第14話

 千聖ちゃんと従魔たち三匹と共に野菜ダンジョンの三層にやってきた。


 三層までだが、どうやら各階層同じ作りになっているようだ。同じ景色の三層もくねくねした洞窟のような道を進むと、足音は聞こえてこない。一層二層の足音が響いていたのだが……。


 広間に入ると中央に大きな樹木にも見える巨大な葉っぱが天に向かって広がっていた。そこにぶら下がっているのは――――


「オクラ?」


「オクラ?」


 僕の声に釣られるかのように千聖ちゃんが首を傾げる。


 大きな葉っぱの下に緑色の三日月のようにたくさんのオクラがぶら下がったまま、つぶらな目でこちらを見つめていた。サイズは通称オクラと変わらなくて、手の上に乗るくらいだ。気になるのは、今までの野菜モンスターと違って足がないこと。ただぶら下がっているだけだ。


「お兄ちゃん! 下!」


 天に向かって広がっていた葉っぱとオクラに気を取られていたら、千聖ちゃんに呼ばれて下を向く。


 そこには――――土の中から可愛らしい顔を出してこちらを見つめている紫のモンスターが、一面に並んでいた。


「サツマイモ!」「モグラ!」


 ん? 確かに言われてみれば、モグラっぽいな。


 出て来るわけではないけれど、顔を前脚を外に出して、じーっと僕達を見つめてきた。


 テンちゃんたちと共に千聖ちゃんがモグラを撫で始める。僕もオクラモンスターたちを優しく撫でてあげる。


 ある程度満足するまで撫でてあげて、三層の探索も終わりを迎えて収穫したサツマイモとオクラを大量に持って戻った。


 そんな中、新しく従魔に加わったのは、モグラそっくりのサツマイモモンスターのサッちゃん。オクラは大きな葉っぱを丸ごと五匹程ぶら下げたものを持って来た。彼らはクラちゃんたちと名付けて、部屋に飾って欲しいそうだ。


 早速家に帰ってきて、茶の間に観葉植物のように器に土を盛り、クラちゃんたちの大きな葉の茎を刺しこんだ。


 食事も要らないらしいけど、水を入れてくれると嬉しいと言われたので早速水を汲んで根本に水をかけてあげた。


 今度は夕飯のお供にサツマイモを調理して準備する。サツマイモは簡単に蒸し器に入れて蒸してデザートにしよう。オクラはすりおろした大根と混ぜてめんつゆを掛ければ、簡単だけどオクラの美味しさをふんだんに味わうことができる。


 午前中に仕込みした野菜料理を並べる。


「お、お兄ちゃん? 何だか種類が凄く多くない?」


「午前中暇だったから準備しておいたよ」


「そうなんだ! そういや、今までは畑仕事をしていたんだっけ?」


 会話の途中だけど、二人で手を合わせて「いただきます」と食べ物への感謝を口にして食事を始める。


「今までは畑仕事だな。朝から晩までやっていたから、今は驚くほど暇で何をしていいか分からない」


「そっか~それなら、せっかくだし、探索者になったら?」


「探索者?」


 その言葉が何を意味するのかくらいは知っている。けれど、僕みたいな人がなれるものか?


「うん。お兄ちゃんって体格いいし、魔物と戦いさえ覚えれば探索者になれると思うな。確か才能なしだったよね?」


「ああ。才能なしだ」


 才能。それは抽象的な言葉ではない。世界に『ダンジョン』が現れてから、人類は『才能』を開花させることができるようになった。


 才能はいくつも存在するが、中でも『剣士』や『魔法使い』などが有名だ。中でも『魔法』が使えるようになる魔法使いは大人気で、多くの子供たちが魔法使いの才能を授かりたいと日々願っていたりする。


 といっても全員が才能を授かれるわけではなく、ごく一部しか授かれない。授かれなかった者は『才能なし』となる。中には蔑むためにわざと『無能』だなんて呼ぶ人もいるくらいだ。


 では才能はどのように開花するのか。それはとても単純で、生まれてから十年後に授かることになる。これを使えば自分の誕生日や生まれた時間までもが分かったりする。


 さらに確認は自分からはできず、探索ギルドと呼ばれている探索者をまとめる機関で『鑑定板』を使えば、その者の才能のほかにスキルやレベルなどが分かる。ここでいうスキルは獲得しているだけでいつでも使える神秘的な力で、レベルというのは神の祝福ともされて数字が上昇するだけで、身体能力が上昇したりと不思議な力を秘めているものとなる。


 それもあって探索者は、できるかぎりレベルを上昇させて強くなる。を目指していたりする。特に、レベルが上昇すれば新しいスキルを獲得したりと至れり尽くせりなのだ。


「そっか……私はありがたいことに才能を授かれたし、多分普通の才能よりもずっと強い才能だから簡単に探索者になれたのよね」


 まだ数日しか会っていないのもあって千聖ちゃんのことはあまり分かってない。


 ただ腰に常に剣を掛けているので探索者だとは分かる。元々の法律では銃刀法違反なんてあるが、ダンジョンが生まれてから異能力とも呼ぶべき才能やレベルのおかげで、人並み以上に強い人も現れた。数年前までは犯罪が頻繁に起きているとニュースで騒いでいたっけ。


 あれから特別な法律が課せられた。


 国が決めた特定の法律に違反した者はその場で逮捕して良いとの法律。逮捕も困難な場合は大怪我させてでも逮捕して構わないこともあり、犯罪者を狩る側・・・の探索者もたくさん現れた。


 力で解決して報奨金ももらえるためか、多くの探索者が正義に燃えていたりして、犯罪が激減したのは事実だ。


 ただ、それでより国の拘束は厳しくなっていたりするが、国も愚かではないようで特定法律はそう多くない。殺人、強盗、強姦など。人の命に係わるモノが大半だ。


「レベルさえ上げてしまえば、才能がなくても多少は戦えるから、もしやりたいことが見つからないなら探索者を目指してみるのもいいかもね」


「そう……だな。ちょっと考えてみるよ」


 満面の笑顔で「うん。探索者になったら一緒に狩りに行こうね」と話す彼女の気持ちが嬉しくて、探索者になりたいと思えてしまう。でも僕みたいな人と一緒だと色んな誤解をされかねないからな……その日からどうするか悩み始めた。

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