第3話 雑魚モブ3人組

「さっきぶりだね、リーナ」

「うん! できるだけ急いできたんだけど、待たせちゃった?」

「そんなことないよ」

「よかった。仕事柄、キャラメイクとかあるとこっちゃうから時間がかかるんだよね」


 妻はイラストレーターの仕事をしている。本人の言う通り、ゲームをする際はアバターの外見にかなりこだわってしまう癖があると以前言っていた。職業病みたいなものなのだろう。


「で、どう? かわいい?」


 天真爛漫な笑顔がこちらへ向けられる。


「もちろん」


 俺と同じくほとんど顔や体型はいじっていないようだが、肌と髪、それから目の色が変わっている。リアルでは色白美人といった感じの彼女だが、このゲームのアバターはこんがり焼けた小麦色の肌をしている。そして黒絹のようだった髪は太陽の光を反射して輝く黄金色に。瞳は薄いブラウンから、角度によってライトブルーにもライトグリーンにも見える不思議な色彩へと変更されていた。


「ちなみに種族は?」

「ダークエルフ!」


 やっぱりね。だって耳が尖ってるし。そこが唯一、顔の造形でリアルと違うところだから、会ってすぐに目についたよ。


「どうしてその種族にしたの?」

「理由を知ってて聞いてるでしょ」

「ダークエルフが好きだから?」

「正解」


 まぁ、そうだよね。SNSにたまに載せてる趣味絵、ダークエルフ率高いし。


「当たってよかった。でも、本当にいいの? 事前情報では、ダークエルフってかなりステータス偏ってるからはずれ種族だとか騒がれてたけど」

「大丈夫かはわからないけど、いいの! やっぱり好きな見た目、好きなビルドで遊びたいもん。それにテイマーも地雷職の可能性大だって騒がれてたし、地雷要素は一つでも二つでも最早変わらないでしょ」

「俺もそう思うよ」


 そうです。我ら夫婦が揃ってメイン職に設定したテイマー職は事前情報公開時点で地雷認定を受けています。


 理由は主に二つ。


 まずシンプルにテイム方法がわからないから。さっきテイムのスキル詳細を確認したが、やはり魔物がテイムできるようになると記載されているだけで、具体的にどうすれば良いのかはわからなかった。

 俺たちはなんとしてもペット……じゃなくて魔物を飼いたいからいくらでも検証するつもりではあるが、普通のプレイヤーのほとんどはそこまでテイムに熱心に取り組もうとは思わないだろう。特に初回出荷分を購入するようなゲーマーたちはそんなことしている間にレベルを上げて強くなりたいと思う者の方が多いはずだ。


 もう一つの理由というのはパーティーの枠をテイムした魔物で潰してしまうからだ。このゲームでは1パーティーにつき最大6人で組んで行動することができるのだが、テイマーがいると最低でも本人と魔物の分の二枠を取ってしまう。更に戦闘の経験値やドロップアイテムなどはパーティーメンバーで均等に割られるためテイマーとテイムされた魔物は二枠分の経験値やアイテムを手に入る。それがトラブルの元になりそうだということは誰でも予想できよう。

 仮にテイマーが魔物を連れずに参加すれば、問題はなくなるが……それなら別の職業を3つ選択している者を入れた方が良くないかということになる。よってパーティーを組みにくい。パーティー単位での攻略前提の魔物が出てくる可能性がある以上、地雷認定を受けても仕方ない職業である。


 普通ならね。

 俺たちの場合、パーティーは夫婦で組めば問題ないし、別に攻略最前線を目指すわけでもないから強くなれなかったとしても大丈夫だと思う。


「それに私がダメでもハイトが助けてくれるでしょ?」

「もちろん。君は僕の最愛の妻だからね」

「ふぅー! かっこいい~」

「茶化すなよ。恥ずかしくなるだろ」


「「「へいへいへいへい。そこのナイスバディなお姉さん。隣にいるひょろいのより俺たちと遊ばない???」」」


 声のした方を向くと、見た目からして軽薄そうなチンピラ3人衆が。これは……RPG定番の雑魚モブ3人組ってやつか!?

 すごい、初めて生で見ちゃったよ。


「ひょろいって言うな、モブスリー。あと人妻に手を出すのは良くないぞ」


「「「あ? 俺らのどこがモブだってんだ! どう見ても韓流スター系のイケメンプレイヤー三人だろ!!」」」


 え、こいつらプレイヤーなの?

 だとしたら痛すぎないか……。


「アー、ハイソウデスネ」


「「「カタコトで返事すんな!!!」」」


「ねぇ、ハイト~。そろそろ宿探さない? 私、眠くなってきちゃった」

「え? まだ昼前だ――――」

「い・い・か・ら! とにかく行こ」

「えっ、あ、うん。そうだね」


 妻は俺の左腕に抱き着くとそのままモブ3人組とは反対の方向へ歩き始めた。普段はこんなにあからさまに胸を押しつけてきたりしない。珍しいことがあるものだ。


「「「ちょ、ちょ、ちょっとお姉さん!!! それを是非俺達にもしてく――――」」」


「うるさい。キモい、どっかいけ。ついてきたらハラスメントで通報するから」


 絶対零度の視線と怒気を孕んだ声がモブ3人組に向けられる。


 え、ちょっと!

 妻が激おこなんですけど。どうしてくれんだ、機嫌直るまで時間かかるタイプなんだぞ!!


 俺たちはしばらく歩いてから振り返ってみたが、彼等の姿はどこにも見つからなかった。


「ごめん、リーナ。もっと俺が強く言った方がよかったな。あんなにモブっぽいやつらがこの世界には存在するんだと思って興味が湧いて。つい話を続けてしまったよ」

「えっ、別に気にしてないよ? 私も同じこと思ったもん。三人声が揃ってたのもおもしろかったし」

「じゃあ、さっき怒ったのは……演技?」

「半分はね。もう半分はハイトのことひょろいって言ったから。ずっと自分の夫が気にしてることをあんな風に言われたらイラッとするよ」

「俺のために怒ってくれたのか。ありがとう、リーナ!」


 なんて良い妻なんだ!

 感動した。涙は出ないけど。


「いいよ。その代わり、今度あいつらみたいなのがきたら、ガツンっと言ってよね?」

「うん、任せなよ」


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