第28話 ラストバトル!ユーグ vs フロイ!

 控室を出てスタジアムに向かう途中、実況をしていたウィンが廊下で立ち尽くしていた。なにやら落ち込んでいる様子。

「どうしたんだ?こんなところで」

「あ、ユーグ。・・・さっきの試合お見事でした」

「どうも。それよりもうすぐ試合始まるのにこんなところで何やってるんだ?俺とフロイのデュエルも引き続き実況してくれるみたいだし、スタジアムにいなくていいのか?」

「ええ、そろそろ行かなきゃいけないんですが・・・」

「・・・もしかして緊張してる?」

「面目ないです・・・。でもフロイは私なんかよりもずっとデュエルが強いし、実況するのが恥ずかしくなってきて・・・」

自信満々に実況してると思っていたウィンがこんなに弱気になっているなんて意外だった。

「デュエルするのはウィンじゃないし、実況者の実力なんて関係ないだろ。大切なのはデュエルの状況や熱気を観客に伝えることだよ」

「本当に私に務まるんでしょうか?プロデュエリストになってから見様見真似みようみまねで実況も挑戦してみましたが、自分よりもずっと上手な人はたくさんいます。私が選ばれたのは・・・ちやほやされてるだけで・・・実況の上手い下手は関係ないんじゃないかって思うんです」

「俺は実況なんてやったことないけど、ウィンの実況が別段下手だなんて思わなかったし、今日の試合があんまり盛り上がらなかったのは、まぁ・・選手が悪かったとも言えなくもないし・・今から落ち込んでも仕方ないんじゃない?」

「・・・やっぱり自信ないです」

「自信かぁ・・・イメチェンでもしたら変わるかもよ」

「例えば?」

「そうだな・・・腕にシルバー巻くとかさ☆」

「えっ・・・私には似合わないです」

ウィンにドン引きされた。結構自信あったのにあっさり却下されるとは思わなかった。俺のセンスはイマイチなのか・・・。

「でも、それだけ確固たる自分があるならきっと大丈夫だよ。君は自分のファッションセンスには自信があるみたいだし、おどおどしながら話すよりちょっと自信過剰に話す方が皆真摯に聞いてくれると思う」

「・・・ありがとうございます。ユーグは大人ですね。プロデュエリストとしては私の方が先輩なのに私よりずっと堂々としていて羨ましいです」

「別に大したこと言ってないでしょ」

「そんなことないです。さっきヘヴィメタのことを悪く言っている観客相手に本気で説教している時も、フロイと話している時も自分の意見をはっきりと言えてかっこよかったです。とてもまだ16歳には見えないくらい大人に見えます」

「・・・もしかしておっさん臭く見えてる?」

「いえ・・いやちょっとは・・・ユーグはどうしてそんなに強いんですか?」

話題が変わった。どうやら聞かない方がよさそうだ。

「君にはどう見えているかわからないけど、俺は強くなんてないよ。弱くて、不格好で、誰かが支えてくれないとすぐ挫けちまうヘタレだよ。・・・さっきだって控室で泣いてたんだぜ?」

「えっ・・・ユーグも泣く時があるんですか?」

「そりゃ泣くときくらいあるよ、鬼じゃあるまいし・・・とても人には見せられない位ガキみてぇに泣いてたよ。でも、俺が泣き止むまでずっとそばにいてくれる人がいた。だから今は挫けずに戦えるんだ」

「・・・もしかして恋人ですか?」

「おう!将来を約束した仲だぜ!ウィンにもきっといい人が現れるよ!」

「・・・私結婚してますけど」

「お、おう・・・」

既婚者かい!すっげー恥ずかしいわ!

「ユーグってなんだか不思議な人ですね。初対面なのにこんなこと話すなんて思ってなかったです。お互い頑張りましょう!」

「お、おう!」

ウィンが手のひらを顔まで上げて、俺はその手をバチンと叩く。ハイタッチ!



いよいよ試合開始の時刻になった。スタジアムにはすでにウィンが実況席にいる。

「大変お待たせしました!フロイとユーグのエキシビションマッチが只今開幕します!」

スタジアムは大盛況。ウィンの奴、あんなに自信なかったのにちゃんと実況やってるな。

「選手の入場です!まずはプロデュエリストになって3年、飛ぶ鳥を落とす勢いで大金星をあげる実力派!フロイ!」

フロイがスタジアムに入ってきて歓声が轟く。冷静沈着で表情を変えないからあいつが何を考えているかよくわからないけど、この光景を目の当たりにしてデュエリストの喜びを感じないはずはない、と思う。

「対するはプロになったのはつい先ほどですが、数々の激闘を制したその辣腕らつわんぶりは折り紙付き!ユーグ!」

名前が呼ばれたのでスタジアムに入る。フロイと遜色ないくらいの歓声。満足するのは早すぎるけど、自分の中の何かが熱くたぎるのがはっきりわかる。

もうこの気持ちは止められないぜ!

「ここに宣言する!俺はこの初陣でフロイに勝って、華々しいスタートを切ってやるぜ!これが俺の伝説の1ページだ!」

応援する観客、笑い飛ばす観客、反応は様々だ。エリアルは・・・すっげー恥ずかしそう・・・でも後悔はない。あとは有言実行するだけだ!


「お前の言う『絆』の力とやらが真実かどうか確かめさせてもらう」

「わざわざ先輩デュエリスト様がデュエルしてくれるなんて光栄だぜ!負けても吠え面かくなよ」

「お前に言われたくない」

「げっ・・・俺は泣いてないだろ!」

「ヘヴィメタとのデュエルで泣きそうになっていたのはバレバレだ」

「・・・・・フロイって実は俺のことよく見てるよね?もしかして俺の熱烈なファンだったりする?」

「くだらない冗談で茶を濁すな。デュエル前の会話は程々にしろ」

「へーい。すんませんでした、先輩」


「それでは二人の準備が整いました!デュエル開始です!」


「「デュエル!!」」


「先攻後攻はどうします?」

「挑戦者のお前からでいい」

「おっと、お優しいことで。それなら遠慮なく行くぞ!俺のターン!」

フロイのデュエルは何度か観戦していてだいたいの戦略はわかっている。この手札なら・・・


「俺はモンスターをセット!さらにカードを一枚伏せてターンエンド!」


「おおっと!ユーグはカードを伏せただけでターンを終えました!この伏せカードにはどんな策略が巡らせてあるのでしょうか!?」


「御大層な宣戦布告をした割には、ずいぶん凡庸な1ターンだったな」

「そいつはどうかな?ターンを進めてみればわかる」

「行くぞ」

その瞬間フロイから金色こんじきのオーラが現れる。これは・・・まさか・・・

「俺のターン、!!!」

「マジかよ・・・」





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