 一万の兵で逃げられるだと!?信長の兵は五十人足らずだと言うのに…また何か…不可解な事でも起きたのか…? しかし、信長が生きている以上は、予定変更だ…くそがぁ~!!
……落ち着け……
…… 落ち着くんだ……
まずは、光秀の口を封じねば …
すでに毛利との和睦が済んでいる黒田孝高は、秀吉の命で明智光秀討伐のため京に進軍する。
「明智光秀が謀叛を起こした‼全軍直ちに明智光秀討伐に向かう!」
信長が脱出した事に気付いてない秀満は、本能寺に火を放ち信長を炙り出そうとする…
放たれた火は、風に乗り勢いを増し、瞬く間に燃え広がる…
激しく燃える本能寺は、やがて盛大に燃え落ちていく。
… 信長は何故出て来ない、自刃するような潔さは信長には無い… まさか!?逃げられたのか …
焼け跡から信長の死体を探す明智軍だが、一万以上の兵で探しても見つからない、逃げられたのでは…と言う不安から光秀は重体を押して指示を出す…
慌てふためく光秀の体を気遣った秀満が、嘘の報告をする。秀満からしたら燃え盛る寺から脱出など出来るはずがないと思って要るので、信長は死んだと確信しての事だ。
「火を放たれた本堂の奥に入る信長が目撃されてます。死体が見つから無いのは完全に燃え尽きたのでは…」
「そうか…燃えたか、見間違えでは無いな?」
「大丈夫です、本堂に入るまでは私も見てました、その後奥の間に入るのを家臣達が目撃してます」
それを聞いて安堵する光秀は徐々に冷静さを取り戻し知将明智光秀の顔を取り戻していく。
阿弥陀寺
阿弥陀寺に着いた信長は、反撃するため蘭丸達に指示を出す。
「蘭丸、全軍に明智光秀謀叛の伝令をだせ!」
「分かりました… 坊丸、信忠様の所に行って明智光秀謀叛を全軍に伝令、とくに秀吉様と勝家様は早馬で知らせるよう伝えろ!」
信長の命を受け、坊丸は妙覚寺の織田信忠の下に走る。
その頃、妙覚寺では村井貞勝が信忠の下に駆け付け本能寺の全焼から信長は死んだものと思い本能寺に向かおうとしていた信忠を引き止め、堅固な二条御新造に立て籠る戦法を取らせる。
「明智は次に信忠様の命を取りに来るはず…今、配下の者が援軍の要請に奔走してます…堅固な二条御新造なら援軍が来るまで凌げるはず…」
【生い立ち】
信忠の父親は信長ではない…養母の濃姫に本当の父親は斉藤家嫡男斉藤義龍だと言われ、いつも織田家を乗っ取り〝斉藤家を復活〟させるのですそれが斉藤家の正統継承者の血を引く貴方の使命だと言われ続けてきた…
信長正室の濃姫は実兄斉藤義龍の側室久庵慶珠が妊娠している事を知ると、慶珠の子が男の子なら養子にしようと信長の側室として慶珠を招いた…
濃姫
「お腹の子が男の子なら、正統な織田家の跡継ぎになる…何も心配は無い、むしろ子供のためです」
久庵慶珠
「ここに来る前に心を決めてます。男の子なら濃姫様の養子になると…」
「…信長様の側室なら何時でも会えるし、産みの親として接して良いのですよ」
「ありがとうございます」
慶珠は元気な男の子を産んだ、織田信忠の誕生である。
「信長様、男の子です嫡男が産まれました」
「産まれた?!… … あぁそう、何もしてないのに子供が産まれるとは、奇妙な事が起きるものねぇ…フフッ」
一度見ただけの側室が信長の子を産んだと言う奇妙な出来事から奇妙丸と言うふざけた名前を付けられた信忠は、濃姫の養子になって実母と養母の二人の母に織田家嫡男ではなく斉藤家復活の希望として育てられる。
信忠が元服した頃、体の弱い実母の久庵慶珠が病で他界した… 信忠は慶珠の亡骸に斉藤家復活を誓う。
元服した信忠は精力的にイクサに参加して自身を鍛えた、全ては斉藤家復活の為だ。
イクサに参加することで信長に会う機会が増える様になった信忠に変化が起き始める…
信忠の目的は斉藤家復活だが、信忠は信長のとても天下人とは思えぬ自由奔放さや、戦いなどで魔王さながらの狂気に満ちた目で敵を殲滅する織田信長に心惹かれていく…
信長の真似をして舞踊などにも興味 を持ち…いつしかこの人に認められたいと思うようになり、それが信忠の目標になっていた…
信忠は跡目が決まった時、涙を流して喜んだが、織田家を継げる事にではなく信長に認められた事に涙して喜んだのだ。
二条御新造
坊丸が妙覚寺に着いた時には信忠は二条御新造に移動した後だったが、坊丸は直ぐに信忠の後を追い二条御新造に向かい無事に信忠と会う。
坊丸
「ご安心下さい、信長様は脱出しました」
坊丸の報告に一同が歓喜した!
「信長様の命をお伝えします…織田家全軍に明智光秀謀叛の伝令をだせと、とくに秀吉様と勝家様は早馬で知らせろとの事です」
「大丈夫だ、すでに伝令は出した…」
「信長様に合流して御守りするぞ」
意気込む信忠に斉藤利治が自分達はここに残り戦うと切り出す。
「信長様の下には信忠様と小姓だけで行って下さい…我々はここに居て援軍が来るまで戦います‼」
「私だけ逃げろと言うのか!?」
本能寺近くの自宅に居た村井貞勝が明智軍の様子を話す…
「私が見たところ明智軍は本能寺で信長様が焼け死んだと思ってるはず… 我々がここで討ち死にすれば信忠様も死んだものと思い捜索されずに済む…」
斉藤利治
「織田の大軍が戻るまでの時間が稼げる訳だな… この命、信忠様の未来に賭ける」
「バカなぁ‼ そんな事は許さん!」
「落ち着きなさい!信忠様の身体は織田家のみならず斉藤家の復活も架かっているのです…」
側近の美濃衆斉藤利治は濃姫とは少し違い、信忠に織田家を引き継ぎ美濃領を斉藤家に統治させる様に勧めていた。
うなだれ考え込む信忠だが、しばらくして腹を決めた…
「分かりました… 立派に後を継ぎ美濃を斉藤家の領土にして見せます‼」
斉藤家の復活、斉藤家を美濃国領主にする悲願を誓う信忠の胸に熱い物が沸き上がる…
「それでこそ信忠様…いそいで信長様の下へ行きなさい! くれぐれも自分の命を優先して下さい…私達の分も頼みます」
深く頷き坊丸に振り返る信忠…
「坊丸、案内しろ」
「明智の者に悟られる訳には生きません…全員僧侶に化けて私に付いて来てください」
坊丸は行き先を一切口にせず、人目を避けながら僧侶に扮した信忠と小姓三人を連れ、信長の居る阿弥陀寺に向かった。
阿弥陀寺Wikipedia
織田信忠Wikipedia
斉藤利治Wikipedia
久庵慶珠Wikipedia
本能寺の変Wikipedia参照
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