第34話 side 足立さん。

 沿岸のキャンプ場、そこで昼食を終えた八組の生徒達は、帰宅のフェリーの時間までの自由時間に移った。


 残りは約三時間、気づけばあと半分だ。


 生徒たちは相当浮かれていたため、時間の経過を恐ろしく早く感じていた。

 そうして啓介達が島内部の観光名所の公園に言っている間、商店街には足立未来、進藤正人率いる別グループがいた。


 彼らは両助達とは逆に午前中に観光名所を回り、午後を商店街巡りにしたようだ。


「未来。こっちに行ってみよう」

「ちょっと待ってよ正人」


 基本的には進藤が舵を取り、残りが後に続くという形だ。

 他のヤツら、寺田てらだ雄心ゆうしん七坂しちさか義一よしかず新井田あらいだ陽菜はるな野田のだ明美あけみはその背後をウェーイと付いて行く。主導権を握られているが、別段気にした様子もない。


 初めて来た場所ということもあり、土地勘もない。

 むしろ立ち往生してしまうので引っ張ってくれる方が、都合が良かったのだ。


 両助達もそうだったように、進藤達も浮かれているようだ。


 寺田雄心、バスケ部のエースだ。持ち前の高身長を活かし、リング直下でチームを勝利に導くスコアラーだ。センター位置の人間なだけに押し合いに負けないようガタイもかなり良い。淳也にも負けないほどだ。


 七坂義一、サッカー部の一年生№2だ。普段はチームの指揮官を務めている。彼には振動のようなリーダーシップは無かったが類稀なる戦術眼があった。知的に尖った目じりが何とも特徴的な人物だ。中学時代は相手陣営のあまりの戦力の弱体化から、何をしたんだと選手が聞かれたところ「これと言って特別なことはしていない。ただ足りないと思ったところに助言と共に人を投入しているだけだ」と言った。確か、入学式の日も新入生代表に選ばれていたため頭は非常に回るようだ。


 新井田陽菜、シュシュで結われたサイドテールがポイントの活発な女子生徒、とてもフレンドリーな子だ。距離関係も以上に近い。ボディタッチは当たり前、だが持ち前の明るさでそれが目立たずいい塩梅で自然体に見えることは凄いと思った。まあ、それで勘違いする男共は可哀そうであるわけだが…南無……。


 野田明美、知らん、なんも情報がない。あまり表に出てこないから、何が特徴なのかもわからない。見た目は進藤達と共にいることからレベルは高いが、帰宅部なのか部活の入っているのかはまだ不明だ。


 進藤に連れられた五名は、巨大なそれの前に行く。

 そこはここでは有名な写真スポットらしい。彼らがそこに駆けこんだのも当然で、とにかくそれは目を引く。何を言おう、両助達も撮ったものだ。

 進藤達の前ではそれは巨大なしゃもじのオブジェがあった。

 この街も名産であるからそれを推してきているのだろう。


 進藤の「記念に撮ろ撮ろ」という提案に皆がその前に並び、思い思いのポーズをとる。通行人に写真の撮影を依頼し、進藤が戻ってきたところで通行人がシャッターを押した。


 なんとも素晴らしい青春だった。彼らは男女の垣根など軽々と超えて互いに友情をはぐくんでいた。


 写真を撮る時、進藤の横にいた足立は顔真っ赤にしていた。なぜなら進藤が彼女の肩を抱き寄せていたからだ。

 だが彼女もそれは自分でも自覚していたらしい。直後には無表情に戻っていた。もったいない。恥ずかしがらずに進藤に見せたらワンチャンあったかもしれないのに。


 進藤も男だ。ならその性には抗えないはずだ。

 しかしここでは羞恥心が表に出たようだ。


 足立さんの変化は気付かれず、一同はそのまま商店街の奥地へと進んだ。

 彼らはその後、商店街各所を巡りながら昼食後のデザートを食べようという事で偶 然通りかかった茶房に入っていった。


 そこはゆるキャラモチーフのスイーツが多く、女性陣が「かわいい」と好評だったのが理由だった。そうして入店して席に座った。

 店自体は木製の作りだ。神社が有名な島だから和の様式に合わせた建物だ。

 キャラ名が書いた看板もひらがな漢字表記だった。

 店内で注文をして待っている一同の前に各々が頼んだものが運ばれる。

 そこに置かれたのはパフェにフルーツ盛り、それとぜんざいだ。


 届いたパフェに女性陣はスマホのシャッターを切る。

 パフェの中央にはキャラアイスが乗り、下部からゼリー、フルーツ、スコーン、クリーム、頂点にはキャラアイスとは別の通常のアイスと映えを意識した皮切りの果物に加えて鳥居の形をした板チョコが乗っていた。


 だが見た目の凄さは他も負けていない。フルーツ盛りはとにかく彩り豊かで瑞々しさは自然と口内に広がり、食していないにも関わらずこちらを清涼な気分にさせる。徒歩で熱を灯った体にはとても気持ちがいい。


 ぜんざいは小豆と砂糖の香が漂い、酔ってしまいそうだ。だが、ただ冷えたぜんざいではインパクトが少ない。そのためその上にはキャラ顔のバニラアイスが置かれていた。


 バスケ部の寺田が持ってこられたフルーツ盛りにフォークを伸ばしたら、その顔を横から新井田さんにむんずッと掴まれ阻まれた。どうやら彼女は写真を撮りたかったようだ。


 そうして様々な画角から撮影を終えた女性陣を確認した男性陣はやっとそれに手を付けることが出来た。

 曇り空や雨空よりかは確実にマシだが、今日は日差しが強すぎる。しかし、これのおいしさを最大限に感じることが出来たので良かったのかもしれない。


「わあ!これおいしい!義一、あ~ん」


 パフェの一部を食べた新井田さんがそう言って七坂の口元にスプーンですくったアイスを差し出す。

 それに七坂義一は気にした様子もなく、自然とスプーンに口をつけ「おいしね」と一言。


「⁉、ま、正人!」


 それを見た足立さんは躊躇いながらも横に座る進藤正人に新井田さんと同じことをする。

 進藤は「くれるの?」と言った後、足立さんはこくりと頷く。

 それを確認した進藤は、少々照れながらもそれを戴いた。

 さすがの王子様、進藤正人もこれには羞恥を感じた。お互いに甘酸っぱい雰囲気が流れる。

 それに残り二人(一人)も便乗しようとする。 


「明美、俺にもくれ」

「ん」


 こちらは特に恋愛的な感情は見受けられず、ずいっと寺田の口にねじ込んだあと、己が食事に戻る野田さんであった。

 一同は青春成分を店内に散布させる。

 彼らが高校生ではなく大学生であったなら乱交してるグループだろう、薬盛る系の。(作者の感想です)

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