異世界だけどメリークリスマス!②

 そして夜になり、乗組員の皆が寝静まった頃――


 ラビの眠っている船長室の扉が開き、そこから一人の影がひょこりと覗く。


(※ヒソヒソ声で)

「どう? ラビっち眠ってる?」

「はい、ぐっすりお休みになられています」

「おっし、じゃ起こさないように行きますか〜。ほら、アンタもさっさと行くよ、白黒頭」

「うわわ……尻尾引っ張らないでよ」


 部屋の様子を伺ったポーラの合図と共に、ニーナとクロムが中へ入る。抜き足差し足で彼女の眠るベッドへと近付くと、すやすやと眠るラビの寝息が聞こえていた。


 今日は一日中サンタコス姿で過ごしたせいで周りから注目を浴びて疲れてしまったのだろう。ちょっとやそっとの物音では起きない程に深く眠っているようだった。


「おぉ、マジで泥のように眠ってるし」

「今日も一日お疲れだったのでしょう」

「じゃ、プレゼント、置いてく」


 そうして、三人は持ってきたプレゼントを枕元へそっと置いた。なぜかクロムのプレゼントだけ不相応に大きかったので、ベッドの横に置くことになったのだが……


「ちょっと白黒頭! 一体何持ってきたのよ? なんかすごく獣臭いんだけど……」

「これ? ジャイアントイワギツネ。町の外で採ってきた」

「いや生もの‼︎ しかも狩った獲物をそのまんま贈るとかあり得ないでしょ!」

「これ、食べるとすごく美味しい」

「それはアンタの感想だろうがっ!」


 ヒソヒソ声で罵り合う二人。それを止めるようにポーラが口元に指を当て「シーッ」と釘を刺した。


 幸い、ラビはまだ眠っていて、こちらに気付いている様子はなさそう。ホッと溜め息を吐く三人。


「……で? ポーラっちは何を贈ったの?」


 ニーナがポーラにそう尋ねると、「折り畳み式の小さなポケットナイフです」と答えた。


「柄の部分が赤くて可愛らしいものを骨董屋で選びました。お嬢様にも気に入ってもらえると思います」

「へぇ、ナイフなんて、意外なものをチョイスするのね」

「色々な場所で役立つと思ったからです。いざという時には護身用にもなりますから」

「護身用って……発想がちょっと過激じゃね?」

「併せてメリケンサックもプレゼントに同封しておきました」

「いやそれもう完全に護身用じゃん!」


 ニーナにツッコまれながらも、ポーラは「これがお嬢様に一番良いと思いましたので」と迷いなく答えた。


「ニーナは何を選んだのですか?」

「私は下着の上下セット! スケスケなレース生地にフリルとリボンの付いた超エロいやつ! ラビっちにこれ付けて欲しいな〜っていう願望込めて贈ってやったぜ、いぇい★」

「はぁ……あなたのその吹っ切れた変態的思考には、もはや溜め息しか出ないです」


 ポーラは呆れたように頭を振っていたが、「私はこれが一番イイと思ったの!」とニーナも負けじと言い返していた。



 次の日。朝起きたラビは、枕元とベッドの横に置かれたプレゼントを見て驚くと同時に、ベッド横の袋から漂う猛烈な獣臭さに鼻を摘んで、船長室から飛び出してきた。


 結局、クロムのプレゼントしたジャイアントイワギツネの死体は、ポーラのプレゼントであるポケットナイフによって綺麗に皮を剥がれ、暖かな毛皮のマントとなって、どうにかプレゼントらしい物に形を変えることはできたのだが……


「師匠見てください! サンタクロースの妖精が私にプレゼントを贈ってくれました! この毛皮のマント、すごく暖かいです!」

『そうかそうか、良かったな』

「それに、サンタさんがプレゼントをくれたってことは、私は良い子だったってことですよね!」

『ああ、サンタさんは良い子にしかプレゼントを渡さないからな』


 それでも純粋に大喜びするラビを見て、俺は傍からその微笑ましい気持ちで眺めていた。


 まぁ俺が細工したことだったとはいえ、こんなに喜んでくれるラビの顔が見れるなら、やって良かったな。と、俺は自身で納得するのだった。


 ……が、しかし――


「……でも、サンタクロースさんって、少し変わったご趣味の方なんですね」

『へっ?』


 突然ラビがそんなことを言い出し、俺は拍子抜けする。


「いえ、その……プレゼントの内容が、ポケットナイフにメリケンサックとか、それに女性用の……エ、エッチな下着とか、狩ったキツネが丸ごと置かれていたりとか……色んな意味で、何というか……ちょっと変態さんです」

『…………』


 ………やっちまった……


 俺は内心で項垂れた。ラビの中で想起するサンタクロースのイメージが、純粋な子どもの考える神聖なサンタ像とは真反対にかけ離れていくのが分かった。


 俺はラビに対して、間違ったサンタクロース像を植え付けてしまったのではないか?


 いや、あれはそもそもそんなプレゼントを用意するニーナたちが悪いのであって――と俺は言い訳を考えたものの、元はと言えば全ては俺が仕組んだこと。全ての責任は俺にある。


(……サンタさん………すいませんでしたっ‼︎)


 俺は心の中で、ラビに変態呼ばわりされてしまったサンタクロースに全力で謝罪した。


(終)




「ニーナさん! めりーくりすます? です!」


 翌日、ラビから唐突に声をかけられ、ニーナは首をかしげた。


「何それ? 人の名前?」

「クリスマスの日に口にすると幸せになれるおまじないの言葉だそうです。師匠から教わりました!」


 ラビは着ている狐の毛皮マントを撫でながら、笑顔で答えた。


「はぁ? あのオジサン、またテキトーなこと言ってんじゃないの? ま、別にいいけどさ〜」


 ニーナはそう言って呆れたように肩をすくめ、


「……あ、そうだラビっち〜」

「はい?」

「これもオジサンから聞いた話だけどさ、クリスマスの次にはオショーガツ? ってのがあるらしいよー。オショーガツにはキモノ? って服を着るっぽいから、次はキモノで一日耐久よろ〜」


 そう言われてしまったラビは、断ろうにも断れず、困った顔で項垂れた。


「えぇ、またやるんですかぁ……あのサンタ衣装、露出が多くて凄く恥ずかしかったのに。またあんなエッチな格好しないといけないのかな……」


 そう言って落胆するラビだったが、実際に着物を着付けしてみると、そのお洒落な外見と華々しい生地の色や模様に惚れ惚れしてしまい、ラビお気に入りの衣装となってしまったのは、また後々の話である。


(本当に終)



Have Yourself a Merry Little Christmas...

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