第3話_山野井に告白される

「山野井、ちょっとまて」

「上原さん。ずっと好きでした」


山野井は俺の部屋に来ていた。

彼を部屋に入れたのは初めてだった。


そう。

山野井は男。

男に告白され、俺は、困惑していた。


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ことの始まりは、こうだった。


「街コンの彼女と別れた?」


梨央と別れたあと。

会社の同僚である山野井 明に飲もうと誘われた。

仕事のあと居酒屋でふたりで飲んだ。


「えぇ~。どうしてですか。上原さん。

聞いちゃってもいいっすか?

詳しく知りたいなぁ」

山野井は興味津々という顔だった。


山野井は、梨央と出会った街コンに一緒に参加した同僚の一人だった。

だから梨央のことも知っている。


「年下すぎて、合わなかったんだよね」

正直なところを山野井に打ち明ける。


社内恋愛をしたわけじゃないし。

別に口の軽いやつでもないから、何を話しても大丈夫だろうと思った。


「へー。付き合う前に、相手が大学生って時点で、

かなり年下ってことは分かっていたんじゃないんですか?」


「梨央って落ち着いた感じじゃん?

勝手に20歳は過ぎてるかと思っちゃってた」


「う~ん、19歳も20歳も変わらない気もするけど」

「気分的には変わるって!

それに真面目でおとなしい子だからさ」


「上原さん好みの感じでしたけどね。

向こうに嫌われたのかな?」

山野井は勝手に納得して、そしてなぜか楽しそうだった。

人の失恋話は聞いていて楽しいのだろう。


今回は俺から別れを告げたわけだから、

失恋というわけではない。

だけど気持は落ち込んでいた。


なんの落ち度もない彼女を振り回した挙句

振ったのだ。

人を不幸にしたような罪悪感があった。


「今日は、飲みましょ。

上原さんの傷心を僕が癒やします」

山野井は俺のグラスにビールを注いだ。


「山野井はどうなんだよ?

梨央の友達の子と良い感じだったじゃん?」


山野井は、山野井で梨央の友達に

積極的にアプローチされていた。


「ああ〜、香苗ちゃん?

まだ連絡のやり取りはしてますけどね。

付き合っては、いないっすね」

そんなふうにサラリと答える。


付き合わずに連絡のやり取りだけ欠かさない。

一体どういうことなのか、俺には理解できなかった。


「女の子に連絡するなら、

その気があるってことじゃないの?

俺なんか、付き合ってる子にも連絡するの面倒くさいのに」


山野井はなぜか面白そうに俺のほうを見る。

こいつは俺よりも3つ下の23歳。

半年前くらいに中途で入社してきた。


後輩なのに全てを見透かしたような余裕が常にあった。


「上原さんと僕とは人種が違うんですよ。

僕は連絡マメだし女の子との友情を

大切にするタイプなんです」


「友情?」

女に連絡をマメにするなんて

下心があるとしか俺には思えなかった。


「考え方の違いですよ。さあ飲んで」

その夜は山野井にかなり飲まされた。


梨央を幸せにしてあげられなかった罪悪感と

自分の懐のせまさに嫌気がさしていた。

経験の少ない女の子を「可愛い」と思ってあげられない

そんな自分が情けなかった。


山野井にはもちろん、そこまで詳しく話さなかった。

ただ、「年下すぎて、話が合わなかった」

そんな理由で別れたと話した。

詳しく話すことは俺のプライドが許さなかったのだ。


しかし、いろいろ思い出したことで、

その夜、珍しくアルコールに溺れてしまった。


「上原さんのウチここですか?」

酔っ払った俺を心配したのだろうか。

山野井が一緒にタクシーに乗り、アパートまで来てくれた。


「そう。ここの4階。404号室」

「部屋までいきますね」

山野井は俺を支えてエレベータに乗った。


玄関を開け、部屋に入る。

「1LDKですか?会社から近いし、いいですね」

山野井が部屋の中をキョロキョロと見回す。

「ちょっと殺風景だな~。

秘密の趣味とかないんですか?」


「ハハ......なんだよそれ、俺には隠すような趣味はない」

山野井はシェルフの本の背表紙を

じっくり眺めていた。


「山野井~!泊まってく?ジャージなら貸せるけど!」


俺は山野井に普段あまり着てないジャージを投げつけた。

山野井は俺よりも背が高くがっしりしている。

だから、サイズが合わないかもしれないけど。


「シャワーでも浴びて着替えたら」


「えっ、泊まり?」

山野井は投げつけたジャージを手で引き寄せた。


男同士だと思って気を許していた。

山野井は社内で一番気が許せる仲間だった。


しかし。


「上原さん。ずっと好きでした」

山野井は俺のジャージを抱きしめながら唐突に言ったのだった。

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