第22話

 眩しい光と共に、満面の笑みを浮かべた千聖ちゃんが手を振っていた。


 久しぶりに出会う彼女に本来なら笑顔で出迎えるべきなんだろうけど、そうできなかった理由はその後ろに立って僕を値踏みするかのように見つめている男性と女性が一人ずついたからだ。


「久しぶり! えっと、急に仲間を連れて来てしまってごめんね?」


「お、おう」


「最近メンバーが離してくれなくて……中々来れなくてごめんなさい。そ、その……テンちゃんにも会いたくて連れて来てしまったの」


「そうだったのか……まあ、野菜はいっぱいあるから、ご馳走するくらいなら……」


「あ、ありがとう! それにしてもお兄ちゃん、ちょっと雰囲気変わったね?」


 何とか『憤怒』を抑えられるようになったのが、すぐに分かったみたいだ。


「まあ、中にどうぞ。テンちゃんたちも待っている」


「うん! お邪魔します!」


 千聖ちゃんと一緒に入って来た二人。


 男は髪を金色に染めて、短髪にパーマをかけて今時の若者らしい格好で、通称イケメンと呼ばれる存在だと思う。


 女はショートの黒い髪で狐目のように目が吊り上がっている。黒色に統一感のあるパンクな格好だ。


 正直な感想から、二人とも千聖ちゃんとは全く似合っていない。千聖ちゃんはどちらかというと清楚感のある女子高生で、彼らはバンドマンのような格好なので違和感を感じてしまう。


 リビングに入ってすぐに女の方が「モンスター!?」と少し甲高い声を響かせる。


「どれも僕の従魔なので心配しないでください」


「…………こんなわけのわからないものを飼ってるなんて」


「そう言わないで。ほら、めちゃ可愛いでしょう?」


 テンちゃんを持ち上げて彼女の前に出す。


「大根!? 教科書でしか見た事ないわ……うわぁ…………」


 あからさまに嫌がる表情を浮かべる。男の方もちょっと引いた表情だ。


 従魔たちを化け物みたいに見る彼らに、心の中で怒りが込み上がりそうになるが、ここはせっかく来てくれた千聖ちゃんがいるので、ぐっと堪える。


 せっかくテンちゃんに会いに来てくれたお客様なのに、嫌な想いをして帰って欲しくはないから。


「あ、お兄ちゃん。食事は大丈夫。すぐに帰るから~」


「そうか。分かった。忙しいのか?」


「ん~うちのパーティーって狩りの時期は毎日向かうからね。最近ここら辺で地震が起きて、その調査とかもお願いされているんだ」


「あ……ニュースで地震で地震があるってみたな」


 すると千聖ちゃんがテンちゃんたちを抱きかかえたまま不思議そうな表情を浮かべて僕を見つめる。


「地震の時、寝てたの?」


 !? そ、そういえば、ダンジョンに入っていたからな。


「だ、ダンジョンに入っていたから気づかなかったんだ」


「えっ? ダンジョンでも大きな揺れを感じたって聞いたんだけど…………野菜ダンジョンだと揺れなかったのかしら? 不思議だね」


「野菜ダンジョン?」


「う、ううん! 何でもないよ」


「…………」


 野菜ダンジョンはそもそも俺と千聖ちゃん以外は入れないから、バレたとしても問題ないと思うが、イマイチこの人達がどんな感じなのか分からない。


 暫くテンちゃんたちと戯れたあと、千聖ちゃんたちを家を後にした。


 一つ気になるのは、離れる時もこちらを睨むように見つめていたことだ。


 その視線には記憶がある。二十年前の出来事がまた思い浮かんでくる。まるで獲物を見るかの視線。悪意を向けられている視線だ。




 この日、この出会いが僕の人生を大きく変えることになるのを、その時の僕が知る由はなかった。




 ◆




 数時間後。


 とあるパーティーの待合室。


「なあ、未来みく。さっきのあいつどう思う?」


「あ~あの凶悪犯ね。聞いていたよりずっと弱そうだったけど、あの野菜は――――――本当に気持ち悪かった」


「それにさ、千聖姫が言っていた『野菜ダンジョン』というのも気になる。絶対にダンジョンと言っていたけど、そんなダンジョン聞いた事ないからな」


「そうね。私もそう思うわ。従魔とか言っていた動く野菜…………なんか気になるのよね。もしかして地震が起きたのって、あの野菜のせいなんじゃない? だってあの凄い地震を揺れなかったって言っていたから、もしかしたら野菜ダンジョンとやらに秘密があるかも」


「どうする?」


「それなら私に任せといて――――――なんせ、私の得意分野・・・・だからね」


 二人は怪しい笑みを浮かべてそれぞれの思惑を想像した。

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