第2章 チームドランカード編

第9話 新天地「ドミネイト」 デュエルに支配された街

 デュエルスクール卒業後俺は生まれ育った町を離れ「ドミネイトシティ」に都を移し、ヘヴィメタさんがリーダーを務めるチーム「ドランカード(酔いどれ)」に所属することが決まった。チームメイトはヘヴィメタさん、ハーピィさん、俺の3人だ。ハーピィさんはヘヴィメタさんが卒業後すぐにチームに加わったデュエリストで俺より先輩だ。しばらくは二人で活動していたがヘヴィメタさんのヘッドハンティングで俺がチームに加わることになった。メンバーとの顔合わせもそこそこにチームを組んで2日後にさっそくチーム戦に出場、緊張したけどなんとか勝利を収めチームに貢献することができた。その後も強力なライバル達と何度も戦うことになるが3人で困難を乗り越えて勝ち星を挙げた。世間ではヘヴィメタさんのカリスマ性、ハーピィさんの華麗なデュエルと美貌、縁の下の力持ちのユーグなんて触れ込みで人気を博すようになる。あまりにも勝利を掻っ攫っていく様相から他のチームに嫉妬されて「チームバンデット」なんて揶揄されることもあった。デュエリストとしても名前が知れ渡りヘヴィメタさんの手助けもできて俺のデュエル道は順風満帆のように思われた。


だが、今は・・・

「だから!なんであそこで攻撃しちゃったのよ!?まだ罠を警戒して様子見してたほうがよかったんじゃないの!?」

「うるせぇな、俺にだって策があるんだよ!お前に何がわかるんだよ!」

「だいたい、なんで今酒なんか飲んでるのよ!まじめに作戦考えなさいよ!」

「俺は酒飲んでる方が冴えるんだよ!」

 デュエルスクールを卒業してから3年が経った。今日も試合で負けてミーティングの真っ最中だ。ミーティングなんて言ってもほとんどはヘヴィメタさんとハーピィさんの言い合いになっている。ここ最近はこんなのばっかりだ。所謂「スランプ」ってやつだと思いたい。それなら問題点さえ直せばいつかは抜け出すことができる。でも、こんな状態がもう3か月以上続いている。負けが増えすぎて今までチームを経済面で支援してくれたスポンサーからも見放されてしまった。

 はっきり言ってしまうと、ここ最近ヘヴィメタさんとハーピィさんの勝率は明らかに落ちている。特にヘヴィメタさんの勝率は3か月前まで8割以上あったしチームのリーダーとしてふさわしい戦績だったが、ここ最近は3割を下回っている。もちろんヘヴィメタさんだけが原因ではない。俺自身も今は勝率が若干落ちてるし、自覚がないだけでチームに精神的な負荷をかけているかもしれない。それに誰の勝率が低いなんて口論は無意味だ。俺たちは三人で一つのチームなんだからどんな問題も三人で解決しなければ意味がない。チーム戦は三人一組で一人一回ずつ戦い2勝したチームが勝利する方式。つまり俺一人が勝ってもヘヴィメタさんかハーピィさんが勝たなければチームの勝利にはならない。

 そしてこれはまだ2人には言ってないが、俺はある人から誘いを受けていた。3人でチームの活動をしていて。その人は俺が一人でプロデュエリストになるなら支援してくれると言っていた。当然俺は断った。せっかくヘヴィメタさんに声をかけてもらってチームに入ることができたのに二人を裏切って自分だけのし上がろうなんて虫が良すぎる。その人は「今のドランカードにいることは君の成長の妨げにしかなっていない」と断言していた。それでも、俺には二人を見限ることはできない。ヘヴィメタさんと約束したんだ。「一緒に強くなる」って・・・

「あんたほんとにリーダーの自覚あるの!?最近は酒の量が増えたみたいね!勝ち星は全然増えないのに」

「なんだとてめぇ!!お前だって最近は化粧が濃くなってきてるよなぁ!?デュエルの練習もしねぇでどこの男と遊んでんだか・・」

「なんですって!?」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて!勝つために作戦練りましょうよ」

「ほら、ユーグに迷惑かかってんだからしっかりしろよ」

「あんたこそ、そろそろユーグ君にリーダー譲ったらどうなのよ」

そう言いながらハーピィさんは席を立ち部屋から出ていこうとする。

「ハーピィさん!」

「今日はもう終わりにしましょ。これ以上話しても罵り合いになるだけだし」

「ほっとけよユーグ」

ハーピィさんはヘヴィメタさんを一瞥した後どこかに行ってしまった。


 チームに不吉の兆しが見えてることは明白だ。ここ最近ヘヴィメタさんは飲酒量が増えたし、無精髭が生えて目が窪みやつれているように見える。

「ヘヴィメタさん、酒はほどほどにした方がいいですよ」

空になったグラスに酒を注ごうとしていたヘヴィメタさんが一瞬俺の方を睨んだが酒を注ぐのをやめた。

「・・・・・ごめんな、ユーグ・・・最近こんな調子で・・・」

「謝らないで下さいよ。これはチームの問題なんだから一人で抱え込まないで下さい。勝負の世界に身を投じていれば負けがかさんで落ち込むことなんてよくあることですよ」

「そう言ってくれるのはありがたいが・・・俺にはもうわからないんだ・・・。デュエルも、人としての生き方も・・・」

「ヘヴィメタさん・・・・・」

俺には励ます言葉が見つからなかった。こんなに弱っているヘヴィメタさんを見るのは初めてだったから。

 俺にはヘヴィメタさんがハーピィさんを愛していることがわかっていた。ヘヴィメタさんははっきりとは言わないけど俺より長く一緒に活動しているこの二人にはきっと深い絆が結ばれている。だからこそ急遽チームに加わった俺に対してハーピィさんは快く迎えてくれたんだ。ここ最近の口論は互いに信頼しあっているからこそ思いの丈をすべて言葉にしているのだろう。今は負けが続いているから冷静になれないけど、落ち着いて話せばきっと分かり合えるはずだ。

「俺もうデュエル辞めようと思うんだ」

沈黙を破るようにヘヴィメタさんがつぶやいた。

「そんな・・・そんなの、嫌ですよ!俺はヘヴィメタさんに誘われてチームに入ったのに、これからどうすればいいんですか!それに・・今でもあなたは俺にとって憧れのデュエリストなんだ!こんな中途半端な所でデュエル辞めるなんて・・許せないですよ!!」

「ユーグ・・お前は強い。俺なんか頼りにしなくてもお前は一人でもやれる。それにお前には一人でプロになる話が来てるだろ?」

「どうして・・それを・・」

「これだけチームで抜きんでて優秀な奴がいれば引き抜いてくる人がでてくるなんて簡単に予想できるさ。俺からもそいつに話通しておくから、お前はチーム抜けて一人でデュエルしててくれ」

「ヘヴィメタさん・・・俺にチームを裏切れって言うんですか・・・」

「お前のこと裏切者だなんて思わないよ。ただ一人のデュエリストとして旅立つだけだ・・・」

「だったら・・・なんでそんなに悲しそうな顔してるんですか!?突き放すならもっと上手くやってくださいよ・・・」

こんな苦悶の表情を浮かべるヘヴィメタさんを俺が見捨てられる訳ないじゃないか・・・

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