第37話 エレンの事は何があっても必ず俺が守ってみせる
エレンと付き合えて嬉しい俺だったが、その反面いつ他の男から奪われてしまうか分からない恐怖があった。
エレンが超美人な事も勿論あるが、俺は実際にアランという男に彼女を2回も取られた過去があるのだ。
そのため俺はエレンが偶然画面ロックを解除したままスマホを手放したタイミングを見計らってこっそりと遠隔監視アプリをダウンロードした。
遠隔監視アプリにはスマホ上のメールやSMS、LIMEのトーク履歴、ウェブ閲覧履歴、通話履歴、GPSによる位置情報を取得できる機能が付いている。
それによって俺のスマホからエレンの行動を完全に監視する事が出来るのだ。その上アイコンを非表示にする機能までついているため、遠隔監視アプリの存在がバレるような心配も基本的には無い。
「エレンは俺だけの物だ。絶対誰にも渡さない」
俺がやっている事は世間一般的な常識から考えてかなり異常だという認識は一応ある。だが遠隔監視アプリを使ったエレンの監視を辞める気は絶対にない。
壊れてしまったあの日から俺の中に常識やまともな価値観という言葉はもう既に存在していなかった。
だから俺は今日もエレンといつも通り学校から一緒に帰って別れた後、家に帰りながら遠隔監視アプリを使ってLIMEのトーク履歴を見ている。
「……エレンって相変わらず友達がめちゃくちゃ多いよな」
トーク履歴を見るとエレンは学校などの友達と思わしき複数の相手とかなり頻繁にやり取りをしていた。
その中には男も含まれていたため嫉妬で気が狂いそうになってしまった事は言うまでもない。例え事務的なやり取りしかしていなかったとしても許せそうになかった。
そいつらはヨガのインストラクターと同じく要注意人物として覚えておかなければならない。もし俺のエレンに言い寄るつもりなら容赦はしない。絶対地獄の底に突き落とす。
そんな事を考えながら歩いているうちに家のすぐ近くまで到着したわけだが、玄関の前に見覚えのある人影が立っている姿を見て足を止めた。
そいつの顔を見た瞬間、俺は一気に怒りが湧き上がってくる。一体どの面下げてここへ来たというのだろうか。
「おい、アラン。俺の家の前なんかに来て何やってんだよ」
「か、快斗。実はお前に話したい事があって」
「俺はお前と話す気は一切無い、だから二度とその腹立つ顔を見せるな。分かったら早くどっかいけよ」
俺は怒気のはらんだ声でアランを追い返そうとするが、彼が玄関の前から離れる気配は全く感じられなかった。
「快斗は姉さんに騙されてる、あいつは人の姿をした悪魔なんだ。どうかお願いだから俺の事を信じてくれ」
「何言ってんだ、俺や雪姉にあんな酷い事をしたお前なんかを今更信じられるわけないだろ」
「頼む、ほんの少しでいいんだ。俺の話を聞いてくれ」
しばらく言い合いをする俺達だったが、このままでは一向にらちが明かないと思ったためポケットからスマホを取り出す。
「これ以上家の前に居座るつもりなら警察を呼ぶぞ」
「くっ……また出直す」
警察沙汰になるのはまずいと思ったのか、アランはそう言い残して足早に去って行った。ショッピングモールで起こした雪姉の1件が原因で家から勘当されて高校も退学したとエレンから聞いていたが、こんなところで油を売っている暇などあるのだろうか。
まあ、別にアランが野垂れ死んでしまったところで俺の知った事ではないが。それから家の中に入った俺はエレンに電話をする。
「もしもしエレン」
「快斗君、急に電話掛けてきてどうしたの?」
「実はさ……」
俺は先程アランから待ち伏せされていた事をエレンに洗いざらい全て話した。するとエレンは警戒したような声になる。
「今のアランは自暴自棄になってて、正直何をしでかすか分からないような精神状態だから本当に注意した方がいいよ」
「ああ、エレンが俺を騙してるとか訳のわからない事まで言ってたし、あいつは絶対やばいと思う」
そもそもエレンが俺を騙して一体何の得があると言うのだろうか。それにエレンの事を悪魔だと激しく罵っていたが、俺からすればその言葉はむしろアランにピッタリだと思ってしまった。
だってアランは俺から彼女を奪っただけでは飽き足らず、雪姉にまでちょっかいを出して深い心の傷を植え付けたのだから。
「……アランは多分私に逆恨みしてると思うし、本当怖いよ」
「エレンの事は何があっても必ず俺が守ってみせる」
もしアランがエレンに何か危害を加えようとするなら、その時は俺が盾になってでも守るつもりだ。
「快斗君、ありがとう……でも無理だけは絶対にしないでね、快斗君にもしもの事があったら私耐えられそうにないから」
「それは勿論分かってるさ。愛しいエレンの事だけは絶対に悲しませたくは無いからな」
俺はおちゃらけた明るいトーンでそう話し、エレンに安心感を与えた。果たして今後アランがどんな行動に出るかは正直予想できないが、エレンには指一本触れさせない。俺は強くそう決意した。
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