第19話 だってエレンにはもう幼馴染の快斗君っていう白馬の王子様がいるもんね

 快斗君が私を守ると宣言したあの日から1年近くが経過し、小学6年生になっていた。相変わらず私に対するいじめは無くなっていないものの、劇的に少なくなったと言える。

 ある時は私を優しく励まし、またある時は私の悪口を言っていたクラスの女子と口喧嘩をし、またまたある時は私に嫌がらせをしてきていた男子と殴り合いの喧嘩をするなど、とにかく快斗君は私を守ってくれたのだ。


「最近エレンが前より明るくなってきたから俺は嬉しいよ」


「快斗君がいっぱい私を守ってくれたおかげだよ。本当にありがとう」


 私が満面の笑みでそう答えると快斗君は照れたようにそっぽを向く。そんな快斗君の様子を見て私の胸はドキドキし始めた。

 この感情の正体が恋だと気付いたのは最近の事であり、今の私は快斗君に恋焦がれる乙女になってしまっている。


「……結局アランとはまだ仲直りしてないのか?」


 さっきまで照れていた快斗君だったが、急に真面目な顔になってそう話しかけてきた。アランという名前を聞いて強い不快感を覚えた私は快斗君の前であるにも関わらず不機嫌そうな顔になってしまう。

 そんな私の様子に気づいた快斗君は一瞬悲しそうな顔をした後、黙り込んでしまった。快斗君としては昔のようにまた3人で一緒に過ごしたいと思っているらしいが、残念ながらそれは無理な相談だ。

 あんな事があった以上、アランと仲直りする事なんてできるわけが無かった。現に私はアランに見捨てられたあの日以降、同じ家に住んでいるにも関わらずまともに口すら聞いていない。沈黙によって私達の間に気まずい空気が流れ始めたのを感じ、慌てて別の話題を切り出す。


「……そう言えばあと少しでこの小学校ともお別れだね」


「そっか、もうちょっとで卒業だもんな」


 私達も2ヶ月後にはこの小学校を卒業して、4月からは中学生になる。正直辛いこともたくさんあった小学校だが、もう来ることもなくなると考えると少しだけ寂しさも感じていた。

 中学生になる事への不安も色々とある私だったが、快斗君と同じ中学校へ行くのだからその点に関しては心配ない。小学校と同じようにいじめられたとしても私には快斗君がいるのだからきっと大丈夫だ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「如月さん、俺と付き合ってください」


「……気持ちは嬉しいんだけど好きな人がいるから、ごめんなさい」


 別のクラスの名前も知らない男子から放課後校舎裏に呼び出された告白をされたわけだが、いつものように断っていた。中学生になってからもう思い出せないくらい告白されていた私は、正直うんざりし始めている。

 中学生なってもいじめられると思っていた私だったが、予想は外れそうはならなかった。その理由は簡単で私がとにかくモテるようになったからだ。世間一般的に見てハーフの私は超が何個も付くほど美人らしく、男子達からは大人気になっている。

 最初の頃は小学校頃の延長で私に嫌がらせをしてくるクラスメイトもいたが、いわゆる陽キャと呼ばれる男女で構成されたグループの一員になってからは誰も私に手出ししてこなくなった。


「エレン、また告白されたの?」


「うん、今月に入ってこれで5回目ぐらい」


 教室に戻った私に話しかけてきたのは綾川彩葉あやがわいろはだ。彩葉はクラスの人気者であり、中学生になってからできた私の親友でもある。グループに入って楽しい学校生活を送れるようになったのは全部彩葉のおかげであるため、彼女には感謝しかない。


「やっぱりエレンは大人気だね。ちょっと羨ましい」


「毎回断らないといけないから本当大変だし、羨ましがる必要なんて全くないよ」


 私が困ったような顔でそう話すと彩葉はニヤニヤした表情になって口を開く。


「だってエレンにはもう幼馴染の快斗君っていう白馬の王子様がいるもんね」


「ち、ちょっと。恥ずかしいからあんまり大きな声で話さないでよ」


 快斗君の名前を出されて顔が真っ赤になってしまった私は彩葉にそう抗議した。だが彩葉は相変わらずニヤニヤしたままだ。


「それでエレンはいつ愛しの快斗君に告白するの?」


「こ、告白!?」


 彩葉からそんな事を言われた私はつい大声を出してしまった。快斗君に告白なんて恥ずかしくてとても今の私にはできそうにない。それどころか最近では快斗君の顔を見るとあまりにもドキドキし過ぎてしまうため避けるようにすらなっている。

 これは世間一般的にいう好き避けという奴だと思うのだが、私から避けすぎたせいで快斗君からほとんど話しかけてこなくなってしまった。だから快斗君としては多分私と疎遠になってしまったと感じているに違いない。まあ、クラスが違う事も大きな要因の一つではあるが。


「……エレンがあんまりモタモタしてると王子様を別の女の子に取られちゃうかもよ」


「それは大丈夫だよ。だって快斗君も私の事を好きだから」


 ちょっと心配そうな顔で話しかけてきた彩葉に対して私は自信満々にそう答えた。なぜ快斗君が私の事を好きだと知っているのかというと、つい最近あった宿泊研修が関係してくる。

 快斗君のクラスの男子達は宿泊研修の夜、寝る前に恋愛トークで盛り上がっており、その際に全員で好きな女子を言い合ったらしい。

 そして快斗君は好きな女子として私の名前を出したらしいのだ。私がその場で直接聞いた訳ではないが、証人はたくさんいるため間違いないだろう。

 つまり私と快斗君は相思相愛であり、何も心配する必要は無いのだ。後は快斗君が私に告白してくれるのをゆっくり待つだけで良い。


「快斗君、早く告白してこないかな」


 この時の私は悲劇的な未来が待ち受けているとは夢にも思っていなかった。

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