第3話 ひまりサイドでの話
side 胡桃ひまり
「…すごかったな…」
私、胡桃ひまりはまだ驚いていた。
いや、驚いたというよりも感動したって言ったほうがわかりやすいかもしれない。
彼…確か、伊藤蓮くんっていう子が歌っていたのは、”ヘブン”という少し悲しい曲調の歌だ。
あるカップルの話を歌にしたもので、彼氏が事故に遭って亡くなってしまうのだが、彼女の方は辛い思いを抱えながらも、それを受け入れ、それからの人生を送る。
そんな感じの歌。
私も歌い手時代にこれを聞いたことがあったし、歌ってみたとして投稿したこともある。その時に、何度も聴いたはずなのに、私は感動した。
「おーい、ひまり、どうしたんだ?」
「なんか、ぼーっとしてるよ?」
…はっ…!知らないうちにぼーっとしてた…!
「い、いや、なんでもないよ!オウ君、ユキ」
私の同期、天皇寺オウと如月ユキがぼーっとしてた私に話しかけてくれた。
ホントは、この二人以外にも天ヶ瀬ハル、椿のぞみという二人もいて、私達の同期グループはユニット名としてシーズンと呼ばれている。けれど、他の二人は別の収録やら、ダンスレッスンやらで今日は一緒ではない。
「ひまりはわかりやすいなー、その反応、絶対なんかあったでしょ?」
「え!…そんなわかりやすい?ひまり」
私はそう言い、少し苦笑いをした。
流石は同期だな…。
「わかるわよー、ね、オウ」
「え、俺は何とも…」
「「…」」
…まー、オウ君はそうだよね。
ゲームに関して言えば、どんなことにも真っ先に気づいて、コラボをした時なんかも頼りになるんだけど、現実になると少し鈍感。
逆に、ユキは気遣いができる、空気が読める、周りのことを見ることができると、ホントに助かってる。実際私達のグループ シーズンのリーダー的存在だ。
「…え、何この空気…、俺が悪いのか?」
「はー…、まー、オウらしいっちゃオウらしいわね。それで、何があったの?」
「うん、それがね…」
私は、さっきまでの出来事を話した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「へー、新人にそんなやつがいるんだなー」
「まだ決まったわけじゃないけどね」
社長の反応的にその可能性は高いけど、まだ何があるかわからないからね
「ひまりがそこまで言うなんて…、正直まだ信じられないね」
ユキはまだ半信半疑っぽい。
「伊東蓮…いや、もしこの事務所 ファミールに入ったら別名になるかしら」
そう、当たり前だが、もしこの事務所に入れば、新しい名前でvtuberというものになる。
実際私の名前、胡桃ひまりはvtuberとしての名前であり、本名ではない。一応、ファミールのメンバー全員、本名は明らかにしているが、大体vtuberとしての名前で呼びあっている。
「なー、それって、あの二人よりも良かったのか?」
あの二人…。
多分、オウ君が言っているのはあの二人だろう。
来栖セン先輩、そして早乙女シンカちゃん。
この二人は私と同じく元歌い手だけど、私よりも数倍うまい。
セン先輩はファミールの古参組の一人なのだが、ライブ、歌枠、歌ってみたなどで、よく和風の歌を歌っているイメージがある。特に、和風のボーカロイドを歌った時にはコメント欄やコメントは大騒ぎしている。
そして、シンカちゃん。
この子はもう歌姫という言葉がよく似合っている。
綺麗な声で邦楽やアニソン、ボーカロイドの曲など幅広く歌っているのだが、どんな曲もうまく歌って、視聴者のみんなを喜ばせている。けど、以外なことに努力家で、前コラボした時には雑談の仕方などを一生懸命に聞いてきてとても可愛いかった…
けど、この二人よりかうまいかっていうと…
「ううん、そこまでではないよ」
これは断言できる。
「そうなのか?ならそこまでビックリするほどではないと思うが」
「そうね、その二人よりもうまいっていうならビックリするのもうなづけるけど」
確かに、歌のうまさなら絶対にセン先輩やシンカちゃんの方が上。
けれど…
「…なんて言えばいいのか分からないんだけど、彼の声と曲、曲調、歌い方とか諸々が合わさって胸に響くって言うか…」
上手く言葉にしにくいな…。
「へー、けど、ひまりがそこまで言うならすごいやつなのかもな。どんなやつか気になるなー。もしかしたらゲームとかもうまかったり!」
「もー、オウはゲームばっかり。まー、私もひまりがそこまで言うなら信じるわ。けど、歌はちゃんとうちに来てから聴いてあげる」
良かった…。二人とも信じてくれたみたい。
伊東蓮君…、いや、なんて言う名前になるか分からない彼。そして、まだ決まっていない他の新人たち。
私はどんな子が来るのか楽しみに待つのだ。
「あ、オウさん、センさん、ひまりさん、収録の部屋に案内しまーす。」
そういい、私のマネージャーが私達を迎えに来た。
どんな子が来てもいいように、私達も頑張ろう!
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