第10話 離れてほしくない。


莉子との勉強会が始まった。

莉子は苦手な数学を、俺は化学と社会を勉強しあっという間に二時間が経過した。


「ねぇ、明人ここ分かんないよー」


そう言って、莉子は問題集を俺に見せてくる。

前までは人に教えるなんて到底無理な話だったが、今は少しなら教えられるようになった。


「ん?あぁ、ここはたしか……」


俺は分かりやすいように、自分の教科書を開いて説明する。


「そっか、じゃあこの公式を使えばいいんだね」


「うん、そうだよ」


説明を理解してくれたようで、莉子は納得した表情を浮かべた。

説明を終えたので教科書を閉じようとすると、開いていたページの上に莉子が手をのせてきた。


「他に教えてほしい所があるの?」


てっきり教えてほしい所があるのかと思ったが、そうではないらしく首を横に振った。


「じゃあどうしたの?」


俺が聞くと、莉子は物悲しげに微笑んだ。


「ううん、ただ頑張ってるんだなぁと思って」


何がだろうと思い、莉子の視線が向いている教科書の余白を見る。

そこには自習の時にページの余白に書き込んだメモが無数にあった。


「ま、まぁ、それなりにね」


努力の跡を見られて少し恥ずかしくなる。


「そっか、明人はすごいね……!」


どこか悲しそうで、でも笑顔で、そんな複雑な表情をして莉子は言った。

その表情は少し気になったが、それには触れずにわざわざ俺に笑顔を見せてくれたわけだからここは素直に言葉を受け取っておくべきだろう。


「そうかな?でも嬉しいよ、ありがと」


俺が感謝の言葉を述べると、莉子は微笑んでくれた。

でも、やっぱり複雑な表情で俯いてしまった莉子が気になって見つめていると、莉子がボソッと独り言を呟いた。


「明人がだんだん遠く感じちゃうなぁ……」


遠くに感じるとはどいうことだろうか。

言葉の意味はよく分からなかったけど、莉子の表情を見ていると俺が何かを言わないといけない。そう思った。


「俺はどこにもいかないよ」


「えっ?」


俺がそう言うと、莉子は俯くのをやめて驚いた様子で俺を見てきた。


「私のそばにいてくれるの?」


「そばにいるかは分からないけど、幼馴染だからね、莉子が嫌になるまで近くにいるよ」


幼馴染の俺に、離れてほしくない。

そんな意味だと思った。

莉子には好きな人がいるから、きっと恋人として意味ではない。

つまり莉子は幼馴染である俺が遠くに離れてしまうと感じたのだろう。

もしこれが答えならば、幼馴染としてこれだけ思ってもらえているなんて幸せだ。


「そっか、ありがと……!」


俺の言葉を聞いて、さっきまでの莉子の表情は嘘みたいに晴れた笑顔になった。

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