第11話:俺たちの選択は

「今の、マナの声だよね」


 坂本の声に応えるより先に足が動いていた。二人の元に戻ると、そこには耳を塞いでぶつぶつ言いながら疼くまる彼女と放心状態の小森が居た。坂本が小森に駆け寄り、俺は小桜に声をかけようとしたが拒絶される。「来ないで」「やめて」「触らないで」「気持ち悪い」そんな言葉を彼女からかけられたのは初めてだった。明らかに様子がおかしい。


「お前! あいつに何した!」


 思わず小森に突っかかった俺を坂本が止める。


「希空がマナに何かするわけないでしょ! 落ち着いて!」


「っ……ごめん」


「……ボクは大丈夫」


 そう言う小森が泣いていることにようやく気づいた。頭が回らなくなる。どうしたらいいのか。すると上から「大丈夫かー! 何があった!」と女性の声が聞こえてきてハッとする。見上げると窓から覗き込む月島先生の姿。坂本が助けを求める。すると彼女は「危ないからちょっと退いてろ!」と言って窓から身を乗り出した。


「えっ、ちょっ、まさか飛び降りる気ですか!?」


「大丈夫!死ぬような高さじゃないから!」


「「「いやいやいやいや!」」」


 そのまま真下に落ちるように飛び降りた月島先生は華麗に着地をして彼女の元に駆け寄って抱き寄せた。


「やっ……やだ離し……」


「大丈夫。私だ。愛華、私の声聞こえるか?」


 月島先生が問うと彼女は荒い呼吸を繰り返しながら小さく頷いた。先生の指示に従い、ゆっくりと息を震わせながら呼吸する。繰り返すうちに、だんだんと乱れていた呼吸が落ち着いてきた。


「あ、あの、救急車呼ばなくて大丈夫ですか……?」


 小森が不安そうに問うと、月島先生は彼女を抱いたまま「大丈夫だ」と笑った。ただの過呼吸らしい。ただのと言われても、そんな軽そうには見えなかった。


「ちょっとパニックになってただけだろう。心配しなくても死にはしない。で? 愛華がこうなる前、どんな話をしていたんだ?」


 小森を見る。彼女は俯いたまま黙ってしまった。沈黙が流れる。その気まずい沈黙を破ってくれたのは小桜だった。


「あ、あの……いじめとかじゃ……無いです……」


「あぁ。別にそれは疑ってないよ。普段から仲良い様子は窺っているからな。話せないなら別に話さなくて良い」


「……桜庭くん……希空……」


「なんだ」


「何? マナ」


「先生に……話してもいい? どういう話をしたのか……説明するのに……必要だから……」


 月島先生の肩に顔を埋めて、俺たちとは目を合わさないまま彼女は言う。


「……あぁ」


「うん……大丈夫」


「……うん」


「よし、相談室行くか。どうする? 友達にも一緒に居てもらう?」


「先生と……二人で話したい……」


「ん。分かった。だそうだ。悪いがちょっと借りてくよ」


 そう言うと月島先生は彼女を軽々と抱き上げた。彼女は先生の肩に顔を埋めたまま震えていて、俺達の方を見ようとしない。


「マナ……」


「……小森、今はそっとしておこう」


「……マナ、私達は先帰るから。また明日」


「ボクは待——「帰るよ。希空」


 彼女を待とうとする小森を連れて学校を後にした。やはり、好きだなんて言わない方が良かったのだろうか。俺たちは選択を間違えたのだろうか。


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