第8話

私は大学を、卒業したらツアーガイドの道か書店員かで、進路を迷っていた。ネットでそれぞれの職業の名を打ち込み、大変、クレーム、利点、などを検索欄が膨大になるまで調べ、人に見られたら嫌なので一気に検索履歴を消去する。


セミナーやOB、OGとの親睦会などにも参加する。アルバイト仲間とも休暇室で当然就活のことを話す。しかし、私の前向きな自信に溢れた行動、意識、意欲、印象は決して崩されない。

将来に不安があるとすれば、奨学金の話だ。こればかりは誰もが死んだ目をする。奨学金免除の試験だってちゃんと受けたが、後一歩足りなかった。


だっていうのにあの女、奨学金て、要は借金ですよね。


彼女には彼女の言い分があった。しかし。他の感想が入ってこない。スタッフルーム前で聞いてしまった。


とにかく、私は自信に満ち溢れていればいい。

パートの奥様方ともうまくやれている。ただ、一人だけ、その店舗には、生まれて初めて、自分が見下すことになるフリーターがいたのだ。

からかい、ひやかし、おとしめ、私達は他の場所で自身に向けられていたそれらを小林に流し込む。


それが、小林彩美だった。

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