Part3

第十九階層フロアボス攻略が終わった。


外はすっかり夜で、ユキ達は、それぞれ家へと帰っていった。


そして次の朝、ユキの元にサラからメッセージが届いた。


内容は、「二人で話したい」というものだった。それを見たユキは、サラの位置情報を確認し、その場所へと向かった。


「…」


「お待たせしました、サラさん」


「お、来たか」


「待ちました?」


「いいや、むしろ急に呼んで悪かったな」


「いえいえ、大丈夫ですよ」


「…」


「それで、お話ってなんですか?」


「あぁ」


「?」


「ユキ、前に私が言った。時間が無いって言った事、覚えてるか?」


「はい」


「時間が無いのには、もちろん訳があってな。前に私が、第十六階層のフロアボスと戦っていた時、私はある呪いをかけられてな」


「!呪いって、なんの呪いですか?」


「それは、肉体寿命の急成長だ」


「肉体寿命?」


「あぁ、この呪いは、精神的に見れば、特にかわりはない。だが、肉体の急成長、言ってしまえば老化が早まったってことだ。最初知った時は、なにかの冗談だと思った。だが、たまに激しい戦闘後になると、血を吐いてしまう時があってな。これはホンモノだと確信した」


「そんな…なんとかならないんですか?」


「ならない、この呪いはかなり強力でな。私もどうにかならないかと試みたが、結果治らなかった。だから私は、私の後継者となりうる人物を探していた。というのも、ランキング上位者は、最低でも二人以上いなければならない。これは昔からの決まり、言わば掟だ。最初は、後継者を育てる気はなかった。なんとか抗って、生きてやろうと、でも、そう思うのにも限界がきてしまってな。中々見つからなかったが、そんな時に、ユキ、君を見つけたんだ」


「ボク、ですか?」


「あぁ」


「…でも、どうして呪いの事を、ボクに話したんですか?それに、ボクは正直、ランキングなんて器じゃないです」


「そんな事はない、私には分かる。ユキには、皆をまとめるだけの力がある。それと呪いの事は、誰にも話していない」


「じゃあ、どうしてボクに」


「…せめて、後継者であるユキには、知っておいてほしいと思ったからさ」


「…」


「そんな顔をするな。ユキを信頼してるからこそ、こうして話すことができた。お陰で気分が楽になったよ」


「ボク、嫌ですよ。サラさんと別れるなんて。まだまだ教えてもらいたい事だってあるし、それに、せっかく出会えたのに」


「…そうだな。でも、人間生きていれば、出会いもあるし、別れもある」


「それは、そうですけど」


「…まあ、私も、まだ死ぬつもりはない。だから、しばらくは一緒にいられるさ」


「ずっと、一緒にいたいです」


「…そういうのは、好きな男ができた時に、言ってやれ。きっと喜ぶぞ」


「でも、ボクは別に、好きな男子とか、いないですし。サラさんはいるんですか?」


「好きな男子か、どうだろうな。でも、一人可愛いやつがいてな」


「誰です?」


「まあ、その内教えるさ」


「えー、今聞きたいですよ」


「まあまあ。…ユキ」


「はい?」


「君にもう一つ、伝えておくべき事がある」


「なんですか?」


「私が、ユキに剣を教えた訳さ。聞いた事はあるか?」


「なにをです?」


「剣士狩り」


「いえ、ないですけど、剣士狩りって、どういうことですか?」


「その名の通り、剣士を狩って、金を集めている連中さ」


「なんで、剣士を狩るんですか?」


「金になるからさ。闇取引でな」


「闇取引?」


「剣士は、ダンジョンに挑む者たちのことを指す。何もしらない人達はもう思っているだろうが、闇取引の連中からすれば、都合のいい商売対象、剣士狩りにとって、最も稼げる方法って訳さ」


「そんな…剣士がなにか悪いことをしたんですか?」


「いや、なにもしてない」


「ならどうして」


「剣士狩りをしているのは、同じ剣士。モンスターを討伐するだけじゃ、気が収まらない連中も、世の中にはいるってことだよ」


「…」


「剣士の価値は、モンスターと同じで、強ければ強いほど価値が高いし、狙われる。だから私は、ユキやミユキに、剣技を教えた。剣士狩りなんかに、負けてほしくなかったからね」


「剣士狩りは、いつ姿を現すんですか?」


「分からない。奴らは突然現れ、剣士を殺しては、すぐ消える」


「じゃあ、対策のしようが」


「だが、二つ共通な点がある。それは、夜か、誰もいない、剣士が一人の時に現れる」


「夜か、一人の時」


「あぁ、だが、基本的な奴らの動きは夜にある。今のユキとミユキなら、剣士狩りとも戦えるだろう。それだけの力がある。それと、近々剣士狩りの討伐があるかもしれない」


「そうなんですか?」


「あぁ、剣士狩りに太刀打ちできると言っても、奴らは強い。だから、特別部隊を組み、今度こそ奴らを叩き潰す」


「…その時、ボクは参加できますか?」


「あぁ、もちろんできるが。奴らは強いぞ」


「だとしても、剣士狩りを放っておく事はできません」


「強いな、ユキは。分かった、その時がきたら、連絡するよ」


「はい!」


「じゃあ、今日はこの辺にしよう」


「分かりました」


「じゃあ、またダンジョンでな」


「はい」


ユキとサラは、話を終え、それぞれ家に帰っていった。


「(剣士狩り、一体何者なんだろう)」


ユキは、帰りながら剣士狩りの事を考えていた。


そんなユキを、遠くから見る怪しい人影が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る