第4話 小野さんの料理美味すぎて泣いた

 悩んでいる間にも、玄関から親父が現れた。


「なにを暴れている、智一ともかず

「お、親父……いや、これはその……!」

「ん、お客さんか。って、女の子じゃないか! しかも、めちゃくちゃ可愛い……彼女か!?」


 きっと親父のビジョンでは、小野さんが絶世の美女オードリー・ヘプバーンに映っているだろうな。


「いや、違うって」

「照れるな。照れるな。父さんは、これから丁度出張へ行くところだったんだ。家は任せたぞ」

「ちょ、急だな」


「仕方ないだろう。父さんは経営者なのだからな」



 ガハハと豪快に笑って親父は去っていく。

 おいおい、家に俺一人っきりかよ。

 家事とか俺がやっているから生活は何とかなるけどさ。いや、それよりも小野さんだ。彼女を帰らせねば……このままでは大変な未来が待ち受けている。



「へえ、大久保くんのお父さんって主張で出掛けちゃうんだ」

「そ、そうみたいだ。だから、俺はこれから飯をひとりで作らなきゃいけなくて大変なんだ。すまないが――」


「じゃあ、晩御飯作ってあげよっか」

「へ……」


「だから、ご飯作ってあげる」



 微笑む小野さん。

 そこにはいつもの“ヘンタイ”はなく、純粋な乙女な微笑みがあった。普通にしていれば、美少女。俺はその表情に心を奪われそうになった。


 ……ッ!


 やべぇ、魂を持っていかれるところだった!


 なんとか楽園エデンから戻ってこれたが、危うく飲まれるところだったな。



「いや、いいよ。小野さんの家族が心配するだろうし」

「ウチは大丈夫だから」



 なにが大丈夫なんだ?

 だが、結局押し切られてしまった俺。

 人生で初めて女の子を玄関に迎えてしまった。丁寧に靴を脱ぎ、これまた綺麗に揃えて家に上がった。


 そんな単純なことなのに、俺はドキドキしてしまった。



 それから時間はどんどん進み――気づけば、俺はリビングで正座していた。自分の家なのに、無駄に緊張していた。


 目の前には同じく正座する小野さん。

 それに彼女が作った豪華な料理がズラリ。


 オムライスにスープ、からあげ……それに、デザートのイチゴまで。


 こんな色彩豊かな晩餐ばんさんはいつぶりだろうか。俺でも、こんな料理は作れないぞ。



「小野さんって、本当に料理が得意なんだ」

「言ったでしょ。味も保証するから」



 俺はさっそくスプーンを手に取り、オムライスを一口味わった。……んまッ! なんだこのトロトロでフワフワのオムライス。ケチャップの味もプロの料理人のような味付け。風味が宇宙のように広がって舌が無限に喜んでいる。


 ……負けた。


 彼女の料理スキルは、プロレベル。

 お店に出しても恥のない料理といえよう。



「…………(←思わずボロ泣きしている俺)」

「な、な、なんで泣いてるのかな!?」

「こんな美味い飯を食ったのは初めてだからだ。俺は今、モーレツに感動している」

「あはは、褒めすぎだよ~。でも、美味しいって言ってくれて、すっごく嬉しい」



 こればかりは認めざるを得ない。

 普段はヘンタイ女子だけど。


 うんうん、納得する俺。


 ――って、そうじゃない!!


「ご飯を食べ終わったら帰ってくれるよな」

「泊まるから安心して」


「え?」

「だって、まだ……大久保くんのお背中を流したり、一緒にえっちな動画見たり、夜の営みとか……イベント盛りだくさんじゃん」


 頬を赤くして体をうねらせる小野さん。真の目的はそっちかいッ!! やっぱり、小野さんはヘンタイだった。

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