第7話 兎狩り

「やっばい! 急げ、マモル!! 俺のことはいいから、先にいけええええぇぇぇぇぇぇ」


 マモルは少し逡巡するが、すぐに俺の意を汲んでファーレンへと走り始めた。


「そうだ……それでいい」


 さて、俺はゆっくり帰るか。


 いやー、まさか狩りに夢中になっているうちに日が昇り始めるとは思わなかった。もう少し気づくのが遅ければ、マモルが死んでいただろう。草原には日陰なんてないからな。先に一人で町に帰らせたのは俺の移動速度に合わせていたら無駄に受けるダメージが増えてしまうからだ。

 流石に日照ダメージで従魔を死なせたりしたらテイマー失格だろう。


「それはそれとして、今日は稼げたなぁ」


 出会った魔物は全て一角兎だったので、一晩中一方的な戦闘を続けられた。おかげでレベルが結構上がっている。

 それでは戦果を確認しますか。




ハイト・アイザック(ヒューム)

メイン:見習いテイマー  Lv.5

サブ1:見習い錬金術師  Lv.1

サブ2:見習い戦士    Lv.2

HP:98/110 MP:90/90

力:14(+6)

耐:15(+3)

魔:16

速:14

運:16

スキル:テイム、錬金術、剣術(初級)

称号:<ラビットキラー>←new

SP:12




 予想していたサブ職はレベルが上がりにくい説はほぼ確定と見てよさそうだ。ただ、同じサブ職同士なのに見習い錬金術師と見習い戦士でレベルが違うのが引っかかるな。もしや、生産職は戦闘より職業専用スキルをバンバンつかって生産する方がレベルが上がりやすかったりするのではないだろうか。宿に帰ったら一度ログアウトすることになるが、再度ログインしたときには錬金術を使って検証しよう。


 ちなみにHPが減っているのは、ヘマをして一角兎から何度か体当たりを受けたからである。


「称号ねぇ、確認しなくても内容はなんとなーくわかるんだよなぁ……」


 それでも見ないままいるのも、気持ち悪いので詳細を確認する。




<ラビットキラー>

 短期間に多くの兎系統の魔物を屠った者。

 兎系統の魔物との戦闘時、速さが少し上昇する。

 



 予想通りの内容ではあるが、まさかステータスに恩恵があるとは思わなかった。兎系統の魔物とやらがどれくらい存在するのかわからないが、少なくとも次の一角兎狩りが更にはかどることを思えば、もらえてラッキーな称号だろう。


 マモルもいくらかレベルアップのアナウンスがあったので、後で確認しておこう。


 宿に戻り、借りている部屋に入るとマモルがベッドの隣におすわりして待っていた。


「えらいぞ。マモル、俺はそろそろログアウトするから戻ってくるまでこの部屋で大人しくしておくんだぞ」


 頭を撫でながら言うと、いつものように尻尾が左右に揺られる。この動作はマモル中では、完全にわかったのサインになったんだな。


 宿のベッドに寝転がり、ログアウトを意識する。


「おぉ~、戻ってきた」


 一瞬で現実へと戻ることができたので、被っていた専用のヘルメットを外す。そして妻がいると思われるリビングへと移動する。


「隼人、おかえり~」


 こたつに入りながら、本を読んでいた妻がこちらを見る。


「ただいま。もう打ち合わせ終わった?」

「うん、元々そんなに長い予定じゃなかったし。時間できたから読みかけだった漫画を読んでるの」


 そう言って、手に持っている漫画の表紙を見せてくれる。


「そっか。ご飯はどうしよう……また俺が作る?」

「いや、今日は出前にしよ。隼人ちょっと疲れた顔してるし」


 ゲーム内とはいえ、数時間ひたすらに剣を振り続けたからね。流石に精神的に疲れたよ。


「わかる?」

「もちろん。私には隼人の全てが見えてるんだから!」

「それは怖いなぁ……」


 もし全部見えていたら、またマモルを日光に晒したのがバレるからね。一度目はマモルについて全然知らなかったから仕方ないと思って何も言ってこなかったが、二度目はダメだ。バレたら、たぶん叱られる。


「ならバレて困ることはしないの」

「肝に銘じておくよ」


 その後、寿司の出前を頼むと一時間も待たないうちに家に届いた。醤油とワサビと小皿を用意して、二人でこたつに入る。


「「いただきます」」


 俺は好物のタコの握りをたべながら、ずっと気になっていたことを妻へ尋ねる。


「そういえばさ、ランダムレアチケットで何でたの?」

「スキルだった。植物魔法ってやつ」

「いいな~魔法。それでどういうタイプの魔法なの?」

「まだわかんない。今、使える魔法って1種類だけだし。でも、それは茨を地面から生やして相手を拘束する。みたいな効果だったと思う」


 それだけ聞くと行動阻害を得意とする魔法に聞こえるが、まぁなんとも言えないな。妻も口にしたが、効果がわかるのが1種類だけだとな……あと1つ2つ魔法を覚えてくれれば傾向が分かるんだが。


「まぁ、追々わかるか」

「そうだね。って、そのエビは取っちゃダメだよ!」


 しれっとエビの最後の1貫を取ろうとすると妻に止められる。


「しょうがないなぁ……エビは譲るからマグロのラスト1貫はもらうよ」

「むう……致し方なし」


 ふくれっ面の妻は普段の2割増しでかわいかった。


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