第15話

 やはりと言うべきか、昼過ぎになる頃に智輝が来た。


「さて、昨日の話を聞かせてもらおうか?」

「めんどくせえ……」


 やっぱ要件はそれか……朝の件もあるし、あまりこの話はしたくないんだが。


 ちなみに結衣はここにはいない。

 今日は葵ちゃんと一緒に買い物に行くとのことだった。


「あんな時間までいるなんて、もしやお泊まり?」

「まあな。だが断じてお前が想像するようなものではない」

「どうかねぇ? 俺に内緒でイチャイチャ……なんて事もありえるだろ?」

「……ねえよ」


 全くこいつはすぐにそういう方向に持っていこうとする。

 俺が一瞬言い淀んだのを見て、智輝がニヤリと笑う。


「その不自然な間……さては何かあったな」

「チッ、やっぱお前の目は誤魔化せねえか……」

「で? 何があったんだよ」


 智輝は無駄なところでやたらと勘がいい。

 俺がどんなに必死で隠したところで、遅かれ早かれ見抜かれていたであろう。


 しかし何と言ったものか……まさか今朝のことをそのまま言うわけにもいかない。


「いろいろあったんだよ……いろいろ、な」


 結局納得のいく返答が思いつかなかったので、適当に誤魔化してみた。

 これで智輝が納得するとは思えないが。


「人に言えないようなことをした、と」

「……してない」

「ほうほう、これはやったな」

「やってねえよ」


 あのことが智輝にバレたらどれだけ面倒だろうか。考えたくもない。

 それに結衣だって困るだろうし。

 いや、でも結衣は自業自得な気がしてきたな……隠すのも疲れるし、別に言ってもいいか。


「で、実際のところは?」

「……朝起きたら結衣がベッドに入り込んできてた」

「マジかよ! で、それから?」


 俺が正直に答えると、明らかに智輝のテンションが上がった。

 まあコイツが好きそうな話だしな。


「何もない。結衣をどかして起きた」

「おいおい冗談だろ、そこまで行っておいて」

「冗談なわけあるか、付き合ってもねえのに手なんか出すわけねえだろ」

「結衣っちから入ってきたんだよな?」

「それはそうだが」

「じゃあいけただろ!」


 いけるわけないだろう。こいつは何を言っているんだ?

 あれは明らかに結衣の悪戯だ。焦る俺を見て楽しむつもりだったとかそういう類の。


「悪戯にマジになって引かれたら立ち直れなくなる」

「お前って奴は……」

「ヘタレってか? あそこで手を出すくらいならヘタレでも何でもいい」

「はぁ……」


 明らかに落胆した様子の智輝。

 別にお前を楽しませるためにやってるわけじゃないんだぞ。

 結衣が本気ならどれだけ楽だったことか……俺だって我慢するのは大変なのだ。


「とにかく、結衣の悪戯の内容がアレだから言いづらかったってだけだから」

「はいはい、そういう事にしときますよ」


 智輝は納得いかない様子だったが、これ以上言えることもないのでこの話はここまでだ。


 それからは適当なゲームをして時間を潰した。

 面倒な追求にちょっと腹が立っていたので、格ゲーでボコボコにしておいた。

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