第27話 大規模作戦ー3 かつての最強探索者

<三人称視点>


 大規模作戦本部。


 聞いている者を心地よくさせるような可愛らしい声が響く。

 普段からたくさんの人を元気にさせている希望の声だ。


 だが、


「なんとかなりませんか!」


 今はその声も相当焦っているように聞こえる。

 声の主は美玖。


「本多美玖くん、落ち着きなさい」


「でもっ!」


 そんな彼女を落ち着かせようとするのは檀上だんじょうだ。


 この作戦の責任者という立場の檀上が美玖を抑える。

 だがそれは、内心焦っている自分をも落ち着かせるためでもある。


(これはまずいぞ……)


 作戦自体もだが、日本が混乱している事態が一層檀上を悩ませる。

 自分の責任どうこうというより、国の危険を苦悩をうれいていた。


「指揮部隊、どうにかならんか」


 今作戦の動きを指示する戦術家たちに尋ねる檀上。

 美玖が伝えている内容は彼らの戦術だ。


 だが返ってくるのは予想通りの答え。


「できる限りのことはやっています」

「それでもやはり」


 檀上も苦い顔で頷く。


「うむ……そうか」


 先ほどから本部の議題に上がっているのは一つ。


 “上級探索者の人員不足”。


 緋色たちが潜っている高難易度ダンジョンは、国でもわずかしか相手にできない凶悪な魔物が跋扈ばっこする。

 その中で、今作戦に協力してくれた探索者は当然さらに絞られる。


 緋色が配信で攻略法を広く発信していたことで、高難易度ダンジョンに潜れる者は増えた。

 それでも、そもそもの探索者スペックが高くなければ潜れない。


 そんな少数の上級探索者を、すぐに用意はできない。

 これだけは、指揮をするだけの立場ではどうにもならないのだ。


「ぐぅ……」


 苦虫をつぶしたような表情を浮かべる檀上。

 見通しが甘かったことを自覚してしまったのだ。


「わたし、もう一回ずつ連絡してみます!」


 その様子に、美玖が本部を出て行く。

 今作戦に参加できなかった上級探索者たちに、もう一度取り合うためだ。


 でも、この場にいる誰もが分かっている。


 そんなのは当てにできない。

 こんな混乱した状況で、駆けつけてくれる上級探索者なんていないだろう、と。


 ダンジョン外に駆り出された普通の探索者たちは、金目当てに集まってくれたに過ぎないのだから。

 基本、上からの指示を免除されている上級探索者は駆けつけてくれないだろう。


 そんな中、


「檀上責任者!」


「どうした」


 声を上げるのは通信を操作する部隊。

 それは、まさに一筋の光をもたらす声だった。


「何やら、カメラ超しに責任者と話をしたいという方が!」


「……通してくれ」

 

 普段ならまずつっぱねるであろう提案。

 だが現状が現状だけに、わらにもすがる思いで通信を繋ぐ。


 そうして、檀上は通信が繋がったカメラを覗く。

 

「!」


(まさか……!)


 目を向けたカメラにはある老人。

 それと同時に、音声が聞こえてくる。


『あー、わしじゃよ、わし』


 本部の誰もが疑問符を浮かべる中、檀上だけが目を見開く。

 この中で唯一、檀上が知っている人物だったのだ。


「じい子さん……!」


『おぉ、本当に檀上が責任者じゃったか。テキトーに言ってみただけなんだがな』


 声の主は緋色の武器の鍛冶師であり、ちい子の祖父のじい子。

 理由あって・・・・・、檀上は顔見知りでさらに信頼も置いている。


「どうしてここにじい子さんが!」


『無論、ピンチを嗅ぎ付けたからじゃ。なんとなくじゃがな。はっは』


「……」


 相変わらずよく分からない感性のじい子。

 だがそれが、逆に檀上を懐かしく思わせる。


(本当に変わらないお方だ)


『で、わしは何をすればいい。生憎頭はよくないんでな』


「そうですね」


 檀上は思考を巡らす。


 今一番人が足りていないのはどこか。

 事態を収束させるためにはどうするべきか。


 それは決まっている。

 問題の根本を解決すれば良い。


「そのまま浅間山へ向かってもらえませんか。そこに、ダンジョン仮面君とちい子君がいます」


『ほお』


 キュアが辿り着いてみなさいと言っていた浅間山ダンジョンだ。

 緋色とちい子がキュアまで辿り着けば、一先ず警告の条件は達成される。


 それでキュアがどう出るかは分からないが、とにかくそうするしか方法はない。


「どうかお願いします……!」


『わかったぞい。ちょうどここからも近いしのう』


 そうして通信は切れる。


「「「……」」」


 今のやり取りに、本部は静まっていた。

 やがて誰かが口を開く。


「檀上責任者。今の方は一体?」


「我々の世代の“最強探索者”だ。ちい子君の叔父でもある。あの人は強いぞ」


「「「!!」」」


 檀上は何かを思い出すように言葉にする。

 途端、本部に少し活気が戻る。


「なんと!」

「あの方が!?」

「でも見たことも聞いたことも……」


 本部の反応に檀上は頷きながら答える。


「それも無理はない。今はどこかで隠居していると聞いているのでな」


 だからこそ心配はある。


(あれから何十年も経つ。果たして大丈夫だろうか)


 だがそう考えた自分が馬鹿らしくなる檀上。


「大丈夫だな」


 確実に衰えてはいるだろう。


 それでも、今の世代の探索者たちからは考えられないほど強かったじい子の勇姿。

 それを思い出して、檀上はほっと一息をついた。







「うおおおおお!」


「グルゥアアァァ!」


 俺のブレードが魔物の首を刈り取る。

 もはや、何体目かすら覚えていられないほどの数だ。


「ちょっと! 飛ばし過ぎよ!」


「わかってる!」


 ちい子の言いたいことも分かるが、そうも言ってられない。


「ちぃっ!」


 宙に浮かぶ忌々しいカメラが目に入る。


 今この瞬間にも、人々は逃げ回っている事だろう。

 それを考えれば、とにかく前進するしかない。


 でも、


「ゴアアァァッ!」

「ギャオオオオオ!」

「フンヌーーー!!」


 やはりとても一点突破できる数じゃない!

 何か、何かもう一手でもあれば!


「腕が下がっておるぞ」


「!?」


「ほれ」


 グシャ。


「……え?」


 目の前で起きたことが一瞬理解できなかった。

 後ろから謎の影が現れて、次の瞬間には魔物が潰れていた。


 それも、見た事のある潰れ方だ。


「ぼーっとしてる暇は無いぞ」


 そんな言葉と共に俺たちの前に姿を見せたのは、


「じい子さん!?」

「おじいちゃん!?」


 俺のデュアルブレードの鍛冶師であり、ちい子の祖父でもあるじい子さん。


 なんでこんな場所に!?

 

 じい子さんの呑気そうな顔と、周りに広がる殺風景とのギャップがより違和感を際立たせる。

 それなのに、なぜか“様になっている”。


「詳しいことは後じゃ。急いでおるのだろう?」


「は、はい! ですが──」


「何度も言わせるでない!」


 だが、じい子さんが俺たちに視線を向けたところに、


「おじいちゃん!」


「む」


 魔物が襲いかかる。


 しまった……!!

 俺は咄嗟に剣を握って前に出ようとする──が、それは意味がなかった。


「あたっ!」


「!?」


 謎の高い奇声。

 と同時に魔物の動きが止まる。

 さらに、


「あーたたたたたたたっ!」


「!?!?」


「ほあたぁっ!」


 じい子さんの目にも止まらぬ攻撃。

 俺ですら全く目に捉えることができない。


 そうして、


「経絡秘孔を突いた。お主はもう死んでおる」


「グオブッ!」


 目の前の魔物は見事に爆散した。


「……ッ」

 

 まじかよ。

 一体どこの世紀末だよ。


「これでわかったか」


「は、はあ……」


「じゃが、長続きはせん。出来るのは道を開ける事ぐらいじゃ! ここはわしに任せてちい子と先に進めい!」


「!」


 そう言うとじい子さんは服を脱ぎ捨てる。


「はぁぁぁ……」


「じい子さん?」


 力を溜めているみたいだ。

 そして、


「もう、これで終わってもいい」


「!?」


 じい子さんは左腕を立てながら禍々まがまがしいオーラを放つ。

 見た目がいつの間にかマッチョと化し、少なかったはずの毛はふさふさになって上に高く伸びる。


 まさか!?

 次はどこのハンターになったって言うんだ!?


「準備はいいかの。道を開けるぞ」


「は、はいっ!」


 俺は急いで武器を構える。

 だけど、


「ちい子?」


「……」


 ちい子が戸惑っているように見える。

 そして、何かを決心したように俺を見た。


「ダンジョン仮面。いえ、緋色・・


「!」


「あんただけが行って。あたしは残る」


「どうして……いや」


 聞き返そうとして、途中で止める。

 彼女の考えていることがわかったからだ。


 おそらく、じい子さんはこの後倒れる。

 どうしてかは分からないけど、今のじい子さんを見てそう感じた。


 その後に魔物に襲われれば終わりだ。

 そうなったじい子さんを無事に帰すには、ちい子が守るしかない。


「分かった。あとは俺に任せろ!」


 返事と共に、じい子さんが拳を放つ。

 俺はその場を蹴った。


「じゃからありったけを……!」


 じい子さんの右腕から衝撃波が飛び出す。

 その特大の衝撃波は目の前の魔物を飲み込み、道を開けていく。


「必ずやり遂げます!」


 そう声に出して、俺は先に進んだ。

 




 そして、


「はぁ、はぁ……」


 最奥へと辿り着く。


 前に来た時とはまったく地形が変わっており、まるで何かのフィールドみたいだ。

 何者かが整えたようにも見える。


「……」


 それに、さっきまでいた大量の魔物。

 それが奇妙なほどいない。


 俺は確信を持って声を出す。


「いるんだろ、出てこいよ」


≪うふふふふっ≫


「!」


 キラリンと光を出しながら、小さな妖精が宙に姿を見せる。


「お前が……」


≪そっ。あなたたちがキュアと呼ぶかわいいかわいい妖精よっ♪≫


 本体がかすむほどにまばゆい光を全身に帯び、宙を飛び回る妖精。

 小さな体から三枚羽を生やす妖精は、俺を見てニヤリと笑いを浮かべる。

 

≪じゃあ最後の試練♪≫


 キュアは人差し指をくるりんと滑らせる。

 すると突然、


「なっ!?」


 ある魔物が何も無いところから現れ出る。


「……おいおい、うそだろ」


 前回の浅間山ダンジョンで、苦戦しながらようやく倒したスチールドラゴン。

 

 それが、


「「「──ヴオオオオッッ!!」」」


「……ッ!!」


 三体・・出現した。


≪ワタシと遊びましょっ。お子ちゃま・・・・・さん≫

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