第3話 骨肉


【骨肉】



当主の葬儀が終り…家督争いは織田家でも当然起きた。


奇行を繰り返す信長に危機感を覚えた津々木蔵人と柴田勝家が弟の信行側に加担して対峙するが、信長が信行を制して当主を継承した。


信長に謀反を企てたとして敗れた信行達は当然死罪になるはずだが信長は実母の土田御前に泣き付かれる。



「信長様どうかこの母の想いを、願いを叶えて下さい… 信行は私の命令で動いただけもし責めるなら この母を殺して下さい… でも信行は …あの子は どうかお許し下さい」


「母ねぇ… その意味解ってる、何か私に母親らしい事でもした?ましてや私を殺して信行を当主にしようとしたクセに…良くもまぁーそんな事が言えたものねぇ」


「確かに私は貴方を嫌い遠ざけました… 母親らしいこともしないで… でも貴方が産まれた時どんなに喜んだ事か…


これは紛れもない事実です!


信じては貰え無いかも知れませんが…

でも… 許されない母親だった…信長様の言う通りです… だから…


私の命で償います!


だから… だから、どうか信行は許して下さい… 貴方の母親の最後の願いを…どうか…どうか叶えて下さい私の命と引き換えで!!!」


信長に会いに来る前から泣き通しの御前、今も泣きながら懇願し続けている。

信長の心に、もう肉親への情は無い…信長の心に今あるのは自尊心と我だけ… そうさせたのは他でもない両親である。

もっとも父親はすでに信長が直接では無いが殺している。そして母親達も、はなから許す気はない信長… それも、ただ殺すのでは無く苦しめて殺すつもりだ。


「そうね… そこまで言うなら全員生かしてあげても、良いわよ」


全員生かすと言う信長の言葉に耳を疑い一瞬驚愕の表情をする御前だが…


… 嘘だ!!絶対に嘘だ!!! 全員だと、もはやこの傾奇者は我が子では無い…いや、人である事も疑わしい魔物… 慈悲などあろう筈が無い… どう言うつもりだ!? 私の命だけで何とか凌ごうと思っていたが… 出方を見るしかないのか…




「母の願い叶えてあげる。

そう私の母の願いだから…

過去の事は忘れましょう…これからは私の母として、私達と生きてもらう…

私の屋形で…」


信長の屋形は別名魍魎の屋形と呼ばれ城下町の外れに作られた信長の私邸、厳重に警備されているが、傾奇者達の女装部屋に男装部屋、性的プレイルームは勿論、側室の住む大奥の役目も果たしている、しかし側室は殆ど重臣達の愛人なので複数の人間が出入りしている。

そのため朝だろうと昼だろうと、うめき声やあえぎ声が聴こえる如何わしい屋形だ。


「信長様の屋形で母として… 」


… 母親をやり直せとでも言うのか?しかもあの如何わしい信長の屋形で暮らす… 幽閉して信行に逢わせないつもりか…? 何を企んでる……


「まことの母親を見せて貰おうか」


「 … あっ、ありがとうございます。貴方を産んだ頃の様に、良き母親に生まれ変わります」


御前は、信長の本心は見抜けないが信長の手に掛かる前に寝首をかくつもりでいた。


… あの屋形は欲望の吹き溜まり、貴女にぴったりの場所だフフッ 信行が恋しくなる頃には、ご対面させてあげるけど…

どんな事したら感動の再会になるかしら…楽しみだわ…


そうねぇ…


フフッ…まずは、勝家に働いて貰おう……




【罠】



津々木蔵人は信長が何故、謀反を企てた自分達を赦免したのか解らず、何か裏があると思い信長の出方を警戒していた…



… あの信長が母親に泣き付かれたぐらいで命を狙った我らを許す筈がない…

御前が何か弱味でも握っていたら信行様の耳に必ず入るからそれは無い…いったい何故だ、分からん… だが、とにかく信長が何か仕掛けて来る前に奴を殺さなければ!

このまま殺されるのを待っている訳にはいかない… それには何とかして信行様をまたやる気にさせなければ …




信長に恐ろしい仕置きをされるのではと怯える津々木蔵人は信行の下に勝家を連れて相談に行く…織田信行、柴田勝家、津々木蔵人、跡目争いの中心人物三人の密談が始まる…


「赦免された事を勝家殿はどう思っている」


「信長が逆らった者を生かしておくとは思えない、赦免は偽りかと…」


「信行様は我々が赦免されたのは何故だと思いますか?」


「 …母の御前様が庇ってくれたからだと聞いてるが…」


「あの冷酷な信長が母親の言うことを聞くタマとは思えません」


「確かに母上は信長を嫌っていて仲が悪かったが、実の母だ… 信長も情にほだされたのでは… 」


「信長の事です、油断させて何かとんでもない事を考えてるに違いありません、たぶん武士として死ぬ事は許されない……

思いもよらぬ方法で我らを苦しめてから酷い殺しかたをするはず…」


「… 信行様、この勝家も蔵人の言う通りだと思います…

このままでは我々は飼い殺し… いや、いずれ何らかの罪で死刑にされるはず… その前に打って出るべきでは… 」


勝家はすでに信長の傀儡で、本当の赦免を餌に操られている… 勝家の役目は信行にまた謀叛を企てる様に仕向ける事だ。


「しかし… 今の私に従う者は少ない返り討ちになるのが関の山…」


弱気な信行に、どうやってまた謀反を起こさせるか… 予めいくつかの策を考えていた勝家が、どれを勧めるか思案してると蔵人が口を挟み、話は勝家に都合良く進み出す。


「一度、謀反に失敗した者がまた襲って来るとは、あまり考え無いのでは… それに今度は謀反では無く暗殺が良いかと……」


勝家は蔵人が言い出した暗殺計画を信行が実行する様に煽る。


「蔵人の言う通り、暗殺なら少数で済みます。しかも今、信長の屋形には御前様がご一緒、協力して下さるはず…」


「御前様が信長の屋形に居るうちに暗殺を実行しましょう‼ 貴方こそ織田家の当主に相応しいのです」


「御前様との連絡は古株の自分が一番怪しまれないはず…おまかせを」





… こんなに上手く事が運ぶとは…まぁ誰でも殺そうとした相手に許されるとは思うまい、身の危険を感じて跳ねるしか無いか …




御前と連絡を取ってから綿密な計画を立てる事で話をまとめた三人だが、勝家はその足で信長に計画の報告をしに向かった。


信長暗殺の計画を立てた信行だが、その計画が信長の罠だとは気づかずに破滅へと進み出す。



信長は信行を屋形に誘い出すため病気のふりをする。勝家はこの事をまず城に広めて噂になってから信行に報告する事で信憑性を高めた。



「信行様どうやら信長の病気は本当のようです、この機会に跡目の書状を書かせては… 」



「跡目は嫡男だろう、そんな書状を書かせてどうするのだ…?」



「男狂いの信長には実の子は居ません…側室に子を産ませてますが皆欲の皮の突っ張った重臣達の子です」



信長はホモセクシャルなため正室(妻)に当然子供は居ない。


しかし欲の皮の突っ張った家臣達が対外的にも子供は必要とそそのかし自分の子を身ごもった女を側室として嫁がせ、産まれた子を跡取りにして織田家の実権を握ろうと企んでいるので名目上の子は存在した。


そのため子供に興味の無い信長は側室が産んだ子に最初は〝何もして無いのに生まれるなんて奇妙なものね〟と言い名前を〝奇妙丸〟と名付け、そして二人目は〝お次〟三人目は三月七日に生まれたので〝三七〟など適当な名前を付けてふざけていた。



「跡目を名目上の子から選ぶとは思えません…なので病気で弱っている今を利用して書状を書かせるのです… 誰を跡目にしようが名前など改ざん出来ます。

そして、御前様は信長のそば…その気になれば毒殺など容易いのでは… しかも今、信長は病気です死んでも暗殺だとは誰も思わないはず…殺すなら今が好機…

ですが…跡目を継いだ後に重臣達を上手く従わすためにも遺書のような書状が必要だと…」



勝家の案に乗り気の蔵人が罠だとも知らずに後押しをする。



「…当主になった後を考えると確かに重臣達を従わすのに信長の書状があれば反感を買う事無くすむはず… 信長の見舞いに行って上手く奴に書状を書かせましょう…」



「勝家、母上と話す機会を早急に作ってくれ」



「… 御前様には今まで通りこの勝家が連絡をしておきます」



「この暗殺の要が書状なら… 私が直接母上に…」



「お待ち下さい… 信長は御前様を屋形から出さない様にしております… 理由はたぶん信行様に会わさないため…御前様の母心を苦しめているのでしょう」



「くっ…そうなると私が行っても会えないか… 分かった勝家頼むぞ!」



「おまかせ下さい…」




… 哀れなものだな、御前は何も知らぬ… 信長様は久し振りの再会を喜ぶ御前の目の前で信行の首を跳ねるつもりだ…まったく鬼畜な発想だが、信長様の強さはこの残虐性かも知れんな …







※参考文献


織田信行Wikipedia 津々木蔵人Wikipedia

柴田勝家Wikipedia参照

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