第四章
一、あなたは、俺の光。
北の地。
季節は巡って冬の頃。
とある村の入口に辿り着いた時、
視界に広がったのは、ひとの仕業とは到底思えない光景だった。
重なるように動かないひとだったモノ。真白い地面を染める斑模様の赤。女も子供も老人も関係なく、時が止まったかのようにぴくりとも動かない。皆、身体のどこかが欠けていて、その欠片がそこら中に散らばっていた。
吐き気を覚えるほどの腐臭と、血の臭いが漂うその凄惨な光景は、
目の前に広がるその悲惨な事態に、
******
戻った時、冷たい地面に蹲っている
「大丈夫? 一旦ここから離れよう。嫌かもしれないけど、我慢して?」
あの酷い有様を見るに、悪鬼の仕業だろう。あの人数をひとりでやったのか、それとも群れで襲ったのか。手口からして前者だろう。
(骸の状態から見て、同一人物の仕業だ。あんなことができるのは、限られているだろうが······)
それよりも
その入口付近で
血を見慣れていないとか、そういう類のものではないだろう。
あの光景自体に、こうなってしまったなにかがあるのかもしれない。
微かに震えているその身体をぎゅっと抱き寄せて、
「あなたが抱えているモノに関係している? 俺はどうしたらいい?」
ぎゅっと隙間なく抱きしめて、囁くように訊ねる。
けれども。
「あなたを苦しめているそれが悪夢なら、俺が喰らってあげる」
凶を吉に転じさせる。
悪いものを良いものに。
溶けるように交わる夢の中。
闇の中でひとり、蹲る
******
あの折り重なるような骸の山は、あの日の光景に似て。
暗闇が広がるこの空間に在るのは、己のみ。
自分の配下であった九十九人の花の精たちが、ある者の策略によって虐殺された。花の精たちに一体何の罪があろうか。彼ら、彼女らがなにをしたというのか。
ただ、宴で花を咲かせただけ。
罠に気付き、駆け付けた時には遅かった。
真白い
それを宴の余興として、その者は酒を酌み交わしていたのだ。天界に座する者の所業とは思えなかった。
けれどもその者は笑いながら、待っていたとばかりに言い放つ。
「なんということ! この
その者は天界にある階級の中でも上位の神で、自分の意のままに
しかし、あの天帝に特別気に入られている
彼女にその口実を与えてしまったことが、最悪の結果を齎した。
その後、花の精を虐殺させ、
元凶を作ったはずの彼女は、証拠も証言も不十分ということで、位を少し落とされただけで、天界を追われることはなかった。
あの日、あの場にいた者たちが口を揃えて、
そんな天界に嫌気がさした
あの時の光景を思い出すたび、心の奥底に眠る恐ろしい感情が蘇り、眩暈がした。
今もその感情は、暗闇の中で彷徨い続けている。
そんな黒い感情でいっぱいになっている自分の頭に、遠慮がちにそっと置かれた手があった。
「あなたのせいじゃないよ、」
自分を信じてくれている者たちが皆、口にしてくれた言葉。
当時の
けれども、今、そこに響いたその言葉は、どこかそれらとは違っていた。
「あなたは、なにも間違っていない」
違う。
あの時、自分がもっと冷静に事態を受け止めていたら、あんな事にはならなかったはず。すべて、自分の落ち度だった。
「俺は、そんなあなたに救われたよ?」
子供をあやすように、頭を撫でられる。なんだか落ち着くその声音も。よく知っているものだった。
「俺にとって、あなたは、光。暗闇なんて全部消え失せてしまうほどの、鮮烈で強力な光だから」
途端、暗闇が晴れ、真っ白なセカイに変わる。言葉を重ねて、
黒でも、白でも、赤でもない、薄紅色の花びらたちが地面に落ちては染めていく。
「俺、あなたと同じ名前の、この花が好きなんだ。あなたは?」
それは儚くも華やかな、薄紅色の花びら。
いつの間にか地面に降り積もったその花びらを、両手で掬い上げる。俯いたまま優しい笑みを浮かべ、思わず言葉が零れた。
「私も··········好きです、」
途端、手の中の花びらと一緒に、地面を覆っていた無数の花びらが、どこからか吹いてきた強い風によって、一斉に天に舞い上がる。
その花びらたちを追うように、顔を上げた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます